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ヒカルの大人のメルヘン、「母ちゃん、オレだよ、オレ !」

2015/03/02 18:35
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 ダイタロウは母の病気見舞いへ行くことにした。
 この前にも母の見舞に行ったんだが、母の病状は優れない。 
 母は広いリビングで何につまづいたのか、転んで右腕を折ってしまった。ケガが意外にひどく四か月も入院。ふだん元気で、病気一つしたことがないのが自慢の母。腕の骨折で、骨が弱くなっているのが分かり、転倒が骨折につながる体質になっていた。息子のダイタロウは医師から聞いてショック。母は知らないうちに歳をとり、体ももろくなっていたのだ。          
 母の方がショックだったらしく、ケガの治りが遅い感じだ。息子が見舞いに来ても、あまり会話をしない。放っておいても賑やかに話しかけてくるのに、それが少なくなる。なんだか表情がなくなり、ダイタロウはちょっと不安。医師に聞いてみると、軽度の認知症を併発しているといった。
 さあ、どうなる !
 ダイタロウは固唾を飲んで母を見守る。だが段々と笑顔を取り戻してきて、このごろでは自ら話しかけてくる。ヤレヤレ !
 ダイタロウは一安心。
 笑顔がとても母には似合うのだ。

 ある日に見舞いに行ったダイタロウは、それまでヘルパーさんの若い女性と賑やかに話していた母が、現れた息子にケゲンそうな顔で、
 「------ あのう〜--- どちら様でしょうか !」
 ダイタロウは母の冗談だと思い、
 「ハイハイ。わたしは母ちゃんの息子のダイタロウですよ。ダイちゃんですよ」
 こんな返事に、大笑いするはずの母が、
 「------ あたしの息子ですか ?------−」
 母は真顔でダイタロウをシゲシゲと見ている。
 おやっ!
 なんだかようすがちがう !
 ダイタロウは土産に持ってきた母が好物のタイ焼きの袋を、近くの小さなテーブルに置く。母につき添っているヘルパーさんのクミちゃんを ?の顔で見る。ヘルパーのクミちゃんは、
 「お母サマは、二、三日前からものわすれがひどくなっているんです・・・・・・」

 とつぜんやってきた母の強い認知症。息子のダイタロウの顔を忘れているらしい。フシギなことにダイタロウの顔だけ忘れていて、いつも顔を見せるヘルパーのクミちゃんや、妻のハナエは忘れられてはいない。ときどき仕事の休みに、短い時間だけ顔を見せるダイタロウが、だれなのか思いだせないのだ。

 ダイタロウの頭の中が真っ白になる。
 オイオイ、冗談だろう  !
 悪い夢ならすぐに醒めてほしい !

 ダイタロウの必死のねがいも空しく、母の認知症の度合いは進んでいった。
 救われたのは、母の記憶が遠のいたのはダイタロウに関してだけ。妻のハナエは頻繁(ひんぱん)に、母を見舞っていたので母の記憶がなくなるヒマがないのかもしれない。
 ダイタロウは仕事のツゴウで、そうそう母を見舞うわけにもいかない。失われている母の記憶へ、何とかとりつこうとするのだが、空しかった。

 母はある日に、見舞うダイタロウへ、
 「タロウちゃん。あんたがどうしてここにいるの ?」
 とつぜん、話題を変えて母が聞いたのでダイタロウは面食らう。
 母が亡き父のゲンタロウとかん違いしているらしい。ダイタロウは歳をとるにつれて、亡き父にそっくり。息子は女親に似るといわれているが、ダイタロウは父に似て瓜二つ。
 母は、
 「あたしは、この前にタロちゃん(母は、父、ゲンタロウこう呼んでいた)は亡くなったと思ったのに、どこへ行っていたの ?なんだか若々しくなって、ギョッとするわ」
 ダイタロウはドギマギして母を見る。もうまちがいない。母はダイタロウを亡き夫に似せて見ているのだ。
 そばにいた妻のハナエが、ダイタロウへそっと耳打ちして、
 「あなた。母さんの『タロちゃん』として、話しかけに応えてちょうだい。きっと喜ぶわ」
 ダイタロウはドギマギしながら、小声で、
 「オイオイ、冗談だろう。オレは息子のダイタロウ。亡くなった父さんではないんだよ」
 「でも、あなたはあまりにも亡き父さんに似ているので、母さんは混乱しているのよ。母さんの記憶を辿るのに、あなたが応えてやるのよ。母さんは、遥かな記憶をたよりに、あたしたちの元へ帰ってくるかもしれないじゃない」
 「そ、そんなもんかねぇ」
 ダイタロウは亡き父の口ぶりを真似て、心もち顔を歪め、
 「・・・・・オ、オレは、そのぅ−−−−ちょっと遠い場所へ行っていたもので。で、でも、オレはそんなに若々しいか ?」
 母はじぶんの手を見て、それからダイタロウの手を見て顔を見る。ため息を吐きながら、
 「あたしは、いつの間にか歳をとったわ。息子のダイタロウの孫が小学校へ上がって、かわいい盛り。その分、あたしが歳をとり、シワだらけ。くらべてあなたは、まったく若々しい。
 ------思いだすわぁ。あたしたちは若かった。若いタロちゃんはステキな男。あたしたちは恋をして、結婚して、子供たちが生まれた。息子のダイタロウが小学生のころに、ダイタロウの妹、サチコがインフルエンザで亡くなってしまったわねぇ。それからタロちゃんは変わった。少し乱暴になった。あたしたちは大ゲンカをして、そしてタロちゃんは家を去った。でもタロちゃんは数年経って、あたしに頭を下げて家へ帰ってきたわね。それからのタロちゃんは、まるで借りてきたネコ。乱暴な影がまったくなくなり、ダイタロウの良い父親であり、あたしの良い旦那さんになったわ。
 それから、それから、タロちゃんは-------心筋梗塞で虹の橋を渡っていった。
 何年になるのか、息子のダイタロウが成人して、会社の重要な仕事を任されるまでになったわ。そんなところもタロちゃんに似てあたしは肩の荷が下りた思い。
 あたしは、そんな思いで息子のダイタロウをずーっと見ていたのよ。
 あなたが亡くなってから、あたしがどれだけ空虚な思いだったのか、あたしがそちらへ行ったら、ゼヒゼヒ、話したいと思っていたのよ。
 あたしは、できたらすぐにも虹の橋を渡ってみたい。べ、べつに死に急ぎたい思いはないのよ。で、でも、あなたは虹の橋の向こうにいる。遥かな遠い場所にいるのよ。
 フシギねぇ。あたしの思いが通じたのか、タロちゃんはここにいる。
 --- --- あたしは今、ちょっと疲れてきたわ。少しだけ居眠りをしたい。次に目が覚めたときに、あたしはタロちゃんと一杯、お話しがしたい。待っててちょうだい !」
 ダイタロウの母は、眠そうに目をつむり、ちらっと目を開けてまた『タロちゃん』の姿を探す。だがスヤスヤと寝息を立てて眠りについた。ダイタロウはぼう然として部屋を出ると、廊下に立ち止まりはげしく嗚咽(おえつ)する。
 母の心に籠っていた思いを、息子は聞いた。
 毅然とした母から、こんな話を聞いたことはない。気丈な母の内面の心が、認知症になってから息子の前にさらけ出たのか。いや、息子ではなく『タロちゃん』という亡くなった旦那さんに、さらけ出したらしい。
 次に母が目が覚めたときに、ダイタロウは怖い。どうしたらいいんだろう。ダイタロウは涙を拭くと、ハナエと向き合い、
 「ハナエ。オレはどうしたらいい ?」
 ハナエも泣きながら、
 「母さんの思いのままに、お話をしてちょうだい。あたしはそばにいますから」
 「そ、そうか。オレはあんな場面でどうしたらいいか、まったく分からない。オレを助けてくれ」
 「あなた、大袈裟だわぁ。とにかくダイちゃんとして、あるときは父親になり、あるときは息子として接すればいいのよ」
 「ハ、ハナエ。まるで母ちゃんみたいだなぁ。でも、頼むよ。い、いや、お願いします。ハナエさん」
 「ハナエでいいのよ。聞き慣れない呼び方をされると、調子が狂っちゃう !」
 どうやら母が目を覚ましたらしい。タロちゃん、と呼ぶ声がする。ダイタロウは亡き父のように、背筋を伸ばし顔を少し歪めて、それから母の部屋へ入っていった。

 (認知症になって、性格がまるで変ってしまう人を見たことがあります。おそらく心に被せていた衣を、自分の意のままに脱いだのかもしれませんよ)

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ヒカルの大人のメルヘン 「クニコと作った川の流れを求めて !」

2015/01/11 13:21
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 六十を半ばこえてヒロミツは、体の休養に努めていた。妻のクミコを失い虚脱(きょだつ)した思いが強く、満足に仕事ができないので会社は定年で退職。妻を失ってこれほど体も心も急に萎(な)えてくるとは考えもしなかった。妻を失った同僚の話を聞いていたが、気にかけてはいなかったのだ。
 体があきれるほど弱くなり、カゼを引くし何をしてすぐに疲れる。ヒロミツは鉄の体を持つと自負していたのに。

 妻のクニコが生きているときは、二人でよくよくレストラン巡りをやったもの。クニコがまるで少女のように喜んで、レストランで過ごすのをヒロミツは愛でていた。
 妻が亡くなり、何もかも一人でするようになって、あれほど食欲旺盛だったじぶんではないのを知る。
 それでもヒマなときは、というよりたまに食欲があるときは、レストランへ行く。だが何を食べても旨(うま)くない。あまり食べられない。一人でする食事がこんなに味気ないとは !
 
 ヒロミツは街の繁華街を、賑やかさを求めて、フラフラ。
 今日も天気がいいので、町を歩くことにする。歩道には人々があふれかえっていて、自転車がわがもの顔に走っている。ヒロミツが大げさにイヤな顔を向けると、自転車に乗った人は顔をそむける。中には挑発的な顔で、睨(にら)みつけてくる若者もあった。ヒロミツはジマンの筋肉質な体を怒らせて、胸を張って見せると若者はこそこそと逃げる。歩道で、スピードを上げて走る自転車に、困ったものだとヒロミツはため息。

 ヒロミツはなぜなのか、このごろ体がフラフラする。もう歳なのだと納得しているのに、どうしても老いたとは認めたくないじぶん。
 ヒロミツは、不意にある花屋の前で、自転車に後ろからはげしく追突された。ブレーキの音とぶつかって、じぶんを追い越し街路樹に当たる自転車を見た。自転車の男は街路樹にぶつかる前に、ヒラリと降りる。若者のような感じだったが、ヒロミツがその場にうつ伏せに昏倒(こんとう)すると、慌てふためいて走り去る。バタバタとクツ音が遠ざかっていくのを、ヒロミツは聞いた。

 しばらくしてヒロミツは、全身の痛みに目覚めた。頭部が包帯で包まれていて、肩から胸にかけても包帯が巻かれていた。ヒロミツは自転車に追突されて、歩道をころがった記憶がある。花屋の前で鉢植えの花が街路の木の下にも、何個かおかれていて、ヒロミツは転がりながら鉢植えも巻きこんだと思う。目の前にカラフルな花びらが、ヒラヒラと舞っているのを見たから。
 自転車の男が逃げていく足音を聞きながら、フシギな静けさが訪れてヒロミツは、その中へ沈んでいくのを感じた。

 ヒロミツは明るい病室にいた。
 ベッドに寝かされていて、半開きのドアのむこうの廊下から、あわただしく行きかう人々の足音と、会話をする看護師か医師たちの声を聞いた。ヒロミツの病室に看護師の姿がないのは、廊下の向こうへ駆りだされているのだろう。
 ヒロミツは体の痛みにうめきながらも、ソロソロと起きあがる。何か着物を着ようと考えたのだ。ヒロミツが着ていたジャケットとズボンと、病院用の寝巻が、枕元の小さなテーブルに置かれている。ヒロミツは寝巻にソデを通し、ズボンを穿(は)く。ジャケットを羽織って大きく呼吸をする。ケガは上半身に集中しているようだ。

 ヒロミツはゆっくりとベッドから降りてみる。
 スリッパがあったが、じぶんのクツが近くにあったので、クツを履く。それからソーッと半開きのドアから廊下を覗く。大勢の病院関係者が廊下を往来する。中にはチラッとヒロミツに目を留めた看護師もいたが、運びこまれたケガ人につき添っていく。大きな事故があって、ケガ人が多数、病院内へ運びこまれてきたらしい。

 ヒロミツはフラフラと廊下へ出ていった。
 廊下から病院の玄関まで、だれ一人ヒロミツに注目する人はいなかった。 ヒロミツは街路へ出て、それから当てもなく歩きはじめる。
 ヒロミツは傷の痛みがダンダンと、増していくのを感じる。 ヒロミツは、じぶんがだれなのか分からないでいた。
 ジャケットのポケットをまさぐる。ジャケットの内側の深いポケットに、現金だけが入った長財布があった。開いてみたが、数枚の一万円札と二、三枚の千円札だけ。現金だけが入った長財布で、じぶんを証明する運転免許所などは入っていなかった。おそらく着ていたシャツの胸ポケットに入れた、普通の財布にあると思う。病室にないということは、ケガ人の身元調べに、病院側の事務局であずかっているらしい。
 ヒロミツはもう一度、ジャケットをまさぐる。やはり何もなかった。
 ヒロミツは街路の雑踏の中で、とほうに暮れ立ちすくむ。
 そうだ家には息子がいるはずだ。仕事をリタイヤしてから病弱になったヒロミツの世話をする、クニコという息子の嫁さんもいた。
 待てよ !
 クニコという名は自分の妻の名前で、息子の嫁さんの名前ではない。だがクニコという妻の名前が、ダブって思いだせない。息子の嫁さんは、このごろ家にやってきた。そうだ !
 結婚したばかりの息子だった。
 名前がダブルということは、嫁さんは妻のクニコに似た名前だろうか ? それとも顔つき ? 性格 ?
 ヒロミツはしばらく考えていたが、つかれてきた。それに腹が減ってきた。あたりを見まわすとコンビニが見える。
 ヒロミツは重い足取りで、コンビニへ入る。
 アンパンと二個のおにぎりを買い、缶ビールを買った。それらを小さなビニル袋へ入れてもらい店を出る。ヒロミツは雑踏に溶けこんで、コンビニから近い公園へ歩いて行った。

 ヒロミツは公園のベンチに座り、さて、これからどこへと考える。住んでいた場所の記憶が失われている。家には息子と嫁さんがいて、息子たちにまだ子供がいなかった。ヒロミツは、ウロウロとあたりに目を這(は)わす。
 ヒロミツが抜けだしてきた病院は大病院であった。あんな大病院が住んでいたいた近くにあったとは。ヒロミツが運ばれた病院は、どこかの町の郊外だった可能性がある。
 ヒロミツは為(な)す術(すべ)もないじぶんに、とほうに暮る。
 じぶんが帰る家を思いださない。ということは、帰るべき家がないということ。息子の顔が記憶の中におぼろににじんでいた。知り合いの人々の顔が霧の中。住所がまったく思いだせない。
 それでも、断片的に思いだすのは、亡き妻のこと。妻は家庭を守り気弱な夫を励(はげ)まし、いつも明るかった。
 ピンクの菊の花がクニコによく似合う、と思いついて写真に収めたのを思いだす。それが入っている財布はケガの治療で、シャッごと取られて病室にはなかった。
 日が暮れはじめて、ヒロミツはじぶんの寝る場所の心配をはじめる。

 ¶  半年が過ぎてヒロミツは、ホームレスの仲間に入っていた。
 ホームセンターで安い寝袋を買い、持ち運びながら、場所があればホームレスの仲間たちと眠る。リタイアする前のヒロミツは、駅などで見かけるホームレスの人々を軽蔑(けいべつ)して、
  -------あいつら、精神がおかしいンだ。街の建物の影に着の身着のまま、眠れられるのはすでに精神の神経が狂っているから---------
  だが、イザ、じぶんが雑踏の中で建物の影に身を休めてみると、平和な感じでよく眠れた。
 ホームレスのナカマと暮らしてみて、気がついたのは、時間の経過。というより、一日の時間がとても長いということ。明日は明日。とりあえず、オレは今夜は、どこでもいいからゆっくりと眠りたい。
 
 年末が近づいてきて、肌寒くなってたきた。
 ヒロミツは街の駅をウロウロ。駅の近くのショーウインドーのガラスに、ジブンの姿が映っているのが見える。頭に大きなケガの痕があり、どこで都合したのか冬物のオーバーコートを着ていた。コートは薄汚れていて、ダンディーだったヒロミツの面影はまったくない。顔には無精ヒゲが伸びていて、やせて貧相なヒロミツの顔を隠している。息子が見ても、ヒロミツを「父さん」だとは思わないだろう。ヒロミツはニヒルに笑った。ショーウインドーに映ったわが姿 !汚れたコートに身を包み、無精ひげで人相も変わった。これが今のじぶん。
 ------まったく、オレは、いったい何者なのだ !-------
いつも自問自答するのだが、だれも答えてはくれない。
 一つだけ、ヒロミツの心に寄り添う、影があった ! クミコという、今は虹の橋を渡ったむこうの世界にいる妻の白い影 !
 人が見るとホームレスの男が、独りで話し独りで笑い、独りで怒っている、と思うにちがいない。
 
 ある日の午後、寒い時期にしては暖かな日であった。クニコの白い影が、
 --------あなた、お盆が近いのよ。あたしが眠っているお墓を参りましょうか ------
  そういえばクニコのお墓へお参りを忘れていた。いや、かすかだがクニコのお墓を参った日々が思いだされる。だがクニコのお墓はどこに ?
 クニコはクックックッと笑った。少女のような若々しい笑い声。
 ------さあ、あなた。あなたは駅で切符を買いましょうか。あなたはいつもお墓参りをしていたのよ。花屋さんであたしのスキな紅いバラや、ピンクの菊の花を買って、ロウソクも買ったわ。ロウソクはケーキに差しこむ、カラフルな誕生祝のロウソク------
 「な、何だ。誕生祝のロウソクって ? 」
 -------あたしがもう一度生まれ代わって、逢いにきてほしいと、ムチャな望みのロウソクなのよ------
 「........!」
 
 ヒロミツは駅から、郊外線の電車に乗った。
 ヒロミツはごく自然に、クニコのお墓がある墓苑行の電車に乗る。体は降りるべき駅でスムーズに降りる。
 -----あなた。あたしがいわなくても、お墓の場所を知っているじゃない------
 「......オレはフシギなことに、体が勝手に動いて切符を買ったんだ。体がなつかしい場所だと感じて、駅を降りたんだ」
 --------あなた。もしかして記憶が戻ってきてるのかもしれないわ------
 「うん。オレも、それを感じている。でも、まだまだ記憶は戻っていない。オレはだれなんだという思いと、オレの家が思いだせない」
 
 ヒロミツはクニコの白い影に誘(いざな)われることもなく、広い墓苑(ぼえん)の中からクニコのお墓をさがし当てる。ヒロミツの心からクニコの白い影が消えた。
 お墓は雑草が生えていた。どちらかといえばマザコンだった息子たちは、亡き母を求めて悲しみが強く、父のヒロミツの手を焼かせたものだ。だがお墓のソウジはしたことがなかった。お墓がこわいというのだ。亡き母がそこに眠っていることに、息子たちはこわかった。物言わぬ母は良いにつけ悪いにつけ、ただ黙って見ているだけ。生きていれば温かさがあるのに、亡き母にはそれがない。モンスターのような感じが、石の下にあると息子たちはいう。フシギな論理(ろんり)に父親のヒロミツは笑いながら、
 「とにかく、ひまがあれば母さんのお墓をソウジしろよ」
 だが息子たちが母のお墓をソウジした形跡はなかった。
 
 そんなことを思いだしながら、ヒロミツはお墓に飾る花がないことに気づく。あわてて墓苑の入り口に数軒ある花屋へ。年配の女店員が応対にでた。女店員はおどろきの目でヒロミツを見ている。ヒロミツはむぞうさにピンクの菊を二束注文する。ウス汚れたコートを羽織り、濃い無精ヒゲなので、人ちがいかと思ったが、店員はヒロミツの独特の低い声が、忘れられなかった。花束を手渡しながら、
 「アノーっ、クニコさんのお墓参りですよね ?」
 「ああ、そうだよ。雑草だらけで、これからソウジして花を供えようと思ってね」
 ヒロミツは花束を小脇に抱えて、女店員を見る。この人はクニコを知っている。こわそうにオレを見た。ヒロミツはじぶんの姿を店のガラス窓で見る。どう見てもウス汚れた男。この無精ヒゲでは恐れをなして話しかけられないのだろう。だが一つだけ、明るい事実ができた。ついにヒロミツを知る人物が現れたこと。しかし、現れたことでヒロミツの問題が解決するとは思えない。ヒロミツはこの年配の女店員を思いだせないでいるから。

 クニコのお墓へ取って返すと、ヒロミツはソウジに精をだす。雑草を引き抜き、石塔を手桶の水で洗う。ワレながら慣れたもんだ。
 それからお墓の備えられた花びんにピンクの菊の花を飾った。お墓はきれいになった。
 ヒロミツはピンクの菊を見ていたが、石塔の前にどっかと、胡坐(あぐら)をかいて、
 「クニコ。いまのオレは、だれなのか記憶がないんだ。オレはフシギなことに、お前の記憶だけが完全には失われていない。 
 このピンクの菊が好きだったクニコ。キレイだよ !
 今でもきれいだと思う。オレを見てくれ。オレはウス汚いコートを着て、町をうろついている。歳をとったオレに、身分を証明する何ものもない。街の有志の人たちから、毎日の糧(かて)をもらって何とか生きている。
 オレは失われたお前の影を求めて、これからも生きつづけなければならないのか。お前は美しい虹の橋を渡って、オレの届かない場所へ行った。
 クニコ !
 オレも虹の橋を渡りたい。すべてを失い、とほうに暮れているオレは、もう死んでもいいか ?
 クニコ。
 オレはもう死んでもいいか ?」
 ------ダメよ !----
 石塔のむこうから、凛(りん)たクニコの声がした。同時に石塔を回って、白いロングドレスのクニコが現れる。
 -------コラッ !ヒロミツ。なんてことを言うの !死ぬのはあたしが許しません !あなたは、あたしの愛のために、生きつづけるのよ。あたしとあなたの愛のために、二人の「息子」という命が生まれている。後ろを見てちょうだい。あなたを知る人の知らせで、あたしたちの命が走ってきているのよ。事故で失踪したあなたをさがして、死ぬほど心配している息子たちなのよ。この前に息子のお嫁さんのクミエちゃんが、あたしたちに孫の男の子を生んでくれたわ。あたしたちが作った命の川の流れを、あなたが死ぬことで止めないでちょうだい--------
 クニコのはげしい言葉に、ヒロミツは後ろを振り返った。墓苑の入り口方向から、二人の若者が、転げそうな勢いで走ってくるのが見える。
 ------見てちょうだい。行方不明になって一年以上も経つ父親のあなたを、迎えに来た息子たちの姿を。息子たちはあたしたちの命の川の流れを、引き継いで流れていく、大河なのよ。あなたの命が尽きるまで、生きつづけてほしい、あたしの願よ-------
 クニコの姿が石塔の影に消えると、立ち尽くすヒロミツへ息子たちが抱きついてきた。
 「と、父さん。どこへ行っていたんだよー」
 「父さん。父さんには帰る家があるんだよ。空っぽにしないでくれよー」
 息子たちは、交々に泣きながら言いつづける。


 (記憶をなくしてさ迷う父は、奥さんと作り上げた川の流れを、探し当てたでしょうか。記憶をなくして万を超す老人たちが、施設などで暮らしているとか)
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 大人のメルヘン、子供の情景「 去年の夏に・・・」 光

2014/12/31 18:32
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 サラちゃんは、母さんの年の離れた妹のヤエさんが大すきでした。ヤエさんは、トツゼンにアジアへ旅にでてしまいます。石油が取れる国や、紛争のある国々で、英語もあまり通じない地域だそうです。当然にお姉さんである母さんや、サラちゃんの父さんも反対します。ぶじに旅行できればいいのですが、事件や事故へ巻きこまれれば大へん。
 でも、ヤエさんは笑って、
 「あたしは日本ではない異国を、どうしても旅行したい。あたしを見つめなおしてみたい、どうしても行きたい」
 父さんとおばあちゃんがヒソヒソと、
 「ヤエちゃんは、男にふられたのでヤケになって外国旅行よ。困ったもんだわ」
 ヤエさんが男にふられたのは、初めてではありません。ヤエさんは亡くなったおじいちゃん(ヤエさんの父さん)に似てとても気性のはげしい女性。どうしたことか、ヤエさんの相手の男性はいつも気の弱い性格ばかり。サラちゃんの父さんが、男と女がカップルをえらぶときは、いつも反対の性格なんだよ。でも、ヤエちゃんに合う男性は大変だ、といいました。何が大変なのかサラちゃんにはわかりませんが、おばあちゃんが、
 「サラちゃんが大人になって、ステキナ女性になったときにわかるわよ」
 サラちゃんには、ヤエさんがとてもステキな女性に見えます。大きくなったら、きっとヤエさんのような女になるんだ、と胸をふくらませていました。
 トツゼンに、ヤエさんが旅行している外国から悲しいしらせが。ヤエさんの乗ったバスが事故をおこし、何十人もの人が死んだとか。その中にヤエさんの名前がありました。ただし同じような名前がもう一つ。どちらも若い女性で、もしかしてサラちゃんの大すきなヤエさんではないかもしれません。なにしろ英語も正確には通じない外国のイナカで、おまけに事故の被害者の品物を盗む人々もいるとか。身分を証明するパスポートも盗まれているそうです。

  二、三日後に事故の新し知らせが入ってきました。ヤエさんは生きていて、見知らぬアジアの女性が、ヤエさんの名前を偽ってバスに乗っていたとか。当のヤエさんがおばあちゃん(ヤエさんの母さん)へ国際電話をしたことで、サラちゃんや母さん、父さんは大喜び。くわしく聞けば、泊まっているホテルで大事なものが入っているカバンを盗まれたとか。カバンを盗まれたことで、ヤエさんは危うく命が助かったようなもの。おばあちゃんはさっそく、お仏壇に喜びのお経を長いこと唱えていましたよ。サラちゃんも神妙におばあちゃんのお経につき合っていましたが、足が痺(しび)れてやめてしまいます。痺れた足を引きずって歩くサラちゃんに、父さんの笑うこと笑うこと。母さんが父さんのお腹のあたりを、つねるのをサラちゃんは見ています。まったく、父さんは娘のひどい様子を見て笑うなんて。
 とにかく、ヤエさんは、無事に日本へ帰国。
 外国へ旅行して失恋の痛手を癒(いや)そうとしましたが、現実はいがいにきびしいもの。心の痛手を治すのは、なにも外国でなくてもいいはず。そのことをいったのはサラちゃん。小さなサラちゃんに必死にいわれてみて、ヤエさんは目を丸くします。サラちゃんは本当に必死でいったんですよ。大好きなヤエさんが死ぬのは、考えられないし、うまく言葉には言いあらわせない淋しさに心が震えたんです。
 
 ヤエさんは、以前のように会社に勤めはじめます。
 新しい恋をしようと、カラ元気を出して楽しそうにしていますが、ときどき見せる淋しそうな顔。サラちゃんは、
 ------恋に破れると、女はなぜ淋しそうになるのかしら ? ------
  おばあちゃんに、ある日こっそりとサラちゃんは聞きます。おばあちゃんは、
 「いい質問だわねぇ。女にかぎらず男の子でも、失恋は心に大きな痛手をこしらえるものよ。男と女には、たがいに相手を必要としあう、大きな力がはたらくのよ。神様が人間に与えた、新しい命を生み出す力。その力は互いに異性がいないと命が生まれない仕組みになっている。数々の小説に書かれている恋愛は、まあ突き詰めていえば男と女が子供を作る儀式を、面白おかしく描いているのよ。作文の上手なサラちゃんは、将来に小説家になりたいとか。よく覚えておいてね」
 ウーン!
 おばあちゃん。孫娘にえらくむずかしい恋愛講義(れんあいこうぎ)。サラちゃん分かっているのかなぁ。
 おばあちゃんの説明を、サラちゃんにはまだまだ分からないことがありました。で、リビングで紅茶を飲んでいる父さんに、何気なく聞きます。父さんは飲んでいた紅茶を噴きだして、それからシドロモドロ !
 「タクーッ、おばあちゃん。サラはまだ小3の女の子。ふたりの小さな弟の面倒をよく見るお姉ちゃんだけど、恋愛の話はまだまだ !」
 そばで二人の話を聞いていた母さんは、笑いが止まりませんでした。サラちゃんの話しが面白かったのではなく、父さんが娘のトツゼンのマセタ話に、紅茶を噴きだしたシーンが笑いを誘ったもの。でもねぇ、娘は、まだ小さいと思っていても、いつの間にか女への道を歩いているんですねぇ。

 去年の夏には、サラちゃんはきれいな水着を買ってもらいました。じつは水着はヤエさんからで、ヤエさんの友だちが開けているお店で買ったもの。少女が特に気に入った青い水玉模様の水着で、プールや浜辺などでそれを着ていると、同年配の男の子がかならずふり向きます。小さな妖精のような感じの、水玉模様の水着のサラちゃん。男の子たちの視線をあびて、
 -----あたしが大きくなったら、あたしをスキになってくれる男の子がいるかしら !---
 ゆっくりと品定めをしましたが、どうも今一ですねぇ。ちょうどヤエさんが一緒していましたが、サラちゃんを見て、
 「サラちゃん。あんたは大きくなったら、あたしを凌(しの)ぐ美人になるわ。覚えておいてね、サラちゃんが男の子をスキになるンじゃなくて、男の子たちにスキになってもらうこと。じぶんからスキになると、女は損だわぁ。色んな面で損なことを、あたしは身に染みて分かったような気がする」
 しみじみとヤエさんは、サラちゃんにいいました。



  皆様、ご機嫌いかがでしょうか ?
 PCが新しくなりましたので、ヒカルは恐る恐るブログを始めました。何とか蹴られることもなく、無事に載せられてヤレヤレというところです。
 新しい年を迎えられて皆様には、今年もたくさんの御多幸と、御健勝であることを望みます。またヒカルは「大人のメルヘン」をつづけていこうと思います。皆様、宜しくお願いします。
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 大人のメルヘン、子供の情景「父さんの夢」   光

2013/08/25 22:47
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 父さんはタクマちゃんが幼稚園の年長さんの時に、母さんと離婚し家をでていきました。今ではアメリカではたらいているとか。
 タクマちゃんが小学へ入学するときに、アメリカから帰ってきます。父さんとして、入学式へ参列。タクマちゃんとはとても、なつかしそうにしていましたが、離婚した母さんとはヨソヨソしく、二人とも目を合わせないようにしていました。タクマちゃんにもわかりましたよ。二人はもうヨソの人。タクマちゃんがどんなに望んでも、元にもどることはないんです。
 父さんが母さんとなぜ離婚したのか?
 おばあちゃんが、
 「けっきょく、ツヨシさん(タクマちゃんの父さん)は、夢をもとめてアメリカで暮らしてくれない、タクちゃんの母さんがキライになったのよ。ツヨシさんは、おばあちゃんにいわせると、できもしない夢ばかり追う男。男には叶えられない夢と、そうでない夢があってね、それに家族を引っぱりこむことは許されないの。言葉もわからないアメリカ、何の伝手もないアメリカ、ただ夢だけをもとめていくには、狂気(きょうき)としかいえないわ。タクちゃんの母さんの思いが、父さんには伝わらない。しかたがなかったのよ」
 でも、父さんは、現在小3になったタクマちゃんや、妹の小1のサチエちゃんへ、かならず養育費を送ってきます。何かにつけて子供たちへ、プレゼントを送ってきました。プレゼントには、ただ「父さんより」と書いてあって、ほかには何も。わかれた母さんへエンリョしてなにも書かないのかな。父さんは、母さんがもう他の男の人と結婚していると考えている感じです。
 母さんは小3のタクマちゃんと、小1になったサチエちゃんのメンドウを見るのが精いっぱいで、新しい結婚をする考えはない、と小さな息子たちへいいました。
 わかれた父さんは、二人の息子の養育費を、きちんと送金してきて、とても誠意(せいい)があると、初めておばあちゃんが褒(ほ)めます。

 タクマちゃんが思いだすのは、父さんが家にいたときは、絵本を読んでくれたもの。
 絵本を基にして、別の童話も聞かせてくれました。父さんの創作童話は、タクちゃんもサッちゃんも大スキ。タクちゃんは、童話を聞くことによって、楽しい夢を見るのが大スキ。
 小学校へ上がってから、妹のサチエちゃんへ、じぶんで作った童話を聞かせるほど。父さんの夢を見る血が、強く強く流れているんですねぇ。
 父さんがアメリカへ行ってしまってから、タクマちゃんは一つ、夢をもちます。
 いつか父さんが家へ帰ってくること。みなんといっしょに暮らせるコトの夢なんですよ。でも、帰ってきたとして、母さんとナカヨク暮らせるのか心配なんですが。
 暑い夏の金曜日。
 急に母さんが、
 「父さんがアメリカから引き揚げてきて、東京に住むそうなの。タクちゃんとサッちゃんに、今度の日曜日にゴチソウしたいと、電話をしてきたわ。サッちゃんはオーケーだけど、タクちゃんは?」
 タクマちゃんは大喜び。でも少し心配になり、
 「お母さんは?」
 「母さんは、お前たち二人を連れて新宿駅のAAレストランへ行くの。そこでお前たちを父さんへ引き渡して帰るわ」
 「えーっ!母さんもいっしょにゴチソウになるのじゃないの?」
 「母さんは別よ。母さんはもう正式に別れたんだから、よその人。お前たち二人は、どんなことがあっても親子の関係はなくならない。だから父さんは、休日にタクちゃんとサッちゃんをよんだのよ」
 なんだかタクちゃんはつまらないと思いました。タクちゃんには、まだまだ父さんなのに、母さんはもう、父さんとは他人だといいます。
 でも、でも、でも、
 父さんに会う当日には、母さんはキレイにお化粧をして、キレイな着物を着て。まるで女優さんのよう。タクちゃんには、母さんが見たこともないキレイな女の人に見えました。思わず、
 「母さん。キレイ!」
 サッちゃんも、目を丸くします。母さんは美人なんですよ。
 大勢の人が行きかう新宿の繁華街にある、レストランの前で、赤いバラの花束を抱えたベージュ・スーツの父さんが、キョロキョロ。サッちゃんとタクちゃんを見つけ手をふりました。母さんを見ると、おどろいたように目をみはります。それからオズオズと、
 「あの〜、タクマとサチエがお世話になっています・・・ありがとう・・・・これはつまらないものですが」
 父さんは、すばやく母さんの手を取り花束をにぎらせました。母さんは微笑んで、花束を受けとると、
 「じゃあ、五時に子供たちを受けとりにまいりますから」
 そのままどこかへ行ってしまいました。
 タクちゃんもサッちゃんも、あっ気にとられて、二人の大人たちを見ています。
 父さんは子供たちのいるのも忘れて、去っていく母さんの後ろ姿にクギづけ!
 なんでしょうねえ、父さんも母さんも。
 父さんは豪華なレストランへ子供たちを連れて入ります。
 タクちゃんもサッちゃんも、目を丸くして店内を見回します。とても上品な感じで、まるでテレビドラマのレストランだと思いました。父さんはこんなレストランへ、アメリカにいるときは行くんだ!
 だって、タクちゃんには、豪華なレストランで家族が食事をした記憶がありませんからねぇ。
 もう一つタクマちゃんの記憶にないのは、父さんがまるでヨソの人のように、母さんへ赤いバラの花束を贈(おく)ったこと。母さんがスキなのは白いバラ。花ビンに飾るのはいつも白いバラ。母さんがだれかに花をもらったことなど、聞いたことも見たこともありません。
 花をもらった母さんは、ほほ笑んでいましたが、少しはずかしそうな感じもありました。
 フーン?
 父さんはアメリカで、女の人に花を贈ることを覚えてきたようですよ。しかも、父さんが母さんに花を贈る態度が、とても自然でした。母さんの手を取ると、スーッと花束をわたしたんです。今日の母さんが、とてもきれいに見え、これがボクの母さんなんだ、とタクちゃんはうれしくなります。
 食事が終わると、タクちゃんは、
 「んーと・・・父さん。お母さんは白いバラがスキなのに、なぜ反対の色のバラを贈ったの?」
 「父さんは、母さんのコトなら何でも知っている。白いバラではなく、母さんは情熱の赤いバラがとてもスキなんだよ。口では白いバラといっているけど、ねぇ」
 「・・・今日の母さん。とてもキレイ!ボクは初めて見た」
 「あたしも母さんがあんなにキレイだとは思わなかった。毎日ガミガミと怒る母さんしか見ていなかったので、ビックリよ〜」とサチエちゃんがうれしそう。父さんもうれしそうでしたが、オズオズと、
 「タクマ、それからサチエ。あの〜、か、母さんにはもうスキな人がいるの?」
 タクちゃんもサッちゃんも、考えていましたが、首を横にふります。タクちゃんが、
 「母さんは、お前たち二人を育てるのに精いっぱいで、新しい結婚を考える余裕(よゆう)はないっ、て」
 「そ、そうか。母さんはそういっていたんだ。 と、父さんも、他の女を考えるヒマがないとほど仕事ばかり。こんど日本へ帰国したのは、父さんの夢がアメリカにはないと気がついたからだ。できもしない夢より、もっと身近で叶えられる夢を見ることにしたい。夢を変えたいと思う。なるべくなら夢は・・もう見ないことにしたい」
 タクマちゃんは、ちょっと父さんの顔を見ていましたが、
 「父さん。ボクも夢を変えたんだよ。はじめのころは、きれいなお嫁さんを、大きくなったら絶対に見つける、という夢だった。このごろは変えたんだ」
 「ホホウ、どんな具合に?」
 「父さんに、また家へ帰ってきてほしい、という夢」
 「あたしも父さんが帰ってくる夢が見たい。でも、父さんは母さんがキライで離婚したでんしょう。父さん。帰ってくる前に、ゼヒゼヒ母さんをスキになってほしいわ」
 父さんはホロホロと涙をこぼして、
 「と、父さんが、いまさら母さんをスキになったとしても、父さんの身勝手な振る舞いで別れたんだから、母さんがスキになってくれるはずがない・・・」
 タクちゃんは、父さんの涙を初めて見ました。
 きょうは初めてのコトが多いですねぇ。サチエちゃんが、
 「父さんも、母さんがスキになる夢を見ましょうか。母さんが、よその男の人をスキにならない前に」
 何気なく言ったサチエちゃんの言葉に、父さんは思わずギョッ!
 そ、そうだった!
 よその男の人をスキにならない前に、母さんの心を掴(つか)まなければ。サッちゃんのいうとおりに、母さんを恋する夢を見よう。母さんを愛する夢にかえよう。今は白いバラの母さんだけど、いつ、よその男の人へ情熱の赤いバラにかわって見せるか。大きな心配。
 じっさいに、今日見た母さんはキレイでした。
 お父さん!
 夢を見るだけでは、母さんはとても父さんを許す気持ちにはならないんですよ。月々にきちんと子供の養育費を送ったように、誠実な男の愛を母さんに見せつけることが大事なんですよ。
 わかっているのかなぁ。


 独りよがりな男には、子供たちの、愛の協力が必要ですねぇ。
  光
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大人のメルヘン、子供の情景「キヨタカちゃんの思いは・・・」   光

2013/08/18 16:32
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 キヨタカちゃんは小3。もういっぱしの男の子で、ときどきイタズラもします。というより、ゆきすぎた悪さかな。当然に父さんから、大目玉!
 おばあちゃんになだめられて、何とかおさまりますが、 気のつよいキヨタカちゃんは泣きません。
 でもでも、家のベランダの隅(すみ)で夕日がしずむのを見ながら、一人シクシク。キヨタカちゃんを心配してか、茶トラのハチマンがいつまでもそばにくっついています。ハチマンは大山八幡サマの境内にすてられていた、ノラネコ。雨のふる日に鳥居(とりい)の柱のかげで、ふるえていたのを見つけたキヨタカちゃんが家へもって帰りました。家ではかあさんがネコギライ。犬はチワワを二匹も飼っているのにねぇ。
 ネコは毛並みがキライで、スルドイ爪がキライなんですって。だから家で飼うとしたら、まずは母さんの許可をもらわなければ。キヨタカちゃんはじぶんの部屋で、二、三日ないしょで飼って、母さんのようすを見ることにします。もし、ダメといわれれば、大山八幡サマへもどすしかありません。
 近くに住むおばあちゃんは、三匹もネコを飼っているのでいらないそうですから。
 ああ、他に母さんがネコがキライなのは、どこにでもオシッコをひっかけるから。ネコの全部がキライなんですねぇ。
 父さんは?
 とにかく家にあまりいないので、キヨタカちゃんには父さんがネコがキライなのかどうかわかりません。父さんは、
 「仕事、仕事、男は仕事のほかに何もすることはないんだ」
 でもでもでも、
 ある休日にパチンコへ入っていく父さんを見ました。仕事にかこつけて、パチンコへ。家にいるのがキライなんです。なぜでしょう?
 おばあちゃんが、父さんは気が弱いので、母さんに何かいわれると家にいたくないシンドロームがあらわれるのよ、といいました。母さんはモノをはっきりといいます。くらべて父さんは、煮(に)え切らないモノのいい方をする男。それは、とてもやさしい気持ちのあらわれ。でも、度がすぎると気の弱い男、ととられます。
 おばあちゃんは父さんのお母さん。父さんのことは何でも知っているんですよ。
 キヨタカちゃんの母さんは、とても気のつよい性格で、はきはきとモノをいう女性。父さんは、
 「オレは当てが外れた。もっといい女がいたのに、しっぱいしたなぁ」とキヨタカちゃんに漏(も)らしたことが。父さんはあわてて、
 「キヨタカ。男同士の約束だ。今の父さんの独り言を、母さんにぜったいに漏(も)らさないこと。約束できるか?」
 キヨタカちゃんは、かたい顔をしてうなづきます。男の約束ですからねぇ。
 じつはキヨタカちゃんは、母さんの血を濃(こ)くひいて、性格は母さんにそっくり。顔立ちは、父さんに似ています。まるでミニ父さん、というところ。
 で、家では母さんと、キヨタカちゃんはケンカ!というより、母さんによく怒られて、勇ましく反抗(はんこう)するのがいつものパターン。
 だからネコぎらいの母さんの了解(りょうかい)を取るのは、ムズカシイんです。

 キヨタカちゃんはじぶんの部屋へ、だれにもわからないように、かくしておいたつもりでしたが。
 数日後に見つかってしまいました。
 マリエちゃんに見つかったんですよ。
 なんだかヨソヨソしく、キヨタカお兄ちゃんがマリエちゃんを部屋へ入れません。いぜんもケンカをしたときは、二、三日、部屋へ入れないことがありました。でも、このごろはケンカはしません。
 ああ、家は部屋数が多いので、兄妹に一つずつ部屋がありました。
 早くから子供たちに独立心をもたせるため、母さんが部屋を与えました。けっこう、子供たちはじぶんの部屋をよろこんでいて、部屋のソウジもします。

 マリエちゃんは、ネコの鳴き声を耳にします。
 キヨタカお兄ちゃんの部屋で、ソーッと入ってみると、押し入れの中からヒッカク音。開けてみると、かわいい茶トラの子ネコがとび出してきます。押し入れには、紙の皿があり、チワワのエサの残りが入れてありました。ネコはエサをあまり食べていません。廊下を通りかかった母さんが、
 「キヨ坊、母さんにだまってネコをひろってきたなぁ。押し入れに、かくしたつもりなのね。まったくしようのないヤツ」
 「でも母さん。この茶トラかわいいわ。オスネコよ」
 母さんは茶トラを抱きあげます。子ネコはゴロゴロとノドを鳴らして、母さんに甘えます。ネコぎらいのはずの母さんは、目を細めて茶トラをなでます。一目で母さんと茶トラの心が合ったようですね。
 こうして茶トラはひろわれた場所の、大山八幡サマの名前を取って「ハチマン」と名付けられて飼われることに。
 ハチマンは、キヨタカちゃんによく懐(なつ)いてしまいます。キヨタカちゃんが家にいるときは、ベッタリとそばに。キヨタカちゃんがいないときは、ニャアニャアと鳴いて、小さな主を探すかんじでした。

 事件がおこります。
 父さんが浮気をしたとかで、母さんと父さんは大ゲンカ!
 浮気の相手の女が、家まで乗りこんでくるさわぎになったもの。女は乗りこんではきませんでしたが、父さんが青い顔をして、しきりに母さんへ言い訳をしているシーンが、キヨタカちゃんの目に。
 父さんは、よその女と何かがあったんですねぇ。母さんはカンカンに怒り、
 「あたしは出ていきます。マリエをつれていきますから、あなたはどうぞ、ご勝手に!」
 キヨタカちゃんは、オロオロして妹のマリエを連れ、出ていこうとする母さんへ、
 「母さん。出ていかないで」泣き声でとめましたが、
 「ウルサイ。にくらしいわぁ、キヨ坊も父さんそっくりな顔をして、あたしに何かをいうのね。キヨ坊なんか大っ嫌い!」
 母さんはキヨタカちゃんにも八つ当たり。すさまじい剣幕(けんまく)でした。
 そして母さんは出ていきました。
 出て行った先は、母さんの実家。そこには母さんの両親がいます。キヨタカちゃんは、この母さんのおじいちゃん、おばあちゃんが苦手。何となくん学校の校長先生のように、きびしい目をしているんですよ。何となく話しにくいふんいきがあって、ときどき母さんとあそびに行きますが楽しくないんです。父さんのおばあちゃんは、口やかましいのですが、とても親しみやすく「おばあちゃん、おばあちゃん」とついて回るほど。

 実家へ帰った母さんは、それからぜんぜん音信がありません。おばあちゃんが、
 「離婚されるかもよ。ヨシタカ(キヨタカちゃんの父さん)は本当にバカなことをしたもんだねぇ」
 浮気が本当なのかウソなのか、キヨタカちゃんにはわかりません。ウスウス父さんがよその女の人と、何かがあったのはわかります。母さんがあれほど怒っているのを見ればねぇ。
 おかげでキヨタカちゃんは、とばっチリをうけて母さんに、
 「・・・・キヨ坊なんか大っ嫌いっ!・・・」
 父さんの子だから父さんに似るのはアタリマエ。似ているからって、大っ嫌いだなんて!
 でも、父さん。なんで浮気などしたんだろう?
 父さんはどちらかといいえば、男の人にしてはおとなしいそうです。おばあちゃんがいいました。おとなしい男は、よその女の人に好かれるのかしら?
 浮気の理由を、父さんに聞いてみたいと思いましたが、できません。父さんはシュンとなって、悲しそうな顔をしていましたから。でも、父さんは、
 「すまんなぁ、キヨタカ。男はトキドキとんでもないことをやらかすもんだ。お前が大きくなったら、父さんの気持ちがわかる。キヨタカは父さんに似ているけど、性格はまったく、母さん!。・・・さみしいんだったら、母さんに会いに行ってもいいよ。もう小3だから、一人で、母さんの里まで行けるはずだ」
 キヨタカちゃんは、うつむいていましたが、
 「母さんは、もう戻ってこないの?」
 「ああ、戻ってこないかもしれない。離婚して新しい男の人と結婚するかもね」
 「そんなのイヤダ―っ!」
 キヨタカちゃんはさけびました。父さんがびっくりするほどの声です。キヨタカちゃんは、
 「ボクは母さんに会いたい。もし帰ってこないんだったら、ゼッタイに話したいことがあるんだけど」
 「エッ、な、何を?」
 「・・・・母さんにだけに話したい」
 父さんはそれ以上聞きません。大きくため息をついて、
 「あさっての日曜日に、父さんが電車の切符を手配してあげるから、行っておいで」
 母さんのお里は、いくつもの電車を乗り換(か)えていく、イナカの町。
 小3のキヨタカちゃんにはムリかな、と父さんは思いましたが、行かせることにしました。母さん似の気のつよい性格ですが、落ち着いていて、父さんがジマンの息子なんですよ。
 父さんは、どの駅でおりてどの電車に乗り換えるのか、どのバスに乗るのか、紙に書いておしえます。とくに電車はまぎらわしい線があるので、気をつけるように注意します。
 
 当日。キヨタカちゃんはリュックを背負い、不安そうな顔で電車へ。
 やはり、電車を一つ乗りまちがえ、ちがう方向へ行ってしまいます。昼前につく予定だったのが、昼すぎになってしまいました。
 見覚えのある母さんの里へつきました。
 大きな家があります。家の前ではマリエちゃんが一人で、キョロキョロとあたりを見回しています。お兄ちゃんがやって来ないので、心配して道路まででてきます。キヨタカちゃんは大きく手を振りました。目ざとく見つけたマリエちゃんが、走ってきました。
 「お兄ちゃーーん」
 走ってきて飛びついてきました。マリエちゃんは、
 「お兄ちゃん、もう来ないのかと思ったわー」
 「へへへへっ、電車を一つまちがえちゃった。母さんはいるの?」
 「いるわよ。大変なのよ、お兄ちゃんがまだ来ないので」
 家には、ずいぶんヤツレタ母さんがいました。そのほかにおじいちゃんとおばあちゃん。母さんはオロオロして、訪ねてきたキヨタカちゃんの肩を抱きます。おじいちゃんとおばあちゃんは、心配そうな顔でしたが、やはりキヨタカちゃんには、苦手の顔。
 キヨタカちゃんへ、おそい昼ごはんがだされました。
 おばあちゃんが作ったようです。ご飯を食べ終わると、キヨタカちゃんは、すぐに帰るしたくをします。母さんがおどろいて、
 「キヨタカちゃん、もう帰るの?」
 「うん。父さんが家でまっているから・・・・」
 キヨタカちゃんは、何かいいたそうにモジモジしていましたが、
 「母さん。この前、母さんは、ボクに『キヨ坊なんて大っ嫌いっ』といったね。父さんに似ていても、ボクはキヨタカ!・・・・ボクは、母さんが大好きだからね。それをいいに、ここへ来たんだ」
 あっ気にとられている母さんへ背を向けると、おじいちゃん、おばあちゃんへ、
 「ごちそうになりました。失礼します」
 まるで大人のような、きっちりしたアイサツをします。いつもならつづいて、
 「また、あそびにきます」というところなのに、それはなし。もう、ここへは来ないという意思表示のようにおじいちゃん、おばあちゃんは感じました。
 キヨタカちゃんは、いうだけ言うと、走るようにしてバス停まで。
 涙がボロボロ零(こぼ)れてとまりません。
 キヨタカちゃんの「母さん、ボクは母さんが大好きだからね」という言葉に、母さんは大きなショックをうけました。父さんとケンカで腹立ちまぎれに、小さな息子へ、どなった言葉が思いだされます。小さな息子はとても心を痛めていたんですねぇ。キヨタカちゃんは、「ボクは父さんに似ていても、キヨタカ!」といいました。そして「ボクは母さんがだいすきだからね」。小さな息子の必死の言葉に母は震えます!

 あれからキヨタカちゃんは小4になりました。
 体も大きくなり、生意気になりました。朝から母さんに起こされて、フキゲンに口ゲンカ。
 ああ、いい忘れましたが、母さんは、あれからすぐに家へ帰ってきて、家族は集合。母さんに対して、ひどい負い目を作ってしまった父さんは?
 おばあちゃんが、まるで「借りてきたネコ」と笑います。前よりおとなしくなりましたが、ちがうのは、よくよく家のコトをするようになりました。
 どうしてかって?
 母さんは、今、お腹が大きく、もうすぐにキヨタカちゃん、マリエちゃんに、妹が誕生するんですよ。

 

 まあ、家庭には色々の事件がおこるもの。でも、家族ってスバらしい!

   光る
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大人のメルヘン、子供の情景「おばあちゃんのセミ」      光

2013/08/04 19:38
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 今年もあついあつい夏がやってきました。
 ヨシオちゃんは小3年の夏になります。ヨシオちゃんが小1の夏に、ムラサキおばあちゃんが、有料の老人施設へ入ったのを思いだします。
 施設へ入るのを、父さんは大反対!
 息子の父さんや孫のヨシオちゃん、母さん、ヨシオちゃんの二人のお姉ちゃんのアカネちゃん、ヒメカちゃんも住むニギヤカな家をでていったんですよ。世間ではヨシオちゃんの母さんが「オシュウト」さんと気があわないから、とウワサします。そんなことはありません。
 じつは父さんのお兄さん、マサル伯父(おじ)さんにモンダイがあるのでした。
 おじさんは、いつもいつもムラサキおばあちゃんにお金を借りにきます。おばあちゃんは父さんや母さんさんへ、エンリョして老人施設へ入所(にゅうしょ)をはやめたかんじ。
 マサルおじさんは、この前に奥さんと離婚しました。ヨシオちゃんと同い年の双子の男の子、、小1になった女の子を奥さんが引きとり、一人でくらしています。
 マサルおじさんは、ギャンブルがやめられず、家庭内バイオレンスが高(こう)じて、離婚してしまいました。伯父(おじ)さんはじぶんでしゃべりますから、マチガイありませんね。
 伯父さんのギャンブルの資金源(しきんげん)は、ムラサキばあちゃん!
 息子たちの中で長男のマサルさんを、お母さんのムラサキおばあちゃんは、あまりかわいがった記憶(きおく)がないんです。母親の愛が少なかったために、マサルおじさんは、ヨシオちゃんの父さんとはちがって、かなり荒れた人生を送ることに。でも、この前に離婚したヨシエおばさんといっしょのときは、三人の子供までこしらえ、幸せだったのにねぇ。
 マサルおじさんに、悪い友だちがつきギャンブルへハマり、人生が狂いはじめたのでした。マサルおじさんの気の弱さから、人生が狂いはじめたのにねぇ。
 母親のムラサキおばあちゃんが、悪いのではありませんよ。
 そのことは、だれにいわれなくてもマサル伯父さんはわかっています。でも、カンタンにお金を用意してくれる母親に、ついついたよってしまうのでした。
 
 今年のあつい夏。ムラサキおばあちゃんは体をこわしてしまいます。
 ひどい夏バテで、父さんは顔を青くしたもの。すぐにマサルおじさんも来ましたが、フシギなコトにふだん威勢(いせい)のいいおじさん。ウロウロとして何も手につかず、父さんが仕事を休んで、おばあちゃんへつきそいます。おじさんが、
 「すまんなぁ、たよりない兄で。オレは、イザとなったら本当にたよりない。そのくせヘンにいきがり、バクチに塗(まみ)れ、家族までも失うほどのバカ男!
 母さんがタイヘンなのに、オレはウロウロして何も手につかない。ミットモナイ!」
 涙ぐみながらマサルおじさんが、父さんへいっているのをヨシオちゃんは耳にします。
 病気がなおってから、ムラサキおばあちゃんは、また「ヒマワリの園」へ帰ってきました。
 とても元気で、ヨシオちゃんへ、
 「体も元にもどったし、こんどはクマゼミをとりに行くわよ。標本(ひょうほん)にするの。あたしが子供のときに住んだ、四国を忘れないためにもね。里山には、小川も流れているしムカシの炭焼き小屋もあるんですって」
 ムラサキおばあちゃんは張りきっていますねぇ。
 父さんはニコニコして聞いていましたが、内心では、
 ----母さん。張りきりすぎて、また体をこわしたらヤバいのになぁ!-----

 ある晴れた日の夏休みに、おばあちゃんは日傘(ひがさ)とビニールのレインコート。白っぽいジーンズの上下に、真っ赤なスニーカー。虫取りネットを二つ、用意します。一つはヨシオちゃんの、もう一つがおばあちゃんのネット。どうしてもじぶんでクマゼミを、とらえるつもりです。サンドイッチと数個のアンパン。ペットボトルのお茶。などなどををリュックに詰め背中へ。さすがは女性ですねぇ、お弁当を用意します。後からヨシオちゃんの母さんや、父さん、アカネちゃん、ヒメカちゃんがくることになっていますが。
 ヨシオちゃんだけがここにいるのは、きのうから、おばあちゃんの部屋に泊まっていたから。
 八時ちかくなり、裏の里山からすごいセミの声が。
 ムラサキおばあちゃんは、ウキウキとして、
 「ヨシオちゃん。ソロソロと出かけましょうか。朝が早いほどクマゼミを捕まえるのがカンタンなのよ」
 日傘をさして、ツバの広いムギワラ帽子をかぶり、同じくツバの広いムギワラ帽子のヨシオちゃんと、ムラサキおばあちゃんは先に里山へでかけます。

 里山は道が細く、クネクネとつづいています。
 歩く人を見かけません。やはりこんなに早くは人がとおらないのですねぇ。でも、セミの声はあたりの空気がふるえるほど。おばあちゃんが、
 「今年は、セミの当たり年だわ。セミの声がスゴイ!」
 セミは二人がネットをかまえて近づくと、鳴き止むし、姿をかくすように、幹(みき)のうらへまわりこみます。
 おばあちゃんは持ってきたペットボトルのお茶を、ヨシオちゃんに与え、一休み。アセびっしょりの二人には、とてもおいしいお茶でした。
 そのうちに、おばあちゃんがアブラゼミを数匹、ヨシオちゃんも二匹ほど捕まえます。でもセミは、木の高い場所。おばあちゃんが、
 「こりゃあ、木に登らなけりゃあタ゜メだわ」
 おばあちゃんは木に登ろうとしましたが、体が重くてダメ。ヨシオちゃんが、身軽に木に取りつき登りはじめます。じょうずに登ります。下からおばあちゃんが、右だ左だと指示して、セミの位置を知らせます。
 小さな虫かごにセミがいっぱい。
 でも、おばあちゃんの目当てのクマゼミはまだ一匹も!
 ヨシオちゃんはつかれたので、木からおりて休みます。
 アンパンを食べながら、虫かごを見ます。ずいぶんセミを捕まえました。おばあちゃんは
 「このぐらいでいいわね。クマゼミに虫かごのスペースを残しておきましょう。クマゼミって、大きいのよ。二、三匹で、虫かごがいっぱいになってしまうからね」
 二人はサンドイッチを食べました。おばあちゃんのリュックには、まだまだお菓子や菓子パンが詰まっているようです。おばあちゃんが、
 「ヨシオちゃん。父さんたちがおそいとは思わない?」
 ヨシオちゃんは、ふり返ります。だれも里山へ入ってこない感じでした。ふいに空の雲がお日さまをかくしたのか、少し暗くなります。でも、青い空も見えていて、明るくなります。おばあちゃんが、
 「やだわぁ、トツゼンのゲリラ豪雨(ごうう)があるかもしれないって、ニュースではいっていたけど・・・」
 「ダイジョウブだよ。おばあちゃんのクマゼミを捕るまでは、ボクは帰りたくない」
 「ありがとうね。アッ、晴れてきたわ。この間にクマゼミを捕りましょうか」
 二人は林の中をクマゼミをさがして進みます。遠くにチラチラと古びた茅葺(かやぶき)の小屋が見えました。炭焼き小屋だと思いますよ。無人の炭焼き小屋は半分こわれているとか。
 クマゼミをヨシオちゃんは、つづけて二匹も捕えます。
 おおよろこびのおばあちゃん。これで道を引きかえし、父さんたちと合流したいと思います。
 「おばあちゃん。ボクは炭焼き小屋を見たい。ちょっとだけ小屋を見ていこうよ」
 トツゼンのヨシオちゃんの申し出に、おばあちゃんは考えます。チラチラ見えているとはいえ、小屋までは遠いかんじですから。
 なんだか魔法使いが住んでいそうな家のように、ヨシオちゃんは想像しているんですねぇ。茅葺の屋根に、なにかの草が生えているんですよ。草が、屋根に葉をしげらせているシーンは、とてもフシギ。
 炭焼き小屋へつきました。
 小屋のカベは板でしたが、腐っていてところどころなくなっていました。
 入り口からすぐに土間だけの小屋。土間に古びた大きなナベが、ころがっています。ほかには何もありません。三畳ぐらいの広さで、ここで炭を焼く人がくらしていた、とおばあちゃんが。
 土間へ入ってみると、奥のほうの屋根に穴があいていて、小さく空が見えています。
 
 サラサラと水の流れる音が聞こえてきます。
 小屋の横から下り坂になっていて、水音はそちらの方向から。ヨシオちゃんが、
 「おばあちゃん、この下に小川があるみたいだね」
 「そのようね。ヨシオちゃん、あたしは山のきれいな水が飲みたくなったわ」
 おばあちゃんは、先に立って、小川へ歩きます。
 岩だらけの中に、小川が流れていました。透きとおっていて、おいしそうな水。おばあちゃんは、コップをリュックからとりだすと、小川の水をオソルオソル飲みます。まず、おばあちゃんが毒見(どくみ)して、それからヨシオちゃんへ汲(く)んでやるつもり。
 小川の水は冷たくて、とてもおいしいものでした。
 ふいにゴロゴロゴロッ。ピカッと稲妻(いなづま)が走ります。
 おばあちゃんはあわてて立ち上がり、ヨシオちゃんを急かすと、炭焼き小屋へもどりました。小屋なら、スコールなどやり過ごせます。夏の雨はトツゼンやってきますが、すぐに晴れ間がもどってくるもの。腕時計を見ると、もう昼をまわっています。
 それにしても、父さんたちの一行が追いついて来ないのはナゼ?
 小屋の雨が漏(も)らない場所を見つけて、おばあちゃんは自分のレインコートをヨシオちゃんへ着せ、日傘を差します。ヨシオちゃんは短パン、半そでシャツの軽装。おばあちゃんは里山でも、山へ行くときはレインコートを着て、万一にそなえる用心深い服装。
 まもなく、すごい雨が襲来(しゅうらい)。
 冷たい風がが小屋の屋根をゆらし、壁板のないところから雨がふきこんできます。おばあちゃんは土間の隅(す)へ、ヨシオちゃんを抱きかかえるようにして、身をひそめます。
 トツゼンの豪雨は、なかなかやみませんでした。
 二人がウトウトして目が覚めても、雨がふりつづいていました。家へ帰ることができません。冷たい雨で、体をこわす心配があります。小さい子供は、雨にぬれるとすぐにカゼを引きますからね。
 すっかり暗くなってから、やっと雨が上がりました。
 おばあちゃんは帰ろうとしましたが、やめます。里山の細い道は、暗くなると危険です。道に迷い歩きつかれて倒れたら大変。
 おばあちゃんはリュックを開けて、ケイタイをさがします。ケイタイは忘れたようでありません。ヨシオちゃんに聞いてみると、まだケイタイは持っていないといいます。
 あ〜あ。ケイタイを忘れては助けをよぶことができないし。おばあちゃんはじぶんのウッカリぶりに、ため息ばかり。
 「おばあちゃん。ボクは、あしたまで、ここで待っててもダイジョウブだよ」
 ヨシオちゃんに慰(なぐさ)められて、おばあちゃんは安心しました。ふつう子供は不安になって、泣くものなのに、ヨシオちゃんゼンゼン。
 おばあちゃんは土間に転がっている、古いナベを横に置いて、木の切れハシでトントントントン!
 この里山には、クマも出ると聞いていますから、クマよけのタイコなんですよ。ヨシオちゃんはおばあちゃんに寄りかかってウトウト。
 おばあちゃんは、ナベのタイコで拍子(ひょうし)をとりながら、
 ----♪、ねんねんころりよ、おコロリよ。坊やはよい子だ、ねんねしなぁ-----
 ヨシオちゃんが聞いたこともない、子守唄を歌いはじめます。哀調(あいちょう)をおびたメロディーで、ヨシオちゃんは、深い眠りに落ちてしまいました。
 ヨシオちゃんが気がついたときは、父さんの腕にしっかりと抱きかかえられていました。父さんが助けにきたんですよ。
 アレアレッ、
 父さんのほかにマサルおじさんも、おばあちゃんのそばにいます。そのほかに消防団の人たちが、いっぱい。
 帰り道をおばあちゃんは、足を引きずって歩いています。マサルおじさんが、
 「母ちゃん。オレが負んぶしていくよ。車までは遠いし、足がもっと痛くなったらたいへんだし」 
 おばあちゃんは、しきりに固辞(こじ)しますが、やがてマサルおじさんの背中へ。
 おばあちゃんは、
 「マアマア、マサルに負んぶしてもらうなんて、あたしも歳をとったわねぇ。でも、お前の背中は温かいわぁ。マサル、覚えておいてね。お前の背中は暖かいのよ。どんな人にでも暖かいんだと思う。母さんが保証する」
 マサルおじさんは、ボロボロと涙を流していました。何もいわずに、おばあちゃんを背中に、ゆっくりゆっくりと歩きます。
 ヨシオちゃんは、たしかにマサルおじさんの涙を見ましたが、そのうちに父さんの腕で眠ってしまいます。


 ひと夏の少年の日の思いでは、年老いた母と息子のシーン。マサルおじさんが、人の背中の温かさを知るのは、もうすぐかもね。

 光
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 大人のメルヘン、ヒカルの怪談! 「父の風鈴!」     光

2013/07/20 07:29
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 タロウはときどき、フシギな鈴の音というより、夏の風物詩(ふうぶつし)の風鈴(ふうりん)の音を聞くことがあった。
 たいてい海がちかい場所へ立ちよったときである。風鈴はタロウが小学低学年のとき、神社の祭りの屋台で父のタクロウが買ってくれたもの。南部鉄(なんぶてつ)のガンジョウな風鈴なのに、イガイにヤサシイ音がする。タロウは気にいり、じぶんの部屋の窓につり下げていた。ときどき、チャトラのネコのゴロマルが飛びついて、風鈴を鳴らすのを無邪気(むじゃき)に聞いていたもの。
 タロウは母のハルエに似たものか、音感にすぐれている。ピアノやバイオリンをキヨウに弾(ひ)きこなす。くらべて父のタクロウは音感オンチ。楽器は苦手だったが、ハーモニカだけはジョウズである。思いだしてみれば、小学生のころ、タロウはハーモニカを聞かせてもらったのがなつかしい。
 母のハルエは東京の音大を出ていてピアノの名手!
 男の子は母に似るといわれるように、タロウは気性も母のハルエに似ている。
 ハルエは息子の音感がすぐれているのをみて、ピアノになじませようとしたがダメだった!
 ところが、ある日トツゼンにタロウは、みずからピアノへ向かうようになる。父のタクロウが祖父にハーモニカを教わって、上手になったという話を父の母、ハツコおばあちゃんに聞いてから。
 ときどき父のタクロウは、ピアノを自在(じざい)に弾きこなす息子のそばで、目を細めてきいていた。
 タロウは父のうれしそうな顔が見たいために、ピアノを弾くかんじでもあった。
 だがタロウはフシギな思いだ。タロウの実の父親ではない、タクロウが見せる、親しげなフンイキ。タロウはとまどっているのだ。実の父はどこにいるのかわからない。母のハルエはシングルマザーであった。
 新しくできた父親に、タロウは何かを試すような目で、接していた。だからタクロウへ親しみを見せるでもないし、拒否する感情をもつでもないし。
 父のタクロウは何も感じないのか、タロウに向いあう。
 タロウは底のしれないやさしさを、ときどき見せる男の子。とくにハツコおばあちゃんへは、少年らしい甘えも見せるし、年寄りを労(いた)わるやさしさも見せた。

 ある日の午後、巨大な地震に家族は遭遇(そうぐう)!
 父のタクロウは家族を引き連れて港とにいた。ハツコおばあちゃんは、遠く九州まで出かけていていっしょではない。カーラジオでは「巨大な波がおそってきます。すぐにヒナンしてください・・・!」と放送している。
 タクロウはセセラ笑って、
 「ニュースのツナミの予報は、たいてい大げさだ。ドレドレッ、みんなで何センチのツナミがくるのか見物に行こうか?」
 ハルエは緊張(きんちょう)の顔色で、
 「あなた、大ジシンの後のツナミなのよ。ラジオもそういっているし、大ツナミだったら大変よ!」
 タクロウはしかたなく、高台へ向かって車を進める。
 あちらこちらでジュウタイがおこり、車は進まない。どの車の運転手たちも、せっぱ詰(つ)たキケンを感じているのではなく、半ばお祭り気分!
 どうせ、さわぐほどのツナミなどくるわけはないのだ!
 タクロウも笑い顔でいう。
 やがてゴゴゴーッと地響きを立てて、なにかが近づいてくる物音が、車内でも感じられた。後部シートに座っているタロウが、
 「父さん。ツナミがきているのが見えるよ」
 タクロウもハルエもおどろいてふり返る。リアウインドウから、それでも遠くに真っ白に泡立つ波が押しよせてくるのが見えた。
 
 タクロウはあわてて車からおりる。
 道路は渋滞(じゅうたい)していて、車はぜんぜん動かなかった。
 とにかく走ってでも、高台を目ざしてにげなければ!
 だがどこに高台があるのか、まったくわからない。トホウにくれていたがタクロウは、
 「みんな、逃げよう!この道路をまっずに行けば高台へつくはず。とちゅうに高いビルでもあれば、そこへにげこむんだ。タロウ。一人なってもいいから、先へ先へ走れ!」
 三人が走りはじめてすぐに、牙(きば)を剥(む)いた大ツナミは、ヨウシャなくみんなを飲みこんでいった!
 大ツナミに飲みこまれてすぐに、タクロウはタロウもハルエも見失ってしまう。ガレキの何かが頭へ当たったのか、ひどいケガで血だらけ!
 あたりにいたタクサンの人々の姿が見えなかった。かわりに流されてきた車や、大小サマザマの家の屋根が、ブキミに軋(きし)む音をたてて、早い速度でうごいている。
 タクロウは近くを流れている、プラスチック製の小さなボートを見つける。二、三人ぐらいの子どもなら、十分に耐(た)えられる。ボートを押して泳ぎながら、また目を這わすと、赤いカベの小さな家が流されていて、しがみついているタロウの姿が見えた。あんがい近くだ。だが父のタクロウには気がつていていない。タクロウは大声で、
 「オオーーーイッ、タロウーーーッ!」
 ブキミな、ガレキがぶつかり合う音、こすり合う音。などなどの中で、タクロウの声を聞いたものか、こちらを向く。タクロウは泳ぎつき、タロウを、ボートへ乗せた。
 「母さんは?」と聞くと、タロウは青い顔をして首を横にふり、
 「さっきまでボクは母さんと、いっしょだった。母さんは波へしずんでしまった・・・」
 タロウは泣き声を上げる。タクロウは、
 「タロウ、泣くな!男は絶体絶命(ぜったいぜつめい)のときには、泣かないもんだ!」
 二人は必死の目でハルエをさがす。
 ようやくハルエを見つけた。
 ハルエは沈みそうな家の屋根に、しがみついていたのだ。
 タクロウはすぐにハルエのそばへ泳ぎつく。タロウもボートを漕(こ)いできて、母親を乗せた。それで子供用の小さなボートはいっぱいになった。ヘタをすればしずむかもしれない!
 タクロウは立ち泳ぎをつづけながら、自分がつかまる何かをさがす。
 そのとき、屋根の瓦(かわら)につかまっていた、中年のガッシリした男が、タロウとハルエが乗ったボートへ突進(とっしん)してきた。
 何をするのか?
 タクロウはいぶかしげに見ている。
 男は、ボートへ乗りあがるようにして、ハルエを引き落とそうとする。タクロウは、
 「何をする!」とあわててつめよる。
 男はハルエやタロウを引きおろし、じぶん一人でボートへ乗ろうとしているのだった。タクロウは近くを流れているガレキから、細い板を手にとり、男を後ろから打ちすえた。メッタ打ちである!
 男はひるんでボートからはなれる。タクロウへ向かってきた。だがタクロウの最初の攻撃(こうげき)で弱っていたようだ。さらなるタクロウの反撃(はんげき)で、男は海へしずんでいった。
 タロウは、じぶんたちをまもって、奮戦(ふんせん)する父の姿を見ていた。父は頭のケガで、血が流れていて、タイヘンな状態である。だが、タロウもハルエもなす術(すべ)がなかった。
 やがて父も男を追うようにして力が尽(つ)き、波のあいだへ消えていく。

 壮絶(そうぜつ)な父の死から、もう何年が経(た)ったのか?
 タロウは高校生になっていた。
 寡黙(かもく)な男の子だが、ハツコおばあちゃんや、母のハルエをとてもダイジにする。父タクロウが愛した母は、いまはタロウを大学へやるために必死で働いていた。母も父の壮絶な死を目の当たりにしているはず。
 母は何もいわない。だが、毎月に、きちんとお墓参りはかかさない。
 あれから母がキライになったものは、海!
 海を見ようとはしない。海がキライなのに、海の近くを住処(すみか)にえらんでいた。母は、
 「父さんが消えた海は、そこにあるのよ。あの人が、まだそこにいるようで、申し訳なくて、よその土地では暮らせないわ」
 タロウは父が買ってくれた、南部鉄の風鈴を、窓へつるしたまま。ネコのチャトラのゴロマルは、すっかり元気がなく、風鈴に飛びついて鳴らしたりしなくなる。
 タロウは、ときどき風がないのに風鈴が鳴る、と思う。じじつ風もないのに、リーン、リーンとなることがある。すると母が部屋へやってきて、
 「父さんが、タロウのヨウスを見にやってきたのよ」
 「マサカーッ!もし、父さんがやってきたのなら、母さんの部屋へ行くはずだよ。父さんは、本当に母さんが好きだったんだもの。母さんをボクが乗っているボートへ乗せたときの、父さんの顔。うれしそうだった!」

 タロウが海辺を歩くと、風にまじって風鈴の音を聞くのは、なぜなんだろう?。
 何かキケンがせまっていて、父さんが風鈴で知らせているのか?
 マサカー!
 だが、タロウたち母子に、最大の危機(きき)がせまってきていたのだ!
 なんと、
 父タクロウが排除(はいじょ)した男が生きていたのである!
 男は、グウゼンにタロウ、ハルエ母子が生きているのを目にして、復讐(ふくしゅう)の思いにもえる。
 男はタロウたちのボートをうばって、じぶんだけ助かろうとしたもの。父親らしい男から反撃をうけて、一旦(いったん)は海へしずんだ。それでも浮きあがり奇跡的(きせきてき)に助かる。
 だが受けた屈辱(くつじょく)はワスレられなかった。あんな災害(さいがい)の中で、もっともらしい正義などクソクラエである。どんなことをしてでも助かれば、それが正義だ!
 じゃまをされて、あやうく命を落とすところだった、ヤツにかかわり合う人々へ、ぜひ復讐したい!

 七夕の日に、タロウとハルエ母子は、父のお墓参りへきていた。もうあたりはうす暗かった。お墓は夜でも門があいている。母が、
 「海がはっきり見えるのよ。もう少し日がくれてから、お墓参りをしましょう」
 どうしても海を見たくない母のネガイを入れて、タロウはうす暗いお墓へお参りをする。そのときをネラッタように、あの男がナカマの男、二人をつれて、タロウ母子の背後(はいご)へせまる!
 敬虔(けいけん)な祈りを捧(ささ)げるために母子は、父のお墓へぬかずいた。そのときに、風鈴の音を聞いたのである。
 リーン、リーン、リーン、リーン・・・・・・・
 風鈴の音は、タロウ母子の背後へせまる男たちも聞いた。ナイフをかまえたアノ男が、
 「ナ、ナ、ナ、ナンダ!キミのワルイ鈴の音がするぜ!」とナカマの二人へいうと、あたりへ目をウロウロ!
 風が、三人へ吹いてきた。男は、
 「オイ、どうもイヤナ気がする。今夜はやめにしようぜ!」
 フッ、フ、フ、フ、フ、-------そうはいくか。今夜でお前たちは終わりだ。オレがお前たちを、ジゴクの海へ引きこむ-----
 男たちは、声のほうをふりかえる。
 そこには青白い顔をした、タロウの父タクロウが立っていた。タクロウのまわりには、青白い鬼火(おにび)がチロチロチロチロチロチロッ!
 あっというまに、鬼火は男たちを包んでしまう。
 「ウワーッ!ウワーッ!・・・・」
 男たちは、ヒメイを上げて海岸へ走る。海岸には鬼火がなかった。それはタクロウのさそいで、男たちは遠浅(とおあさ)の海へ、ジャブジャブと走りこんでいく。鬼火とともに、ユラユラとタクロウがおってくる。男たちはヒッシで逃げるのに、タクロウはマスマス近づいてくるのだった。
 タクロウの顔面が半分、白い骨をさらけ出していた。つきだした両腕は白骨化していて、骨だけの掌(てのひら)からも、鬼火がわきだしている。男たちの鼻を、ムッとするような死臭(ししゅう)がたたく!
 よく見ると、鬼火の一つ一つが、半ば白骨化した男たちで、両手を広げ、
 -----さあ、お前たち。生きていても、死刑になるほどの罪を重ねている。オレたちと、地獄(じごく)へ行くんだ!
 どこまでも逃げるのなら、つかまえて、八つ裂(さ)きにしてつれて行くっ!----
 「ウワーッ、ウワーッ、ウワーッ!」
 男たちは、海の深みへみずから走りこんでいく!
 お墓で敬虔(けいけん)な祈りをささげる母子は、流れてくる風鈴の音をいつまでも聞いていた。
 あれは、父の風鈴!
 タロウは手を合わせ涙を流しながら聞いている。なつかしい父の風鈴は、母子をつつむように、いつまでも鳴りやまない。


 暑中お見舞い申し上げます。
 ヒカルのクーラー。寒気がするほどの恐怖の怪談にはなりませんでしたが、悪しからず!

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「おばあちゃんのチューリップ」   光

2013/07/13 15:49
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 有料の老人シセツにいるシゲコ大おばあちゃんが、とても気分がいいので、海へ行くといいだしました。ミカちゃんの大おばあちゃんで、大おばあちゃんの下にカナエおばあちゃん、そしてその下に父さん。その下が三人の息子たちで、ミカちゃんの歳のはなれたヨシチカお兄ちゃん、トモチカお兄ちゃん。一番下が小3のミカちゃんになります。
 シゲコ大おばあちゃんは戦後の大変な時期をすごしてきた女性で、有料の老人シセツへ入ってからもしっかりしていますよ。
 シゲコ大おばあちゃんは、ヒ孫のミカちゃんが大のお気に入り。
 じぶんソックリのヒ孫だといいます。なにからなにまで隔世遺伝(かくせいいでん)していて、もしかしたら自分が歩んできた、苦しい人生をケイケンするかも、と父さんへいいました。
 でも、ミカちゃんは、現代の申(もう)し子!
 大きな戦争で、社会がとても貧しくヒサンだった時代ではありません。とりわけ食べ物が、巷(ちまた)にあふれているのが、ミカちゃんの住む社会!
 すべてがユタカかな社会になっているですねぇ。
 大おばあちゃんは折(おり)にふれてミカちゃんへ、戦争のために社会がとても暗くなり、食べ物が足りないために、ミカちゃんのような子供たちが、大勢、餓死(がし)してしまったと話します。
 このころ、シゲコ大おばあちゃんが心を痛めているのは、海の近くの町で、若い両親に疎(うと)まれた五、六歳の女の子が、餓死してしまったニュース!
 シゲコ大おばあちゃんだけではなく、カナエおばあちゃん、ミカちゃんのヨシエ母さんも、テレビのニュースに涙を流しました。とてもショックで、おしゃべりなシゲコ大おばあちゃんは、言葉がありませんでした。

 じつは、シゲコ大おばあちゃんには、悲しい思い出があるんですよ。
 おばあちゃんが若いころの、戦争がおわったキビシい日本の社会で、ミカちゃんぐらいの娘を二人も、重いカゼで亡くしていました。娘は、六人いる内の一番下と一番上で、今でいうインフルエンザ!
 アメリカからとてもいい薬が入っていましたが、庶民(しょみん)には手のとどかない高価な薬!
 シゲコ大おばあちゃんは、六人の子供たちを食べさせるために、お金がたらない生活がつづいています。その中で、二人の娘が重病にかかって、お薬を買うお金がツゴウできないでいたんですねぇ。高熱に苦しむ二人の娘の枕元(まくらもと)で、シゲコお母さんは、一心(いっしん)にカミサマへ、娘たちの命をすくってくれるように祈ったものです。枕元で、すわっている母へ、一番上の娘が壁に貼(は)られたチューリップの写真を見て、
 「母ちゃん。チューリップのお花が。おまんじゅうがクシにさされているみたい・・・食べられたらいいなぁ・・・・・食べたいなぁ・・・・・」
 シゲコお母さんは、壁に貼られたチューリップの写真に目をうつしました。チューリップはセピア色にかわっていて、オダンゴかおまんじゅうをクシで突き刺(さ)したように見えます。娘は苦しい息の下で、食べたい思いにかられていたんですよ。ヒモジイ思いでいたんです。

 あれから、シゲコおばあちゃんは、平和になった日本で、大おばあちゃんになりました。
 今では自ら有料の老人施設へ入っています。でも、ヒモジイ思いで、重病に亡くなった娘たちを忘れたわけではありませんよ。娘たちは、本当は餓死(がし)したも同然で亡くなったとかんがえています。だから、餓死というニュースには、とても心をいためているんです。ましてや、幼い五、六歳の娘が両親によって餓死させられたというニュースには、本当に心をいためました。餓死させられた娘さんに、どういう事情があったのか知りませんが、シゲコ大おばあちゃんは「ゆるせない!」と思いました。
 シゲコおばあちゃんは、亡くなった娘たちを、空(むな)しく餓死させられた幼い女の子の上に重ねます。
 ----あたしは、この餓死させられた娘さんに、海へいって、お花をささげたい!
 ----娘さんに、チューリップの花が、いかに美しいか知らせてやりたい!
 ----あたしの娘たちが、重い病気の中でチューリップを食べ物に感じたコトで、あたしが餓死させた思いを、今に引きずっているのをしらせたい!
 シゲコ大おばあちゃんが、海へ行きたい、といいだしたのには、そんな強い思いがこもっていたんですよ。
 餓死させられた娘さんは、海が近い町で育てられていました。海で鎮魂(ちんこん)の思いをシゲコ大おばあちゃんは、ささげたかったんです。

 でも、でも、でも、
 シゲコ大おばあちゃんは、チューリップをささげることはできませんでした。カゼがもとで肺炎(はいえん)になり、アッケなく亡くなりましたから。そのかわり、ミカちゃんの父さんが、シゲコ大おばあちゃんから、チューリップの花束を、いい日をえらんで、海へささげるのをたのまれていました。シゲコ大おばあちゃんは、チューリップを女の子へささげたい心を、こまかく父さんへ伝えてあります。
 夏の日曜日のいい日に、父さんと母さん、それにミカちゃんと、二人の歳のはなれたお兄ちゃんが、磯(いそ)がつづく浜へきていました。父さんはミカちゃんに、
 「ミカ!亡くなったシゲコ大おばあちゃんから、たのまれたことなんだけど。ミカがこのチューリップの花束を、磯(いそ)から海へささげて。父さんがお前が海へ落ちないように、しっかりと守っているからね」
 ミカちゃんは、目を丸くします。
 海は少しあれていて、波頭(なみかぜしら)が立っています。でも、父さんがピッタリとミカちゃんによりそい、心配はありません。水泳の名手の母さんも、二人のお兄ちゃんたちも、グルリとミカちゃんの周りに!
 父さんのかけ声とともに、カラフルなチューリップの花束が、磯の高いところからささげられました!
 花束は波の上でプカリプカリ!
 花束は、なかなか沖へは流れていきません!
 何度も波が花束を飲みこみます。海の底へ沈(しず)むヨウスはありません。波がドドドッー、ザザザザー!
 フシギせなことに、波の間からミカちゃんの耳に、かわいらしい女の子の声が!
 -----お花をありがとうね。あたしの母さんに伝えて・・・・---
 ザブーンッ、ドドドドッー!
 -----お母さん、あたしを忘れないでー!-----
 ドドドドーッ、ジャブジャブ! 
-----お父さん。あたしが娘だったことを忘れないでー!----
 ミカちゃんには、女の子の声が波に聞こえましたが、父さんは?
 母さんは?
 二人のお兄ちゃんには?
 じつは、女の子の声は、磯に立つミンナに聞こえていたんです。 
 亡くなったシゲコ大おばあちゃんが、女の子の声を波間にひびかせているんだと思います。



 幼い子供を亡くしたシゲコ大おばあちゃん。亡くした娘さんたちに、死ぬまで心を引きずられていたんですねぇ。
   光
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 大人のメルヘン、「七夕の想いで」   光

2013/07/06 20:01
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 わたしは小さいときに、家庭の事情で祖父母の家でそだった。小5のときまでである。
 わたしは生まれたときから病弱で、手のかかる子供であった。病弱でも、セイカクがアラく大人の手にあまる子供。とてもアライ性格に両親は手をヤキ、ギャクタイをつづける。あまりにもひどい両親のギャクタイに、病院へ担(かつ)ぎこまれたことも。見かねた警察がでてきて、わたしは両親からひきはなされる。両親が育てるのではなく、祖父母が引きとってそだてはじめたのである。
 とりあえず両親のギャクタイに遭(あ)うことがなくなったが。だが祖父にはわたしはどうしてもなじめない。祖父は、
 「こんなショウもない孫を引きとって、ワシはえらいメイワクじゃ!」
 祖母に部屋でグチっているのを、わたしは何度か聞いた。子供のわたしは、いい気持ではない!
 祖父の陰(いん)にこもったボウリョクである!
 祖母は、あんがい女としてやさしかったが、息子がそだてられない子供に、音(ね)を上げじぶんたちにおしつけてきた、といい感情をもっていなかった。祖母のわたしを見る目には、冷たいものがあるのだ。わたしはすぐに、相手の感情を感じてしまう。わたしをスキな者には、とても親近感(しんきんかん)をいだくにのに、キライな感情をもって接してくる人間には、むき出しのあらあらしい心を示す。スキ、キライがはげしい子供であった。

 わたしが引きとられた祖父母の家はミドリのユタカなイナカ!
 コンクリートで作られた無機質(むきしつ)な都会の風景より、わたしはなじめた。
 自然のミドリは人の心をイヤすと聞いたことがある。
 その通り、あらあらしいわたしという子供の心を、鎮(しず)めたのである。引きとられた祖父母の家から小学校へ上がり、学校では友だちも数人できた。楽しいものだったが、両親のいない家庭は小さなわたしには、さびしかった。両親はとてもこわい存在なのに、いなければそれはそれで恋しい!
 なぜ両親はわたしをギャクタイするのだろう?
 そのころの両親は、家庭内では不和(ふわ)がつづき、大ゲンカがおこった。夫婦ゲンカがはじまると、わたしも二人の弟も、せまい家の中を逃げまどったものである。フシギにまきぞえを食って、ケガをするのはわたし。二人の弟はスバシコク、いち早くにげてほとんどケガはなし。イナカの祖父母の家で、両親のスサマジイ夫婦ゲンカを思いだして、夜中に目ざめ部屋中を走り回ったもの!
 そんなときに、祖父が、トナリの寝室から、
 「ウルサイ!さわぐな!」
 おそろしい声でどなったものである。
 
 イナカの祖父母の家の近くに、祖父の兄のマンゾウおじいちゃんが住んでいた。小太りでおとなしく会話をするマンゾウおじいちゃんに、わたしはとても好意をもった。マンゾウおじいちゃんがおこった声を聞いたことがなかったし、おこったムズカシイ顔をしたのを見たことがない。
 マンゾウおじいちゃんには二人の息子と一人の娘がいて、娘、ヨリコさんが家の離れに一人で住んでいた。
 ヨリコさんは、肌が真っ白で髪が長く、やせ細っていた。子供のわたしはヨリコさんが、なぜ一人で住むのか知らない。あるきっかけから、ヨリコさんが一人で住むことになったわけを知る。
 ヨリコさんが住む部屋は、母屋からつづく裏庭へでる手前の小さな部屋。物置だった部屋。それを改造(かいぞう)してヨリコさんが住むようにしたという。いつも薬クサいニオイがしていて、だれもちかよらない。
 その部屋から見える裏庭は、わたしが見つけた「ネコの道」から入りこめる。わたしがかわいがっていた茶トラのゴローが、いなくなるとたいていヨリコさんの住む裏庭へきていたから。ここはネコが集まる場所になっている、とヨリコさんがいう。たびたびわたしがヨリコさんの裏庭へ行くので、仲よしになり話すことが多くなる。そのときに、ヨリコさんは、じぶんは「結核」であること、スキな人にフラられて一人でこれからのコトを考えるために、住んでいるといった。
 「結核」は治る病気であること、いい薬が出まわっていること、伝染する病気ではないこと、などなどを小さなわたしでも知っていた。ヨリコさんは、
 「ヒカルちゃん、あたしは悲劇(ひげき)のヒロインを演じているわけではないのよ。あたしはただ、何をするのにも億劫(おっくう)になって、なんでもいいから独りで住んでみたかったのよ。両親にはメイワクをかけるけど、独りでね・・・」
 今でいうウツ病の重い症状だったと思う。
 夏の寝苦しいるしい夜など、わたしは祖父母の家をぬけだして、よくよくヨリコさんをたずねる。ヨリコさんは、夜空を見るのがスキで、庭にイスをもちだし、座って星を鑑賞(かんしょう)していた。星座を説明してくれるのだが、わたしにはチンプンカンプン!
 わたしは月の光や星の光で浮かぶ、憂(うれ)いを含んだヨリコさんの美しい顔が見たかったのである。ほかに、ヨリコさんはおダンゴやワラビモチ、トウモロコシ、などなどをわたしのために用意してくれていた。わたしがくるのを知っていて、用意してくれていたもの。こちらのほうが、わたしの目的だったのかもしれないが。とにかく、少年のわたしは、密(ひそ)やかにくらすヨリコさんに淡い慕情を抱いていた。

 夏の七夕祭りが近づいてきた!
 ヨリコさんは、窓辺に小さなササ竹を用意して、いっぱいの短冊(たんざく)をつるしていた。フシギなコトに、短冊はどれも真っ白!
 短冊にはどれも、ねがいごとが書かれていないのだ!
 「どうして短冊は白ばかりなの?」
 わたしの問いに、ヨリコさんは、
 「すべて白の短冊なのは・・・どんな色にも染(そ)まる白だけど、元々は真っ白な短冊だった、というイミよ。あたしは、真っ白に生きてきたつもりだったんだけど、人は、そうとってくれなかった。あたしだけの独りよがりだと、決めつけられ自信をなくしていたわ。そして思いもよらない「結核」!
 ・・・・カミサマが、あたしに一人になってよく考えなさい、という試練(しれん)をあたえたんだと思う。独りになってみて、とてもサミシイことなんだ、と身に染みてわかったわ。ヒカリちゃんがくるようになってから、それがわかったの。ヒカリちゃんも悲しい環境(かんきょう)にいるのに、目が生き生きとしている。なにかを信じようとしている、カワイイ男の子の目が、あたしの心の病気を治してくれると思いはじめているのよ」
 ヨリコさんは、サマザマの色の短冊を用意してくれた。わたしに、いま思っているネガイゴトを書けという。わたしは、まず短冊の色にとまどう。だがヨリコさんと同じ白い短冊に落ちつく。
 ヨリコさんがえらんだ真っ白な短冊!
 そして、わたしがえらんだ真っ白な短冊!
 わたしが、さしあたって願うのは、両親のいないさみしさをイヤしてくれるヨリコさんが、いつまでもこの部屋にいてくれること。いつかは、ヨリコさんの心の病気も治って、この家からでていく日がくるかもしれない。その日が、なるべく来ないことを祈るのには、文字で書くとバレルので、わたしは短冊に何も書かなかった。



 いい年をした私が、親のギャクタイにまだまだ鮮明に思いを馳せるのは、それだけ子供心にも強烈だったということ!
 親は、自分の感情のままに、ギャクタイをつづけますが、受けた子供たちは幾つになってもけして忘れないという事実を思い出してほしいもの!

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「ダイゴちゃんのプレゼント」   光

2013/06/22 12:26
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 ダイゴちゃんは、お小遣(こづか)いで買った、赤いバラを一本、だいじそうにかかえていました。どうして買ったかというと、おばあちゃんが、お仏壇(ぶつだん)へかざる花を買いに花屋さんへよったから。
 花屋さんには、色々の花がありました。
 先月に母の日があったので、まだカーネーションが売られています。
 ダイゴちゃんは母さんに、お花をプレゼントしたことがありません。でも、花屋さんで、お花を見ていると、どうしても母さんにお花を買いたくなったんですよ。どの花にしようかまよいましたが、赤いバラにきめます。
 なぜ赤いバラかというと、母さんがとてもすきな花なんです。
 ダイゴちゃんは、いまはおばあちゃんとくらしています。
 家の近くには児童保護施設(じどうほごしせつ)があります。警察署もあり、ダイゴちゃんをとり返そうと、もし母さんや母さんの連れの男がやってきたら、にげる場所なんですよ。
 ダイゴちゃんには父さんがいます。
 でも、ダイゴちゃんが生まれてすぐに、離婚(りこん)してどこかへ行ってしまいました。だから父さんの顔を知りません。母さんは、ズーッとダイゴちゃんのそばにいましたが、このごろ知らない男の人を連れてきて、家族として住んでいます。
 母さんが連れてきた男に、ダイゴちゃんはどうしてもなじめません。
 男は、懐(なつ)かないダイゴちゃんを、大声でドナルこともありました。
 ダイゴちゃんがなぜ、男に懐かないかというと、男にはとても冷たい感じがあります。ダイゴちゃんをまるで、ケムシを見るようなイヤな顔で見るんですよ。そうなるとダイゴちゃんは、ますます男をきらいます。母さんのいないときは、男はギャクタイもします。男にエンリョしてか、母さんは親しみを見せないダイゴちゃんをたたきます。わけもなくたたかれるダイゴちゃんは、体いっぱいにイカリを見せて、反抗しました。
 ある日、母さんのギャクタイが度をすぎて、ダイゴちゃんは人事不省(じんじふせい)に!
 病院へはこばれましたが、医師は、ダイゴちゃんの体にのこる無数のキズにうたがいをもち、警察をよびます。
 ダイゴちゃんへのギャクタイが発見され、あまりにもひどいキズに、児童相談所が母さんや男からひきはなすことに。このまま放置(ほうち)すれば、ダイゴちゃんの死をイミします!
 おばあちゃんもよばれ、ダイゴちゃんは母さんたちからひきはなされます。すると、母さんも男も執拗(しつよう)にダイゴちゃんを取りもどそうと、不穏(ふおん)なうごき。
 フシギですねぇ、ダイゴちゃんをまるで犬やネコをたたくように、ヒドクたたくクセになぜ、じぶんたちの元に引き取ろうとするのでしょう?
 そのときの母さんは、男と同じくとてもコワイ顔をしていました。ダイゴちゃんは、ヒメイを上げて逃げまどいます。母さんの顔をした、コワイ女がいるんですよ。
 近所のおばあちゃんの知り合いや、児童保護施設の人々が動いて、母さんたちの誘拐(ゆうかい)は何とか防げましたねぇ。

 先月に「母の日」があり、テレビなどで花屋さんなどで売られている花が、ハナヤカに放映されていました。花を母さんへプレゼントする、小さな子供のシーンがダイゴちゃんの目を引きつけます。
 ボクにも、優しい母さんがいたのに。ヘンな男がいっしょに住むようになって、ダイゴちゃんをギャクタイするモンスターに変わってしまった。
 ボクも「母の日」に母さんへお花をプレゼントしたいのに!
 でも、でも、でも!
 コワイ人になってしまった母さんのそばには近づけません!
 それでも、ボクは母さんにお花をわたしたい!
 おばあちゃんとやってきた花屋さんには、「母の日」で送りたかったお花が、たくさんあります。
 赤いバラが、どうしてもダイゴちゃんの目からはなれません。母さんぐらいの女の店員さんに、
 「アノー、おねえさん。ボクはこの赤いバラをほしいんだけど、一本だけ売ってくれますか?」
 赤いバラの花は、大輪で値段も高いもの。そんなにたくさんは買えません。一本だけを売ってくれるかどうか、不安になって聞きます。ダイゴちゃんは少ししかお小遣いを持っていませんからね。
 店員さんは、ちょっとビックリします。まだ幼稚園に通っているらしい男の子が、一本だけのバラが欲しいというんですから。その店員さんは、店の責任者らしく、ダイゴちゃんを見ていましたが、
 「いいわよ、プレゼントにするんでしょう、きれいに包んであげましょうね」
 おばあちゃんが、遠くで見ていました。
 ニコニコしています。ダイゴちゃんが、じぶんにお金をもらいにくるか、と思っていました。でも、ダイゴちゃんは、ポーチからおばあちゃんにもらった小さなサイフを取りだして、
 「アノーッ、いくらでしょうか?」
 店員さんは、またビックリして、
 「そ、そうね、一本だけだから、百円でいいわ」
 
 帰りのタクシーの中で、おばあちゃんが、
 「ダイゴちゃん。お花を母さんへプレゼントしたいんでしょう?」
 「うん。この前の母の日に、ボクはお花をプレゼントしたかった。でも、コワイ母さんのそばにはよれないし、コワイ男もいるし」
 「じゃあ、きょう買ったお花は、どうやって母さんへプレゼントするの?」
 「おばあちゃんへたのもうと思っているんだけど」
 「おばあちゃんも、ダイゴちゃんの母さんや連れの男の近くへはよれないのよ。どんなトラブルがまっているしれないんだもの」
 するとダイゴちゃんは目をキラキラさせて、
 「おばあちゃんは、お仏壇をいつもお花でかざるじゃない。お花は枯(か)れて、思いをホトケサマへ届けるって。だからボクもこのバラをお仏壇へかざりたい。会えなくても、ホトケサマが届けてくれると思うんだけど・・・・・・ダメかなぁ!」
 おばあちゃんは、少し涙ぐみます。どんなにコワイ母さんでも、会えない理由があっても、ダイゴちゃんの母さんは、一人しかいなんですねぇ。
 「じゃあ、おばあちゃんがお仏壇へそなえて、それから『お花が母さんへ届きますようにって』お祈りをしましょう。ダイゴちゃんも、声にだしてお花が届きますようにって、ホトケサマへ祈るのよ」
 「うん、ボク、何回でもお祈りする!」
 ダイゴちゃんは、キラキラした目で真っ赤なバラを見つめます。ホトケサマがじぶんに代わって、母さんへ花を届けてくれるんだ、とうれしそうな目でしたねぇ。

 お仏壇の前で、おばあちゃんとならび、小さな両手を合わせてシンケンにお祈りをするダイゴちゃん。おばあちゃんはまた涙ぐみます。わけもなく、母が恋しい年ごろのダイゴちゃん!
 ホトケサマやカミサマでも、どうにもならない、人間社会の不合理(ふごうり)!
 かわいい孫がそのことを知るまで、何年かかるのでしょう?
 この子がブジに育つまで、じぶんの歳が足りるのかどうか、ホトケサマへ聞いてみたくなりました。



 大腸手術から、体調不良が続いています。少しずつ良くなっている?ようで、健康が戻りましたら、また元気よく「大人のメルヘン」を書きこみたいと思います。悪しからず!

 光
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 大人のメルヘン、子どもの情景「白いリボン」   光

2013/06/02 20:59
 
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 ヤエちゃんは小1。まだまだ幼稚園生が服をきて歩いているかんじですよ。
 春近くになって、家の近くのスミダ公園に植えられた、サマザマのポピーが花ひらいてきました。カラフルで、あたり一面がポピーの花というかんじ。
 このポピーにヤエちゃんは、親しみをかんじます。
 亡き母さんがとてもポピーを愛したから。母さんは庭にポピーを植えた鉢植えを、いくつも置いてセワをしていました。もうすぐ花ひらくばかりに、ツボミがふくらんでいます。

 母さんはトツゼンに亡くなりました。
 シズカお姉ちゃんと学校からの帰りに、運転していた車がジコへまきこまれます!
 二人とも病院へ運ばれましたが、命の火はふたたび点(とも)ることはありませんでした!
 当時、幼稚園へかよっていたヤエちゃんには、母さんやシズカお姉ちゃんの死に、感じるものがすくないのでした。ただ、母さんやシズカお姉ちゃんが、もう家へもどってこないということが、たまらなくさみしい。

 あれからヤエちゃんは、小1になります。
 学校はスミダ公園のそばにあり、おじいちゃん、おばあちゃんも近くに住んでいますから、ヤエちゃんは安心です。父さんは、会社から五時にはちゃんと帰ってきて、家事をします。おばあちゃんが手伝いにきますし、大学生の父さんの妹、マリコさんが、泊まりこんでなにかと手伝います。ヤエちゃんが学校へ行くのには、なんの支障(ししよう)もありません。でも、さみしいですねぇ!
 学校へ元気に通うヤエちゃんに、父さんは一抹(いちまつ)の不安が。
 ヤエちゃんは、なぜ、母さんやシズカお姉ちゃんの死に、子供らしい悲しみを見せないんでしよう?
 あまりの強い悲しみのショックに、心を閉ざしているのかな?
 ヤエちゃんは、母さんが亡くなってから、ポピーの鉢植えのセワに、異常(いじょう)な熱心さを見せます。だれもいないと、鉢(はち)へむかって長々と話しかけることも。
 でも、でも、でも、
 家族のだれも、ヤエちゃんの異常さには気づいていませでした。

 父さんは庭に、物置小屋を作るつもりで、ポピーの鉢植えを二つばかりのこして、すててしまいます。ヤエちゃんが学校へ行っているあいだのこと。物置小屋は鉄のコンテナーの箱で、ただ庭の隅(すみ)におくだけ。でも、置くのには工事がヒツヨウで、鉢植えの鉢(はち)がジャマになります。ポピーだけではなく、めずらしい植物の鉢も、すてられました。
 学校から帰ってきたヤエちゃんは、庭の異変(いへん)に気づき、走ってきます。ちょうど父さんがいました。ヤエちゃんは、
 「父さん。ここにあった母さんのポピーの鉢植えは?」
 「物置をつくるので、二つばかりのこしてすてたよ。すてたのは害虫もついていて、タイヘンな鉢だった。物置ができたら、また父さんが鉢を買うから、新しくポピーを植えたらいいよ」
 「で、でも。あれは母さんがダイジにしていたポピーなのよ。あ、あたしがいつも母さんに話しかけるポピーだったのよ。母さんも、いつもあたしに話しかけてくれるポピーだったのよ!」
 ヤエちゃんは、ヒッシで言いつのります。ふだん、あまり感情をしめさないヤエちゃん。涙を流しながら父さんに食ってかかります。おばあちゃんが出てきて宥(なだ)めますが、ゼンゼン聞きいれません。父さんはもてあまして、
 「物置ができたら、きっと新しい鉢を買うから、今はガマンして」
 「父さんは、あたしに聞いてほしかったわ。あたしがとてもダイジにしていた鉢だ、ということを知ってほしかったのに!」
 ヤエちゃんは、
 「父さんなんか、大きらい!」
 そのまま自分の部屋へ。父さんはすっかり肩を落として、娘を見送ります。学校でもおとなしいヤエちゃん。母さんやシズカお姉ちゃんが亡くなっても、あまり悲しみの感情をみせなかったヤエちゃん!
 どこにこんなはげしい怒りをかくしていたんでしょうか?

 夕食には、父さんはヤエちゃんの大すきな、ハンバーグとタマゴ焼きを用意します。
 部屋へよびに行きましたが、ヤエちゃんの姿がありませんでした。大声で父さんはヤエちゃんをよびます。
 ヤエちゃんの姿は家のどこにもありません。
 おばあちゃんやおじいちゃん、マリコ叔母さんも手分けしてさがしますが、ヤエちゃんは家から消えたまま。

 ヤエちゃんは、ポピーが満開のスミダ公園の片隅(かたすみ)にいたんですよ。
 大勢の見物する人々が夕方になると、公園からかえっていきます。ヤエちゃんはポピー畑にいたのですが、公園の管理室がある小屋へ。管理人さんも公園の門をしめると、かえってしまって小屋は無人。ドアにはカギがかかっていませんでした。
 夜になると、公園のあちらこちらに灯がともります。でも、ウス暗く管理人さんの小屋の窓から見る、広大なポピー畑は、夜のシジマの中で黒々としてブキミ!
 ヤエちゃんは、はじめは小屋の灯りをつけました。すぐに消します。灯りをつけると、あやしんだ管理人さんがもどってくるかも。ヤエちゃんは、窓から黒々と静まりかえるポピー畑ににむかい、
 「お母さん。お庭のポピーの鉢を、父さんがすてたんですって。あたしが母さんとお話ができる、ポピーの鉢だったのよ。シズカお姉ちゃんとも話せる鉢だった。それを父さんは、あたしに何も聞かずにすててしまった。
 大っキライだわ、父さんなんか!
 でも、どうしよう、母さん。家を飛びだしてきたけど、あたしにはどこへも行くところがないの!」
 公園の夜に埋もれたポピー畑は、ヤエちゃんの問いかけになにも答えません。そのうちに、ヤエちゃんは窓の下においてあったテントの、畳(たた)んだ上に横になります。そして眠ってしまいました。

 朝が明け、肌寒いのでヤエちゃんは目がさめました。
 キョロキョロとあたりに目を泳がせ、スミダ公園の管理人さんの小屋、とわかりました。きのうの夕方にここへ入り、そのまま眠ってしまったようです。小屋の中の壁の時計が、六時をしめしています。朝がすっかり明けて、公園のポピー畑が広々として見えます。
 ヤエちゃんは小屋からでて、ポピー畑を歩きます。冷たい朝の風に、ポピーはユラユラ!
 花畑の真ん中へきました。まるでポピーの海にヤエちゃんはいるようです。ヤエちゃんは、
 「お母さん。出てきてチョウダイ!あたしは母さんと、お話がしたい。シズカお姉ちゃん。どこにいるの?」
 -----ここにいるわよーッ、ヤエちゃん!------
空から白いロングドレスを着た母さんが、スーッとポピー畑へあらわれました。そばには同じく、白いロングドレスのシズカお姉ちゃんが。二人はポピーをかき分けて、ヤエちゃんへ近づいてきます。ヤエちゃんは、ビックリしてその場に固まります。
 やがてそばへきた母さんは、手にした白いリボンを、立ちすくんでいるヤエちゃんの長い黒髪に、むすびつけました。
 むすんでから母さんは、やさしくやさしく、ヤエちゃんを抱きしめます。
 フシギなコトに、母さんは公園を吹きぬける肌寒い風のかんじがしました。おなじくヤエちゃんの肩に手をかけるシズカお姉ちゃんの手は、朝露(あさつゆ)のように冷たいもの。母さんは、
 「ヤエちゃん。わるい子!お家をだまって飛びだしてきてはいけないのよ。この世で一番ヤエちゃんを愛している、父さんが死ぬほど心配している。このリボンは父さんが、ヤエちゃんの入学式に用意したものよ。父さんをここへよぶ目印(めじるし)の白いリボン。はずさないでね。ヤエちゃんにもしものことがあれば、母さんもシズカお姉ちゃんも、もうあらわれることができなくなるのよ」
 母さんは、静かにヤエちゃんの体をはなすと、スーッとさらに明るくなりはじめた空へ消えていきました。
 ヤエちゃんは、われに返ってあたりを見まわします。
 公園の入り口から、青い顔をした父さんが、ヤエちゃんの姿を見つけて走ってきます。父さんは、半分泣き声で、
 「ヤ、ヤエ。ここにいたんだ。母さんがあらわれて、ヤエの髪にリボンをむすんだから、スミダ公園へきてチョウダイ、と知らせてきた。夢なのか何かわからないけど、とにかく、ヤエに会えるなら、と走ってきた。よかった!」
 父さんはふるえる手で、立ちすくむ娘を抱きしめます。
 ヤエちゃんは父さんの胸に顔をうずめましたが、とても温かい感じがするんですよ。母さんやシズカお姉ちゃんは、冷たい風や朝露の感じがしたのに、父さんはとても温かい!
 父さんはヤエちゃんを背中へ負うと、しっかりした足取りで家へむかいます。
 家からトツゼンに消えた娘は、カラフルなポピー畑に、白いリボンをつけて佇(たたず)んでいました。天国からやってきたた母さんが、むすんだ白いリボン。遠くからでも、白いリボンはよく見えました。でも、父さんはヤエちゃんの入学式に、用意したリボンだとは気づきません。
 背中へ背負った娘は、やがてスヤスヤと眠りはじめたようです。
 父さんはじぶんの背中で眠りはじめた、小さな娘がとても温かいとかんじています。娘は母を亡くした悲しみ、姉を亡くしたさみしさを、身近な花に託(たく)していたのを知りましたねぇ。
 本当は、とても意志の強い女の子なのだ、と父さんは知りましたねぇ。
 でも、でも、でも、
 父さんにとって、とても大事な娘なんですよ。


 愛らしい娘の、意外な反抗に父さんは振り回されます。これから大変だ!

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「サユリちゃんの手紙」   光

2013/05/18 17:41
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 小5になったサユリちゃんは、母子家庭で育ちましたが、とても活発な女の子。目下の悩(なや)みは、お小遣(こづか)いが少ないこと。しかたがありません。母さんが一人でサユリちゃんと住む家庭を、切り盛(も)りしているんですからねぇ。朝から夕方おそくまで仕事をしている母さんを見て、もっとお小遣いをほしい、とはいえません。いわなくても、そこそこのお小遣いは母さんからもらっています。
 サユリちゃんのお友だちも、母子家庭で育った女の子たち。学校のクラスでも、母子家庭がイガイに多いそうです。イガイに多い、といったのは近くに住む幼稚園の保育士ではたらいているおばあちゃん。保育園の近くに一人で住んでいますが、さみしくないそうです。子供たちがたくさんいるし、子供たちの声を聞くと心が癒(いや)されるそうです。おじいちゃんは、十年ぐらい前に亡くなっていて、それから独(ひと)りくらしがつづいています。
 娘である母さんがいっしょに住もうといいましたが、ことわって一人で住んでいるのは、やはり母さんにメイワクをかけたくない心から。トシヨリは、いっしょに住んでいれば何かとたよりたくなるもので、そんな重荷(おもに)を母さんにかけさせたくない、といつの日かサユリちゃんの耳へコショコショ!
 サユリちゃんのクラスメートでもあり、仲のいい友だちは、マミちゃん、サキちゃん。
サキちゃんは背の高い女の子。マミちゃんは、三人の中で一番小さい女の子。いずれも母子家庭で、サユリちゃんと同じお小遣いの少なさが、なやみのタネでした。でも、お金がなくても、三人ともお店を見てまわるだけのショッピングが大すき!
 サユリちゃんの母さんは、勉強しなさい、とおこることはありません。
 「勉強は、サユリちゃんのためにすること。しないとしてもそれは、サユリちゃんがじぶんでソンするだけ。母さんは痛くもかゆくもないわ。サユリちゃんは、勉強がゼッタイにヒツヨウなことだと、母さんの姿を見て、感じてちょうだい。その上で勉強などしたくなかったらしなくてもいいし、それはサユリちゃんの自由!」
 脅(おど)し文句(もんく)の数々に、サユリちゃんは内心ふるえ上がります。ゼッタイに勉強はしなくてはならないンです!
 だから、人の何倍もの勉強はしていて、学校の成績もいいのですが、
 でも、でも、でも、
 お小遣いがタップリと欲しいなぁ!

 ある小雨の休日に、三人娘は、都心のデパートをハシゴしてショッピング。見てまわるだけでも、とても楽しいもの。
 母の日が近づいていますから、娘たちの足は自然に母へのプレゼント用品売り場へ!
 ジュエリーの店舗(てんぽ)がならぶフロワァーへきました。若い女の子やお年寄りやサユリちゃんの年ごろの女性たちが、ウヨウヨ!
 三人娘も、なるべく安そうなジュエリーを見つけては、そばへよっていきます。ざんねんなことに、どれも安くはありません!
 サユリちゃんはため息をつきながら、
 「サキちゃん、ミマちゃん。母の日には何をプレゼントするの?」
 「あたしはお金がないので、ナシ!大きくなってはたらきはじめたら、ソコソコのプレゼントをするつもりだけど」
サキちゃんは、大人びていいます。マミちゃんが、
 「あたしは、母さんがマックがスキなので、それにするわ。安いもんだしねぇ。で、サユリちゃんは?」
 「あたしは、おなじくお金がないので、絵を描いてプレゼント」
 サキちゃんもマミちゃんも、ため息をつきながら、
 「いいわねぇ、サユリちゃんは絵が本当にじょうずだもん」
 「そんなことはないわ」といいながら、サユリちゃんはニコニコ。二人の気の置けないナカマからの褒(ほ)め言葉は、悪くありません。
 三人はかたまって歩きます。
 あるジュエリーの店では、サユリちゃんだけが少しはなれた場所へきていました。店では、たくさんの商品を店頭(てんとう)にならべています。若い女の子たちが群(むら)がっています。みんなが品定(しなさだ)めをしているのは、銀のチェーンのネックレス。銀のチェーンのペンダント。
 ある一人の女の子が、キョロキョロとあたりを見まわし、スバヤクじぶんのポーチに、ペンダントをすべりこませました。そのまま人ごみに紛(まぎ)れて店をでていきます。
 万引(まんび)きだ!
 サユリちゃんは、じぶんがやったのではないのに、足がふるえます。手にアセがふきだし、顔が火照(ほて)ってきました。
 どうしよう!
 サユリちゃんは、女の子の、万引きの現場を見てしまいました!
 だれかに知らせなければ!
 でも、サユリちゃんは、その場に動けないまま。何もできません。サキちゃんとマミちゃんがよってきて、マミちゃんが、
 「どうしたのサユリちゃん。顔色が真っ青!気分がわるいの?」
 「えっ?ええ。人があまりにも多いので気分がわるくなったみたい」
 三人はそのままジュエリーの店を出ていきます。
 おどろいたのは、先ほどのジュエリーを盗んだ少女が、ナカマと思える数人と、広場の小さな噴水(ふんすい)の場所にかたまっていたこと。なにごともなかったように、楽しげにさわいでいる姿が信じられません。
 その日は、サユリちゃんたちはお家へ帰りました。

 母の日のプレゼントは、あのジュエリー店のペンダントが、とてもいいとサユリちゃんは思います。正札には5000円!
 サユリちゃんには買えそうもない値段(ねだん)。でも、あの女の子は、人ごみを利用してすばやくペンダントをじぶんのポーチへ。女の子はつかまらなかったのです!
 サユリちゃんの心に黒い影がボソボソとささやいて!
 ------サユリ!わからなければ、何をやってもいいのよ。これで、母さんのプレゼントは、オーケーだわね・・・
 サユリちゃんは、思わずあたりを見まわします。
 いまはじぶんのアパートの一室にいました。
 母さんはいません。母さんは外で夜おそくまではたらいていてますから。家ではサユリちゃんは一人で食事をし、一人でおフロへ入り、 一人で勉強して。
 なんでも、一人でやらなければなりません。それが母子家庭の生活なんです。
 一人でモノ思いに耽(ふけ)る部屋で、またしてもサユリちゃんの心の黒い影が、ボソボソと、
 -------サユリ!あの店ではカンタンに盗(ぬす)めるのよ。あんたにはお金がない。母の日に、あんたが気に入った銀のチェーンのペンダント!母さんにプレゼントするチャンスよ!
 盗んでもバレなければ、罪にはならないんだ、あの女の子のようにね!・・・・・
 
 また日曜日がきました。
 母の日が近いので町には、プレゼントの商品があふれています。サユリちゃんのお財布には、少ししかお金が入っていません。
 母さんに、母の日のプレゼントを買いたいのに!

 あいかわらず三人娘は、繁華街をショッピング。店のウインドーガラスを覗(のぞ)きこみながら、ブラブラ!
 いつものデパートへきていました。
 魅惑的(みわくてき)なジュエリーを、店頭へならべているお店へきてしまいました。
 サキちゃんも、マミちゃんも、きょうは熱心にジュエリーを見ています。もちろん、母の日のプレゼントに、千円ぐらいなら一つ買おう、と目がキラキラ!
 店頭にならべられたジュエリーの正札(しょうふだ)には、五千円から上の商品ばかり。もっと安いのは、とさがしましたがないようです。大勢のお客さんが引きも切らず入ってきます。
 こりゃあダメだ!
 三人娘はため息をつきます。
 サキちゃんが、
 「今年も母の日のプレゼントはなしだわ!」
 「今年も母さんを、マックに招待するわ。あそこのマックは、おいしいし、あたしのサイフにやさしいし。サユリちゃんは?」とミマちゃん。
 「・・・・あたし今年はプレゼントはなしだわ。何しろフトコロがさみしいし、母さんにはムリをいえないし」
 でも、でも、でも、
 三人は、あちらこちらのジュエリーのお店を、次から次へと見てまわります。あの少女が万引きしたジュエリー店に、三人はいました。
 サユリちゃんは、いつの間にかサキちゃんやマミちゃんとはぐれて、一人でジュエリーを品定めしていました。サユリちゃんが特に気に入った、白鳥貝(はくちょうがい)をハートに細工して、細い銀のチェーンで吊るしたペンダント!
 正札には8000円!
 サユリちゃんは、キョロキョロとあたりへ目を泳がせます。
 -----サユリ!チャンスは二度とはないのよ・・・・・
 サユリちゃんの心の黒い影が、しつこくささやきます。
 サユリちゃんは、ふたたび、あたりをキョロキョロ!
 体中にアセがふきだしてきました。目がボーっとして、見えているのは自分の手先だけ!
 ふいに、母さんの、
 『サユリ!母さんの一番のジマンは、どんなことがあっても他人のモノに手をかけたことがないコト。あたしが胸をはって、娘にいえる言葉なのよ!・・・・』
 サユリちゃんは、何度目かのタメライの後に、ソーッと手にした白鳥貝のペンダントを、元の場所へもどします。涙があふれてきました。ふいてもふいても涙は止まりません。涙をふく手の甲(こう)がベチャベチャ!
 考えてみれば、ぬすんだ白鳥貝のペンダントをプレゼントしても、母さんが喜ぶはずはないんですねぇ。
 
 いつのまに来ていたのか、大柄な母さんのような感じのおばさんが、サユリちゃんの顔をハンカチでふき、それからアセでベトベトした手や手の甲もふきます。ニコニコしながら、
 「どうしたの、頭がいたいの、カゼかしらねぇ。お名前は?」
 「サユリ」
 「サユリちゃん。頭が痛くなることは、ときどきあるのよ。でも、ガマンしなくちゃあね」
 おばさんは、意味不明の言葉を口にしましたが、目はまるで母さんのような優しいものでした。
 はぐれていたサユリちゃんをさがして、サキちゃんミマちゃんがきました。涙をふいてくれたおばさんの姿は?
 人ごみにまぎれて見えません。

 母の日の当日!
 サユリちゃんの母さんは、プレゼントではない手紙を、サユリちゃんからもらいました。いつもサユリちゃんは、母さんに手紙を書きます。母さんも、仕事がいそがしいときは、手紙をテーブルに置きます。ガミガミと娘へいうより、とてもカンタンで意志が通じる母と娘の郵便屋さん!
 さて、娘はどんな便りをじぶんに書いたものか、と母さんはなかば楽しみ。
 サユリちゃんは、ナカヨシの友だちとデパートめぐりのショッピングで、家にはいません。きょうはレストランへ連れて行ってやろう、と考えていたのに、娘はさっさと自分の世界へ。
 母さんは何気なく手紙を開きます。
 
 -----かあさん、どうしてもいえなかったことを手紙にかきます。
 あたしは、女の子がお店のものを、ぬすむのを見てしまいました。じぶんもできるのではと思い、つぎの日にお店へいきました。でも、なにもできませんでした。ぬすもうとしたときに、かあさんの声がきこえたのでやめました。そのときに、なみだがでて、あせもでてきて、目の前がまっくらになり、からだがふるえました。どこかの知らないおばさんが、あたしのなみだと手のあせもふいてくれました。おばさんはかあさんのような目をしていました。
 かあさん、ごめんなさい。
 いつかおとなになったら、すばらしい母の日のプレゼントをしたいとおもいます。
                                                        サユリ。-----
 
 母さんは、手紙をたたみ胸に抱きます。
 サユリちゃんは、どこかの女の子が万引きするのを見て、じぶんもと思ったのでしょう。
 万引きしてまでほしかったものは、母さんへの母の日のプレゼント!
 サユリちゃんはその時、母さんの声を心に聞いて、盗みをやめたようです。サユリちゃんは、母さんの生きざまを、しっかりと見つめて成長しているンですね。
 母さんはサユリちゃんの手紙を、リビングの壁にかけてある、母さんとサユリちゃんがならんだ、小学校入学式の写真の額(がく)へ入れます。娘からもらった、宝石よりもすばらしい心の手紙!
 いつも見える場所に置きたかったんですよ。母さんは、母の日に受け取る、世界で一番ステキなプレゼントだと、手紙を眺(なが)めながら思いました。


 

 ある保護司の資格を持った年配の女性から、もう少しで万引きをするところだった少女をの話しを聞きました。万引きをしようとする少女は、凄まじい心の葛藤に苦しみ、多くは盗むのをやめるとか。日ごろの母親の生きざまが、少女の犯罪の道へ入るのを踏みとどめさせているようです。

   光
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大人のメルヘン、子供の情景、「母の日に寄せて、童(わらし)の話し」    光

2013/05/12 10:38
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 おじいちゃんが、ときどきカナコおばあちゃんに、
 「カナコ。家にときどきあらわれる『童(わらし)』を見たことがあるか?」
 おばあちゃんはヘンジにこまりました。童とは、東北の古い大きな家にあらわれるという、正体不明の子ども。オカッパ頭で、四、五歳ぐらいの男の子か女の子かわからない、性別不明の子ども。たいていユカタを着ていて、庭を歩くときは藁(わら)の草履(ぞうり)で、部屋へあらわれるときは裸足(はだし)!
 ほとんどものをいわないそうです。でも、見る人によればカワイイ男の子!あるいはカワイイ女の子!
 家に福をもたらすという物の怪(モノノケ)の一つでしょうねぇ。
 おばあちゃんは、おじいちゃんの顔を見ながら、
 「さあ?・・・・あたしは見たことがありませんよ・・・あなたは、ずいぶん前にも、家に座敷童(ざしきわらし)がいる、と話したことがあったわねぇ。あれは息子のクニオの双子の兄、ヨシオが亡くなってからかしら・・・・」
 「そうだよ・・・・ヨシオが、インフルエンザであっ気なく亡くなったのには、目の前が真っ暗になるほど悲しかった。もう一人クニオがいるではないか、と思いなおしたけど…・二人とも中学一年生で、かなり大きかったな・・・・その時に、小さな男の子、そうだなぁ五、六歳ぐらいか。家の中をチョロチョロ走り回るのを見たんだ。男の子は、かわいい顔をしていた。フシギなコトに、モノをゼンゼンいわないし、笑い声もたてない。でも、庭からきたときは、きちんと草履(ぞうり)をぬいで家へ入ってくるんだ。ワシが草履では足が痛かろう、とスニーカーをあたえたけど、履(は)いたのかどうかわすれた。
 あの当時のワラシが、またチョロチョロと家の中を走り回るのを見るようになった・・・こんな話をすると、カナコはきっとワシが、認知症になったと思うかもしれないけどねぇ・・・」
 大きなため息とともに、おじいちゃんにいわれると、おばあちゃんはマスマス言葉につまります。

 おじいちゃんは若いころに、おじいちゃんの父さん、曾(ひい)じいちゃんから引き継(つ)いだ家を、大きく建て増ししたんです。家を家族でいっぱいにするんだ、と張りきっていましたねぇ。息子たちが結婚して、その子供たちで家をいっぱいにしたい、というのがおじいちゃんのネガイ!
 でも、でも、でも!
 おじいちゃんのネガイはかなえられません。
 おじいちゃんが経営する会社に、ちょっとした問題がおこります。イラだったおじいちゃんは大きな家を、家族がみんな外へ出て行ってしまうほどの修羅場(しゅらば)にかえてしまったんですよ。
 すべて、おじいちゃんの思いこみや、いら立ちからです。
 たった一人の男の子である、幼稚園の年長さんのキヨシちゃんの父さんが、家を出ていきます。
 キヨシちゃんの父さんは人と争うのがきらいで、おじいちゃんの事業を引き継(つ)ぐのを拒否(きょひ)!
 家を出たんですねぇ。経営をめぐって人々との争いがとても多いから。強引な性格のおじいちゃんは、人との争いがたえません。
 クニオ父さんはおばあちゃん(父さんの母さん)によく似ていて気のやさしい性格。でも、芯(しん)はなかなか強く意志をまげないところは、おじいちゃんにソックリかな。
 いまでは父さんは東京の真ん中で暮らしていて、お仕事は大学の教授。
 キヨシちゃんは、じつは双子の兄弟の弟のほう。お兄ちゃんのキヨテルちゃんは去年に、インフルエンザで亡くなってしまいました。
 キヨシちゃんは気性がおじいちゃんにソックリ。
 隔世遺伝(かくせいでん)だと父さんは苦い顔。GWには必ず、キヨシちゃん、三人のお姉ちゃんと父さん母さんは、おじいちゃんの家へ遊びにきます。
 でもねぇ、お兄ちゃんを亡くしたキヨシちゃんは、遊びにきてもとてもさみしそう。
 どちらかといえば、キヨシちゃんがお兄ちゃんのキヨテルちゃんを引っぱりまわしていた感じ。このごろキヨシちゃんはいつも、何かをさがすようにキョロキョロ。落ちつきがありません。

 おじいちゃんの家は大きく広いし、来客用の部屋がいくつもあります。
 それらの部屋をキヨシちゃんは元気いっぱいで走り回ります。
 ある昼下がりに、おじいちゃんが縁側(えんがわ)のある部屋で、庭先に広がるバラを見ていました。
 外国から取りよせた、めずらしいバラが庭へいっぱいにカオスのように植えられています。でも、人が通られるぐらいのが道があり、バラを眺(なが)めて散歩ができるのでした。バラの庭は広く、中へ人が入ると、見えなくなってしまいます。
 バラの庭は、以前はオンコ(イチイ)の木がいっぱいに植えられていました。秋になると赤い実が成り、それは甘いので子供たちが大スキ。種に毒があるというので庭には、おじいちゃんはだれも入れません。
 でも庭にはそぐわない巨木です。
 大きくなると木が家をおおってしまって、かくれてしまいます。風よけにいいとおじいちゃんは考えたようですが、双子の息子で兄のヨシオが、オンコの木から落ちてケガ。そのまま寝こみ、重いカゼを引いて亡くなります。ヨシオはおそらく、真っ赤に熟(う)れたオンコの実を取ろうと、木に登り落ちたのでしょう。
 息子が亡くなったのはオンコのせいだ、とおじいちゃんは、すべて切ってしまいます。
 それからしばらくは、広々とした庭に、雑草が生えていました。
 庭へバラの花を植えたのは、おばあちゃん。
 ホンの少しだけでしたが意外に美しく咲いたので、凝り性(こりしょう)のおじいちゃんは、外国からバラを取りよせ、まるで植物園のような庭を作ったのでした。
 バラの花の園をつくてから、おじいちゃんはキミョウなことを、おばあちゃんへいいます。家に童(わらし)がきている、というのです。昔からいい伝えられている、古い家に住みつくという童!
 なぜ、そんなモノノケのような子供が住みつくのか。フシギなコトに童は、おじいちゃんにしか見えないのでした。おばあちゃんは、笑って聞き流していましたが、おじいちゃんの真剣(しんけん)な顔に、もしや、と不安な気持ち。人に見えないものが見えるようになると、心の病気にかかるとか!
 当時の、おじいちゃんの気持ちは最悪!
 事業が思わしくなく、アブナイところまで会社はきていたんですよ。おじいちゃんの気持ちのイライラが高じて、家族がバラバラの状態になったのはじつは、このとき!
 
 「なぜ、童の話しをまたするんですか?」 おばあちゃんの問いに、おじいちゃんは、
 「お前にも、ワシの見えるものが見えるのかなぁ、とおもってね」
 「あたしには見えませんわ」
 「そうか・・・・じつはな、孫のキヨシには見えているんだ。ここへ家族があそびにくるようになったのは、父さんのクニオへしつこいほどたのみこむ、キヨシの思いがあったとか。キヨコさん(キヨシちゃんの母さん)がそういっていた。おじいちゃんの家に、お友だちがいるから、とキヨシが話すとか。母親のキヨコさんも知らない、キヨシのお友だち。それはクニオも聞いて知っているんだ・・・・」
 「・・・・二人のお姉ちゃんは?」
 「二人のお姉ちゃんは、しっかりしていてモノノケの話しなどゼンゼン!」

 いよいよ、GWに入ると息子のクニオの家族が、にぎやかにおじいちゃんの家へやってきました。おじいちゃんは、これを待っていたように、大はしゃぎ!
 その前に庭師をよんで、庭の手入れを入念にさせました。子供たちのスキなおカシを用意し、息子のクニオのスキな赤ワインや、キヨコさんのスキな本マグロ、焼き肉もたっぷりと用意します。おばあちゃんの目を引いたのは、四、五歳の子どもの、青い矢絣(やがすり)のユカタと赤いスニーカー。
 みずからおじいちゃんが買ってきたものです。キヨシちゃんへプレゼントでしょう。
 もう一つ変わったことといえば、庭に面した来客用(らいきゃくよう)の一番ハシの部屋を、お手伝いさんを使ってきれいにソウジさせたこと。その部屋だけはムキ出しの古い化粧(けしょう)レンガで、壁が作られていていました。廊下からドアがあり、反対側のバラの園に面した壁は、総ガラス製でクモリガラスが使われています。部屋には、イガイにソマツな木製の小さなテーブルと、テーブルをかこむ木製のイスが四脚(よんきゃく)。
 シャレたブロンズ製の格子状(こうしじょう)の窓があります。ベージュ色の厚(あつ)いカーテンが引かれています。おじいちゃんがみずから設計(せっけい)して、建築屋さんに作らせた部屋。
 この家には、そぐわないキミョウな部屋だ、とおばあちゃんやまだ生きていたおじいちゃんの両親や、おじいちゃんの親せきからは不評(ふひょう)の高いものでした。でも小さいころの子供たちは、この部屋を好んで遊び場にしていましたよ。どの部屋よりも広く、オーク材のフローリングのユカなので、きずつける心配がありません。子どもたちの、お気に入りの部屋でした。
 子どもたちが大人になり、家を去って家族を作ると、そんなムカシのことは忘れたようです。でも、孫たちは独立していった息子たちよりも、自然に、ノビノビと家にいることを楽しんでいました。キヨシちゃんの二人のお姉ちゃんは、庭がお気に入りで、よくよく庭で遊んだり、近くを流れている小川へ魚釣りに出かけたり、お友だちにプレゼントするんだ、とさまざまのチョウチョを取るのに夢中!
 おじいちゃんの家は、まるで山にいるような静けさを感じる、大きな敷地(しきち)の中にあるんです。でも、まあ、東京とくらべたら、イナカなのはマチガイありませんが。

 息子のイクオの子供たちは、大分成長していました。
 キヨシちゃんは、もう小1。二人のお姉ちゃんは小3と小5。二人のお姉ちゃんには、未来のレディーの片りんが見えますが、キヨシちゃんは、幼稚園生から小1になったばかりの男の子。明るくてかわいいですねぇ。明るさの中に、キヨテルお兄ちゃんを亡くしたサミシサは、まだまだ影を引いているようでした。
 遊びにきたアイサツをするキヨシちゃんに、おじいちゃんは耳元で何かコショコショ!
 キヨシちゃんは、うれしそうにうなづくと、まっすぐにレンガの壁の部屋へ!
 レンガ壁の部屋には、窓にむかって右側の壁に、小さな本ダナ。本ダナには青い矢絣(やがすり)のユカタと、赤いスニーカーが入った箱がありました。
 キヨシちゃんは、窓へむかって、
 「タロウちゃん。おいでよ、おじいちゃんが、ボクがたのんだものを買っておいてくれたんだ!」
 するとガラス窓を外から開けて、ボロボロの紺(こん)の矢絣(やがすり)のユカタに、これもボロボロの赤っぽいスニーカーを履(は)いた、オカッパ頭のキヨシちゃんぐらいの男の子が入ってきました。
 ・・・・キヨシちゃん、よく来たねぇ。今年は寒いだろう?・・・
 「うん、ちょっと寒いね。タロウちゃん、さっそく着がえてみようか!」
 ・・・・うん、でもちょっと体がよごれているから・・・・・
 「お風呂へ入ればいいじゃん」
 二人が話しをしているときに、おばあちゃんが入ってきました。タロウちゃんは、すぐに、逃げようとします。キヨシちゃんが
 「タロウちゃん。ダイジョウブだよ。ボクの一番スキなおばあちゃんだよ。タロウちゃんも知っているだろう!」
 ・・・・うん。でも、はずかしいし・・・・
 おばあちゃんは、おどろきで声が出ませんでしたが、すぐに落ちついて、
 「タロウちゃん、お風呂へ入りましょうか、もうお湯を沸(わ)かしてあるのよ」
タロウちゃんは、はずかしそうにモジモジしていましたが、
 ・・・・キヨシちゃんも入るなら・・・・
 「いいよ。この前もいっしょに入ったじゃん。あのときはおじいちゃんもいっしょだったね」
 ・・・・・そうだったね。じゃあ、キヨシちゃん、いっしょにお風呂へ入ろう・・・・
 タロウちゃんは、両手に大事そうにユカタとスニーカーの入ったハコを持ちます。おばあちゃんが先に立って、お風呂場へ歩きます。おばあちゃんの心臓はまだドキドキ!
 とうとう、おじいちゃんの話していた童(わらし)に出会えて、声を交わしたしンですよ。モノノケではなくキヨシちゃんと同じ男の子。オカッパ頭ですが、とてもかわいい顔をした子ども。でも矢絣のユカタはどうしたことかボロボロ!
 赤いスニーカーもボロボロ!
 でも、でも、でも、
 新しいユカタとスニーカーを抱えたタロウちゃんの、こぼれるようなうれしそうな笑顔が慕(した)わしいのです!
 どこから見ても普通の子どもなのに、窓からスルリと入ってきたのを、おばあちゃんは見ています。キヨシちゃんのよび声に、すぐにやってきたのを見ると、バラの庭に住んでいるのかしら?
 風呂場は、部屋から近くにあります。来る人に温かい風呂をゆっくり楽しんでもらおう、とおじいちゃんが三つも作ってありました。どれもすぐに入られるように、温めてあります。
 お風呂ではおばあちゃんが、キヨシちゃんやタロウちゃんの背中や頭を洗います。タロウちゃんの体はよごれていました。おばあちゃんは、大事そうにタロウちゃんの体を洗います。この子がおじいちゃんがよく見る、この家の子ども!
 つまり東京に住むキヨシちゃんよりも、もっと身近な子供なんですねぇ。シャンプーで洗うタロウちゃんの頭は、マチガイなくキヨシちゃんの頭と同じ人間の子どものもの!
 体の温かさは、マチガイもない人間の子ども!
 二人の子供は、カラスの行水(ぎょうずい)よりは長いのでしたが、すぐに出ます。おばあちゃんはそれぞれにバスタオルをわたします。それから、タロウちゃんのユカタの着付けを手伝います。タロウちゃんはイガイにも、着物の着方がわからずウロウロ。おばあちゃんが見かねて手伝いはじめました。
 おばあちゃんの手の中で、おとなしくユカタを着るタロウちゃんの息遣(いきづか)いが、とても慕わしく感じます。ムカシムカシ、子供たちをこんなグアイにして育てた、と今さらのように思い出したんです。
 風呂から出ると、キヨシちゃんが、
 「おばあちゃん、タロウちゃんの部屋へ行こうよ。タロウちゃんがメズラシイ窓を開けるそうだから」
 おばあちゃんはケゲンそうな顔で、
 「メズラシイ窓が、どこに?」
 ・・・・ボクの部屋にあるんだ。この家のおじいちゃんの窓だけど・・・
 「おじいちゃんの窓から何が見えるのかしら?」
 おばあちゃんは興味津々(きょうみしんしん)の顔を輝かせます。
  
 おじいちゃんが特別に造ったお部屋でした。タロウちゃんは、
 「おばあちゃん。ドアを開けてね」
 「・・・・?!」
 おばあちゃんはドアを開けます。
 タロウちゃんはみんなを窓辺へ案内すると、クモリガラスの壁にはめこまれた格子状ブロンズ窓を開けます。窓の外の景色が見えました。
 窓の外には、おどろいたことに海が見えます。透(す)きとおっていて、底には黒々とした深淵(しんえん)が広がっているようです。こわごわとキヨシちゃんとおばあちゃんは、目を泳がせます。窓の外にはおじいちゃんが作り上げた、バラの花園が広がっているはずなのに。
 海では、どこからともなく人々が泳いできて、窓へ近よってきます。男も女もいて、数は少しずつふえていきました。最初に泳ぎついた数人が、窓から入ってこようとしています。おどろいたのは、人々は死人で、しかも半ば白骨化していました。わけのわからない声で、さけんだり、うなったり、中にはお経を唱(とな)えているような声の人も。おばあちゃんは、悲鳴を上げそうになりましたが、フト、キヨシちゃんを見て声を飲みました。キヨシちゃんは、コワそうなのにさけびません。おばあちゃんは、
 「キヨシちゃん、コワくないの?」
 「コワくないよ、こんなのはいつもアニメで見ているから」とキヨシちゃん。
 「これはアニメではないのよ。海から上がってきたのは、骨になりかけた死んだ人なのよ。ゾンビのようなモンスターかもしれないわ」
 おばあちゃんは、ふるえながら二人の手を引いて、部屋のドアへむかいました。でも、ミンナで入ったドアは消えています。代わりにドアの右側の壁に、白い襖(ふすま)の引き戸が見えます。ほかに、逃げられるドアはありません。おばあちゃんが、引き戸を引き開けたときに、ド、ド、ドシャーン、とユカへたたきつけられるようにして、怪物たちが窓から部屋へなだれこんできました。
 ヒェェェーーーーッ!
 おばあちゃんは、悲鳴を上げながら、それでも子供たちの手を離さず、フスマの引き戸の中へ。
 次の部屋には窓がありません、というより窓のある壁がないのです。外の風景がもろに見えて、冷たい風が吹きこんできます。雪のチラチラふる荒野で、茶色の荒々しい形の大きな石がゴロゴロ!
 灰色の地平線から、何人もの男たちが、こちらを目ざして進んでくるのが見えます。かなり近くまできた男たちの目が、ギョロ!ギョロ!
 男たちの服装は、もうボロボロで、おまけにハダシ!
 男の一人が口からヨダレをたらしながら、
 「オクサン。食べ物をください。今日を生きるために、一つのオニギリでいいんです。できたらアシタに向かって歩けるように、クツを用意してください。どうしてもできないのなら、オレたちはオクサンを頭から食うしか手がありません!」
 おばあちゃんはガタガタと震えがとまりません。
 荒野の男たちは、それぞれに大ケガをしていて、海の人たちと同じ死人。食べ物を用意しようにも、何もない部屋では、おばちゃんはどうしようもありません。
 おばあちゃんは、この部屋を逃げようと、ドアをさがします。でも、固いレンガの壁ばかり。逃げるのには外へ。外へ出れば、荒野をさまよう死人の男たちの餌食(えじき)になります!
 「タロウちゃん。ミンナが逃げる次の部屋のドアは?」
 ヒステリックにタロウちゃんに聞きます。
 タロウちゃんは、奥の右を指さします。右の壁に重そうなシャッターが、ギリギリと軋(きし)みながらおりてくるのが見えました。おばあちゃんは二人の手をしっかりつかみ、おりてくるシャッターへ突進(とっしん)!
 キヨシちゃんがシャッターをくぐったときに、タロウちゃんが何かにつまずき、ドーッとたおれます。つられておばあちゃんもたおれましたが、すぐにおき、タロウちゃんを引きずって、シャッターを押し上げ部屋へ転げこみました。おばあちゃんは膝(ひざ)とスネをすりむいて血が出ています。シャッターはズシーンと音を立てて閉まります。シャッターのはんたい側から、怪物たちがドンドンドンと叩いているようです。シャッターを潜(くぐ)れたのは、まったく間一髪(かんいっぱつ)でしたねぇ。
 おばあちゃんはゼイゼイと息をしながら、飛びこんだ部屋を見まわします。
 ウス暗い部屋ですが、元の部屋のような感じ。でも窓はあるのに、シャッターのドアが消えてしまいました。元の部屋はクモリガラス壁だったのに、透(す)きとおった壁ガラス。
 おそるおそるミンナで窓辺によりました。
 窓の向こうには、切りたおされたオンコの木が、葉は干(ひ)からび幹(みき)の皮もはげて、腐(くさ)りかけた状態で放置されている山がありました。山に、ラフな格好の男がいて、こちらを見ています。三人に気づいたのか、男は大股(おおまた)に歩いて近よってきます。物スゴイ大男!
 身長が五メートルはありそうな大男は、朽(く)ちかけたオンコの木を、何かさけびながら投げつけてきます。オンコの木は、腐っているために、壁にぶち当たるとドシーンと音はハデですが、粉のようにバラバラ!
 でも、ガラス壁には、見る見るうちにヒビが入ります。このままでは大男はガラス壁を叩きコワし、中へ入ってくるかもしれません。おばあちゃんは、
 「ねえ、タロウちゃん、次の部屋は?」
 タロウちゃんはみずから奥へ歩きます。そこにはなつかしい、いつものドアがあらわれていました。ミンナはドアを開けて、廊下へ出ます。大勢の人の声がしています。大勢の人は、ドアを開けて出てきたおばあちゃんたちの姿を見て、ウワーッ!
 それからキヨシちゃんの姿を見た母さんが、
 「キヨシちゃん、いったいどこへ行っていたのよ。母さんは、四日もほとんど寝ていないのよー!」
 さけびながら走ってきて、キヨシちゃんを抱きしめます。
 ド、ド、ド、と大勢の人が廊下を駆(か)けよってくる足音がします。おばあちゃんは、あたりをキョロキョロ!
 タロウちゃんの姿が見えないんですよ。どこからか、タロウちゃんの声がして、
 ・・・・おばあちゃん、ボクラは、こちらの世界では四日間も、いなかったことになるだよ。向こうのおじいちゃんの窓の世界とは、時間がちがうんだ。この人たちは、四日間も、とつぜんに消えてしまったボクラを、さがそうと集まった親せきや、近所の知りあい。
 おばあちゃん、ありがとう。
 とても楽しかったよ。ボクはいつでも、この家にいるからね。庭ではなく、家にいるんだよ。ボクは、おじいちゃん、おばあちゃんの心の子ども。家を作った人の魂(たましい)の子どもなんだ。おばあちゃんの手のぬくもりを感じたボクは、おじいちゃんの手のぬくもりも、感じている。次の、この家を継(つ)ぐクニオ父さんや、その次を継ぐキヨシちゃんの手の温もりも、ボクは心に刻んでいる。だれに見えなくても、ボクは家を作った人の魂の子どもだということを、忘れないでね。ボクはおばあちゃんの手の温かさが、とてもよかった・・・・
 おばあちゃんは、またキョロキョロとあたりに目を泳がせます。タロウちゃんを呼ぼうとしましたが、やめました。タロウちゃんを慕わしいと感じた手を見て、ボロボロと涙を流しはじめます。
 「カナコ!四日間も、いったいどこへ行っていたんだ?」
 心配でゲッソリとした顔のおじいちゃんが、近づいてくるのが見えます。クニオ父さんが、母さんに抱きしめられているキヨシちゃんの頭を、愛しそうになでました。二人のキヨシちゃんのお姉ちゃんが、オイオイと泣いています。 四日間も失踪(しっそう)していた弟が、とつぜんに現れたうれしさ!
 ケガだらけで放心したような顔のおばあちゃんは、集まってきた人々にとつぜんの失踪を、何と説明していいのやら、ケントウモつかない思いです。とにかく、おじいちゃんの窓といわれる世界から、出られたのは、奇跡のようなもの。
 でも、なんというフシギな世界だったのでしょう!
 じぶんたちが住む家の、部屋のドアを開ければあったんですから。おじいちゃんが作った家ですが、タロウちゃんが得体(えたい)のしれない世界を、もってきたのかもね。おばあちゃんが日常的にソウジをするために入る部屋と、おじいちゃんの心の世界を写したような窓がある部屋とは、まったくちがう感じです。
 あらためて、おばあちゃんはおじいちゃんを見ます。おじいちゃんは、あの特別な部屋の窓の向こうに海や荒野や、オンコの木が切られて放置された山に棲む、大男の世界があるのを知らないようです。それとも、知っていて知らんふりをしているのでしょうか?
 どう見ても、おじいちゃんのオドオドした表情から、心が読めませんでした。でも、この大きな家を家族よりも大事に守りぬく、強い意志を秘(ひ)めた男にまちがいありません。
 おじいちゃんは手に、カーネーションの花束を抱えていました。花屋さんからの帰りなのかしら?
 そういえば、きょうは五月の第二日曜日!
 母の日のために、おじいちゃんは必ずおばあちゃんにカーネーションの花束を買います。この家を守り抜く、おじいちゃんを支えているのは、マチガイなくおばあちゃん。グランドマザーといわれる、大きな母を讃(たたえ)える日なんですねぇ。おじいちゃんは、ちょっと照れ笑いをしながら、
 「きょうは母の日なんでね、いつもの花屋さんで用意してもらったんだよ。あとでカナコがどうして四日間も失踪していたのか、ゆっくり聞くからね」


 皆様、長い話にお付き合いしてくださってありがとうございます。母の日のきょうに、ちょっとキツイ冒険の話しでした。母は鉄よりも強しですよ。

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「おばあちゃん、泣かないで!」    光

2013/04/22 17:22
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幼稚園の年長さんから、小1になったショウタちゃん。とても活発(かっぱつ)な男の子。年のわりには、はきはきとものをいいます。一番歳上のミドリお姉ちゃん。その下のアカネお姉ちゃん。ショウタちゃんを、男の子にそだてよう?とお姉ちゃんぶりを見せますねぇ。
 「男の子は、言葉づかいがはっきりしないとだめ」と小4のミドリお姉ちゃん。「男の子でしょう!」と何かにつけて決めつけてくるのは、小3のアカネお姉ちゃん。そして事業をやっている男勝(おとこまさ)りのヨシコおばあちゃん。事業は亡くなったおじいさんの後を継(つ)いで、父さんとともにやっていますが、とても気性(きしょう)のはげしいおばあちゃん。
 三人がショウタちゃんを、「男!」としてあつかうんですねぇ。というのは、ショウタちゃんは少女のようなかわいい顔をした男の子。だれに似たかというと、母さんではなく、どちらかといえばヨシコおばあちゃん。だから、ショウタちゃんは気性もおばあちゃんソックリ。かわいい顔をしていて、気性が強い男の子!
 フシギなコトに、母さんはとてもやさしい性格(せいかく)で、父さんもどちらかといえば気弱な男。父さんは社長になっているヨシコおばあちゃんという殿様(とのさま)に、よく仕(つか)える弱い家来(けらい)みたい!
 父さんは副社長、という肩書(かたがき)があるのにねぇ。副社長らしくドウドウとしていないところがフシギ。
 ヨシコおばあちゃんは、息子の父さんのそだて方をまちがえた、とヨクヨク遊びにくるおばあちゃんの妹、シゲコおばあちゃんにいいます。たいていシゲコおばあちゃんが遊びにきたときは、ショウタちゃんがそばにいますから、自然と二人の話しは耳にはいるのでした。
 シゲコおばあちゃんは、姉さんのヨシコおばあちゃんとは歳のはなれた妹。右足が不自由で義足(ぎそく)を填(は)めていますが、動きはよくありません。このごろは腰が痛いとかで、車イスの話しをしています。

 今日の午後に、下校(げこう)してからショウタちゃんは、シゲコおばあちゃんのお供で、海岸のそばにある有料老人施設へいきます。シゲコおばあちゃんのお供(とも)をすれば、お小遣(こづか)いがもらえるのでショウタちゃんは大ヨロコビ。シゲコおばあちゃんはショウタちゃんがそばにいることで、まわりの人から人気があるんです。かわいい男の子が、まるでナイト(騎士)のようにシゲコおばあちゃんを、先導(せんどう)して歩く。カッコウいいですねぇ。あるシゲコおばあちゃんのお友だちのおばさんが、
 「シゲちゃん。どこからそんなお人形のような男の子をひろってきたのよ?よかったら、あたしにも散歩にかしてくれないかしら!」
 「コラッ!なんということをいうのよ。ひろってきただなんて、ショウちゃんはお人形ではありません。あたしを守る、強い男の子よ。まだ小1なのに、泳ぎの名手!あたしが溺(おぼ)れたら、助けてくれるタノモシイ男の子!」
 ショウタちゃんは、スイミングスクールへ通っています。クロールが得意(とくい)で、クラブの同年代の男の子の間では、とび抜けて上手なんです。
 お友だちのおばさんは、
 「シゲコさん。どこで溺れるつもりなの?こんな寒い日に、まさか海水浴をするの?」
 「あ、あんたねぇ、どこで溺れるって、それはタトエの話しじゃない。あたしは足が悪いので、海へは入ったことがないのよ。でも、もし何かの事故で海でおぼれたら、このショウちゃんが助けてくれるという意味よ。ショウちゃんを貸してくれっていっても、ゼッタイに貸してやらないから!」
 若々しいおばあちゃんたちは、まるで少女のようにジョークの応酬(おうしゅう)です。

 シゲコおばあちゃんは、はずせない用事があるとかで、ショウタちゃんを連れてシセツを後にすることにします。
 三時をすぎた夕方。
 車はいつも利用するタクシーでしたが、知らない運転手さん。
 行き先はヨシコおばあちゃんが住んでいる、海からもはなれた高台。ショウタちゃんの両親も住んでいる場所です。つまりショウタちゃんの家。ショウタちゃんがケゲンそうな顔で、
 「おばあちゃん。うちに何か用があるの?」
 「じつはあるのよ。すっかり忘れてたわ、ヨシコおばあちゃんとのヤクソク。ヨシコさん、トシヨリなので気が短くなってねぇ」といってから、シゲコおばあちゃんは、
 「運転手さん、なるべくいそいでくださいね。あたし、姉さんに会うのよこれから。あたしの姉さんは、ちょっとコワイ人なのよ」
 ショウタちゃんは、危(あや)うくクスリ!
 父さんは、どちらもコワイおばあちゃんだといっていましたね。
 でも、会社からおばあちゃんは家へ帰ってきているのかなぁ?
 おばあちゃんは、ショウタちゃんたちの家のトナリに住んでいます。となりといっても、歩いてホンの数歩という近さ。
 おばあちゃんは太り気味なので、栄養士さんを雇(やと)い、じぶんの食事の管理(かんり)をしてもらっています。 一人で住んでいるのは、家を独りで使いたい理由がありました。
 理由の一つは。まだまだ若々しいショウタちゃんの父さんや母さんに、ジャマになりそうなので、ということ。
 ショウタちゃんの両親はうるさい母親が別の家にいるので、内心ではおおよろこび。これでは、もしかしてもう一人、家族がふえるかもねぇ。(とはシゲコおばあちゃんのツブヤキ!)
 問題が少しあります。
 ヨシコおばあちゃんは、花の園芸に夢中になっていること。(父さんが事業の切り回しが上手になってきたので、おばあちゃんにヒマができたようです)
 家の後ろには、おばあちゃん専用(せよう)の花畑があるんです。
 季節の花を植えていますが、おばあちゃんが一番スキなのは、ユリの花。特にヤマユリがすき。近くの農夫の方にてつだってもらって、ユリ畑の整地(せいち)はおわっています。
 ヤマユリの球根が、かなりたくさん植えられていて、もう芽をだしています。かわいい緑色の幼葉がのびて、畑を緑に染めようと構(かま)えている感じですね。
 畑に何を植えようか、といつもシゲコおばあちゃんとヨシコおばあちゃんは、論争。ほとんどヨシコおばあちゃんの意見がとおるのに、おばあちゃんはどうしても妹の意見を聞かなければ、気がすまないんですねぇ。ヘンなの!
 

 トツゼン、走っているタクシーがガクガクと大ゆれ!
 運転手さんはあわててブレーキを踏み、路肩へよせて止まります。
 「す、すみません。パンクしたようで。ちょ、ちょっと見てきますから!」
 でも、車は止まっても、はげしく上下に動いています。シゲコおばあちゃんは、
 「運転手さん。パンクじゃないわ。地震よ、落ちついてちょうだい!」
 運転手さんはアワをくって外へ飛び出してしまいます。あたりの家のこわれているヨウスが見えます。遠くでゴーッ、ゴーッと地鳴りがしています。ばあちゃんは、
 「こ、これはスゴイ地震よ!大地震よ!ツナミがくるかもしれない!」
 どうしたことかタクシー運転手さんの姿が見えません。
 「ショウちゃん。車から降りましょう。運転手さん、パニクッテどこかへ逃げて行ったみたい。高台へ逃げなきゃあ!・・・・」
 ショウタちゃんはコワくて、ヒザのふるえがとまりません。でも、ショウタちゃんは男の子。足の不自由なシゲコおばあちゃんを、ゼッタイに守るギムがあります。ショウタちゃんはおばあちゃんを助けて車から降ります。あたりを走っていた車もイヘンでとまったまま!
 大勢の人々が混乱(こんらん)して、喚(わめ)きあい、ワケもなくあちらこちらの方向へ走っています。中には、海がどうなっているのか、と海の方向へ!
 ツナミは、すぐにはやってきません。とにかく、高台へ逃げなければ・・・・
 でも、近くに高台は見えません。車を降りた人々がどうしたらたらいいのかわからずウロウロ!
 
 ツナミの第一波は、黒々とした山のような波でした。
 二人はどうしようもなくツナミに飲まれます。ショウタちゃんのジマンの水泳もゼンゼン役に立ちません。二度目か、三度目の大波にショウタちゃんは、目の前を流れていく小型ボートを見つけ乗りこみます。ボートにはだれも乗っていません。ショウタちゃんは、必死の目を海面へすえます。足の不自由なシゲコおばあちゃんは、本当にアッという間に波間へ消えてしまいました。
 おばあちゃんが、この波間のどこかに浮かんでいてほしい!
 おばあちゃんをよびながら、ボートから身を乗りだしてさがしていると、こわれかけた緑色の屋根にすがりついている、おばあちゃんを見つけました。おばあちゃんもショウタちゃんを見つけます。ショウタちゃんは、
 「おばあちゃん。ボートへ移って!早く、早く、早く!」
 おばあちゃんの不自由な右足の膝にはめた、義足(ぎそく)がなくなっていました。ショウタちゃんは、近くを流れていた板の切れハシをつかって、ボートをおばあちゃんへよせていきます。うまく近寄り、おばあちゃんの手がすぐそこに!
 家の屋根が、とうとう沈んでしまいました。
 波に浮いているおばあちゃんを、ボートへ引きあげようとしましたが、何しろシゲコおばあちゃんは、体重が八十キロ!
 ショウタちゃんは、タメライもなく海へ入り、ボートに手をかけたおばあちゃんのお尻を、力いっぱいおしあげます。おばあちゃんの体は、ボートにのめりこむようにして上がりました。
 おばあちゃんがボートへ上がると同時に、ショウタちゃんは押した反作用で、海へ突きはなされてしまいます。
 ボートに上がった、シゲコおばあちゃんはゼイゼイと息をしています。でも、つづいてボートに上がってくる、と思ったショウタちゃんがいないことに気づきます。ワナワナとふるえます。悲鳴を上げながら、ボートのハシにつかまり、海を覗きます。巨大なツナミのうねりは、おばあちゃんの乗ったボートを木の葉のようにあつかいます。あたりを流れるガレキを巻きこんで不規則に動き、ブキミな音、音、音!・・・・
 おばあちゃんは、じぶんだけが助かり、ボートへ押し上げてくれたショウタちゃんがいない現実を、信じられません。おばあちゃんの頭を、ショウタちゃんの母さんカナさんがよぎり、
 「カナちゃん。ショウタちゃんがいないのよ。あたしが生き残り、ショウタちゃんがいないのよ。あたし、申し訳ない!あたし申し訳ない!
 カミサマ、助けてください!ショウちゃんの命を助けてください!・・・・・・」
 シゲコおばあちゃんの悲鳴が、あたりの海面にひびきわたります。
 すべてを飲みこもうと、スサマジイいきおいで迫るツナミに、人はまったく無力!

 ショウタちゃんを失った両親のなげきは、それはひどいものでした。それ以上に、悲しみに打ちひしがれたのはシゲコおばあちゃん。ゲッソリとやせてしまい、まるでガイコツ!
 もう三年も経つのに、シゲコおばあちゃんの悲しみはへりません。
 ヨシコおばあちゃんの家へ、遊びにきますが、ショウタちゃんの母さんにエンリョして、言葉がありません。ヨシコおばあちゃんに、
 「代われるものなら、あたしが代わりたかったのよ。あたしを助けて、あの子は海へ消えたわ。あたしはカナちゃんやシゲルさん(ショウタちゃんの父さん)に申し訳なくて、生きているのがつらい!
 でも・・・・あたしには自殺する勇気がない・・・・・あたしはショウちゃんの生まれて育ったこの家へ、ヒマさえあれば来たくてしようがない。なんだかショウちゃんが、あたしをよぶような気がしてねぇ」

 家の裏庭のヨシコおばあちゃん、ジマンの花畑のユリが、元気よく育っています。
もう少ししたら、イッセイに花を咲かせるはずです。ヨシコおばあちゃんが、
 「ショウちゃんの命日もすぎて、いよいよ春、本番になるのよ。今年はユリの生育(せいいく)もよく、花畑はユリで埋まるはずだわ。シゲちゃん。元気をだしてちょうだい。あたしたちは、まだまだ生きるんだから、強い悲しみがいつまでもつづくのは、よくないことなのよ」
 シゲコおばあちゃんは、恨(うら)めしそうに姉さんを見ます。姉さんは、とても強い。でも、ナイショですがヨシコおばあちゃんは、表にださないだけで、おなじく強い悲しみに耐(た)えているんですねぇ。
 ヨシコおばあちゃんは、白い布地のポーチを作っていました。表にも裏にも「ヤマユリ」の刺繍(ししゅう)が施(ほどこ)された、かわいいポーチ!
 亡くなったショウタちゃんとの約束のポーチ。二個、作ってあります。今年は、作るのをやめました。この一つのポーチを、ヨシコおばあちゃんは、ときどきは抱いて眠ります。だからポーチは涙でよごれているんですよ。
 ユリ畑が見わたせる、大きなガラスの窓がある部屋へ二人はきていました。ヨシコおばあちゃんは、
 「シゲちゃん。ここからあたしのユリ畑が、すごい迫力(はくりょく)で見えるのよ。ことしも見えるはずだわ」
 ふいに強い風が窓をかすめました。そして、
 -----おばあちゃん。もう泣かないで-----
たしかにショウタちゃんの元気な声が聞こえたんですよ!
 二人のおばあちゃんは、声の主をさがしてウロウロ!
 -----おばあちゃん。ボクはここにいるよ----
声はユリ畑からでした。
 ユリ畑は、いつの間にか満開のヤマユリで埋められています。ユリ畑には、トナリとの境目(さかいめ)があるはずなのに、無視して、はてもなく広々とつづいています。
 咲きほこるヤマユリ畑の向こうから、元気でスキップしながらショウタちゃんがあらわれたんですよ。肩にはヨシコおばあちゃんが作った、白地にヤマユリの刺繍が施されたポーチ!
 -----おばあちゃん。ユリが満開なので、ボクは取りにきたんだ。シゲコおばあちゃんと、おばあちゃんと、母さんに、百合の花を摘(つ)みにきたんだよ------
 ショウタちゃんは、たちまちユリを取りはじめて、三つの花束を作ります。それを持つとガラス窓をすり抜けて、部屋へ入ってきました。一つ目の花束をシゲコおばあちゃんへ。二つ目の花束をヨシコおばあちゃんへわたします。三つ目は、どうしようかと迷いましたが、タイミングよく部屋へおばあちゃんたちへお茶をもって現れた母さんへ。
 本物のヤマユリの花束ですよ!
 ニコニコ顔のショウタちゃんは、
 -----シゲコおばあちゃん。泣かないでね。おばあちゃん、泣かないでね。母さん泣かないでね。ボクはユリ畑にいるんだよ。でも、ミンナがあまり泣くと、涙でヤマユリが枯(か)れてしまう。ユリが枯れると、ボクはもうここへはこられない。
 ヤマユリは今年も咲くし、来年も咲くんだよ。来年もユリ畑にきたいので、ユリを枯らさないでね-----
 ショウタちゃんは、窓をまたすり抜けててユリ畑へ。
 かるがるとうれしそうにスキップしながら、ユリをかき分けて遠ざかっていきます。
 部屋にはシゲコおばあちゃん。ヨシコおばあちゃん。母さんの三人が、ふくよかに香りを放つヤマユリの花束を抱えて立ち尽(つ)くしていました。
 また、
 ------泣かないでね。ボクのユリ畑を枯らさないでね-----
 たしかに、ショウタちゃんの元気な声が聞こえています。もう、三人の目の前から満開に咲く、ヤマユリの光景は消えたのに。
 



 超現実と、現実の世界をまぜて見ました。こんな世界!案外にあるのかもしれませんよ。

      光
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大人のメルヘン、子供の情景「おじいちゃんの独り言」   光

2013/04/07 10:25
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 四月に入るとツバメさんの姿が目につきはじめます。
 キヨシちゃんの家にもツバメさんが何羽かおとずれました。巣をどこへつくろうか、と軒先の電線にとまり、ルルルルルルッと鳴きかわしているのです。
 本当は、すぐトナリのおじいちゃんの家に、ツバメさんは巣作りをはじめるのですが。
 おばあちゃんが二年ほど前に亡くなってから、ツバメさんは小1のキヨシちゃんの家をえらびます。
 問題があります。
 キヨシちゃんの家には、茶トラのオスネコのマイクがいるんですよ。茶色というより、美しい黄色に近いマイクは、トナリのおじいちゃんがひろってきて、「マイケル」と名づけかわいがっていたんです。おばあちゃんが亡くなってから、キヨシちゃんの家に居つくようになりました。おじいちゃんがいつも家を空けるために、マイケルのセワをほうったらかし!
 キヨシちゃんがかわいがるので、居ついた感じ。母さんや父さん、小4のサキコお姉ちゃん、小3のレイコお姉ちゃんもネコ好きでかわいがります。おじいちゃんの家にいたのに、近ごろは、もう帰りません。キヨシちゃんがマイケルではなく、ちぢめてマイクとよぶのに、すっかり慣(な)れてしまいます。
 マイクはとても活発(かっぱつ)で、庭の木にくるスズメやハト、ヒヨドリまで捕えてしまいます。食べるのではなく、殺してしまうだけ。父さんが、
 「マイクは野生本能がつよい。動く動物だと、なんでもとらえて殺してしまう。ツバメさんがきたときは気をつけてやらないと、タイヘンだぜー!」
 ツバメさんがおじいちゃんの家へ行かないのは、おじいちゃんがいないから。だれも住まない家には巣をつくらないんだって!
 ツバメさんは、家をえらぶのですねぇ。
 でも、でも、でも、
 人が近い場所ということは、ネコにも近いんです。マイクは小鳥をおそいます。マイクの本能を防(ふせ)いでやるのは、むずかしいと父さんが。
 キケンなマイクがいるために、南国からきたツバメさんはなかなか巣作りができないのでした。
 キヨシちゃんは、マイクが目をランランと光らせ、ツバメさんを狙(ねら)っているのを見ます。
 ウーン、あぶないなぁ!

 以前には、ツバメさんの巣(す)は、おじいちゃんの高い軒先があるお家!
 亡くなったサトエおばあちゃんが愛した、イナカにあった古い家を移設(いせつ)したお家なんですよ。
 おじいちゃんは、おばあちゃんが亡くなってから、トツゼン、フィリピンへ。おじいちゃんは、外国で、じぶんと暮らしてくれる女性を見つけるため、行ってしまったと父さんが。
 亡くなったおばあちゃんは、とてもおとなしくひっそりとした女性でした。そのおばあちゃんを、週末になるとおじいちゃんは、レストランへ連れだし食事をしたり、都心でショッピングしたり。
 サトエおばあちゃんは、強いウツ病に罹(かか)っている、と父さんがいいます。心の病で、なおすのがむずかしいそう。
 そしてある日の夜!
 おじいちゃんがお仕事のツゴウで、おそく帰宅したときに、おばあちゃんは亡くなっていました。大量のお薬を飲み、ショックで心臓が止まってしまったとか。くわしいことは、父さんも母さんも子供たちには話しません。
 おじいちゃんは、おばあちゃんを亡くした悲しみのために、ゲッソリとやせてしまいます。
 おじいちゃんは、ツバメさんがいそがしく巣作りをしているシーンを見ながら、
 「キヨシちゃん。ツバメさんは遠い南国のフィリピンや、インドネシア、スマトラなどから日本へやってくるんだ。日本で子供を育てて、秋には生まれた子供もいっしょに、南国へ帰っていく。南国へ帰ったら、次の年に南国のお便りを持ってまた日本へくるのさ。電線の上でルルルルルっと鳴くのは、南国のコトをしゃべっているんだよ」
 「なんといっているのおじいちゃん?」
 「さあ?お前のサトエおばあちゃんは、ツバメのお便りをよくわかっていたもんだ」
 「すごいなぁ、で、おじいちゃんは?」
 「おじいちゃんか・・・・ザンネンながらツバメの言葉はわからない。もし、フィリピンへでも行けたら、ツバメさんの言葉をおぼえて、キヨシちゃんへお便りをするからね。フィリピンやインドネシアには、町にも山にも川にも、ツバメさんがいるそうだ」
 その時に、おじいちゃんはチラッとフィリピンの話しを、キヨシちゃんへしました。
 小1のキヨシちゃんでも、ツバメさんの便りを人間がわかることはない、と知っています。サトエおばあちゃんの心の病気は、とても重かったのでしょうねぇ。
 でも、なぜ、おばあちゃんの心の病は重かったのでしょう?
 
 おじいちゃんは生活がとてもハデ。あまりおばあちゃんと家にいたことがないんです。事業で成功して、お金はタクサン持っています。父さんと母さんの、ヒソヒソ声の話しを聞きましょうか。あまりいい話ではありません。どうやら何人もの女性が、おじいちゃんの周りにいるようなんですよ。
 そのために、サトエおばあちゃんはうつ病になり、家へ引きこもるようになったらしいんです。
 おじいちゃんが、週末におばあちゃんをショッピングやレストランへ連れだしたのは、じぶんの悪いウワサをかくすため、のようです。
 
 ようやくツバメさんはキヨシちゃんの家に、巣をかけはじめます。
 玄関のドアのすぐ上。ここならばマイクがどんなに跳躍(ちょうやく)しても、とどきませんし、夜には明るい灯りがすぐ横につきますから、安全!
 ネコは夜は目が開いていて、灯りが苦手だとか。ネコには夜は、暗いほうがいいんです。フシギですね。
 ツバメさんが子育てをおわり、空っぽの巣がさみしく見えはじめると、母さんの仕事が一つへりました。ツバメさんの子供たちが、フンを落として玄関をよごすのでソウジがタイヘン!

 ツバメさんが母さんにさんざんメイワクをかけて、いなくなったころに、フィリピンのおじいちゃんからキヨシちゃんへ手紙。マイクのことを聞いてきたんですよ。フィリピンでもマイクによく似た茶トラのネコがいて、かわいがっていたのに、このごろいなくなったと手紙に書いてあります。来年の、ツバメさんが巣をつくる春におじいちゃんは日本へ帰るとかも。父さんがツバメさんの便りを、フィリピンからおじいちゃんが送ってきたと笑います。
 でも、おじいちゃんはトツゼンに、帰国しました!
 おじいちゃんと住んでいたフィリピンの女の人に、ケガをさせられ、日本で治療(ちりょう)するため。おじいちゃんはひどいケガをした、と父さんは眉(まゆ)をひそめます。
 
 帰国と同時におじいちゃんは町の大きな病院へ。
 キヨシちゃんやお姉ちゃんたちは、父さん、母さんに連れられておじいちゃんを見舞います。おじいちゃんは頭や手に大ケガをしていて、白い包帯(ほうたい)が痛々しい。さっそくキヨシちゃんは、おじいちゃんへ話しかけます。でも、イガイなコトにおじいちゃんは言葉が少ないんです!
 とても話し好きだったおじいちゃんなのにねぇ!
 本当に、だれとも話したくない感じです。
 キヨシちゃんはかまわず、ニコニコと話しかけます。手紙に書いてあった、マイクに似た茶トラのネコはサトエ!なんとサトエおばあちゃんの、名前をつけていたんです。オスネコなのにねぇ。
 おじいちゃんが初めて笑いながら、
 「むこうのネコでも、おじいちゃんが小さいときからかわいがっていたので、日本語がわかるんだ。おじいちゃんという飼い主に似て、気ぜわしくランボウなところもあった。ネコでも飼(か)い主に似るんだなぁ。でもある日トツゼンに、いなくなってしまった」
 フイにおじいちゃんは、遠くを見るような目になり、途切れ途切れで、
 「マイケルもおじいちゃんに飼われていたときは、おじいちゃんに似たのか野生本能が強かった。おじいちゃんは・・・・男としての野生本能が強かったと思う・・
 むこうで手紙をキヨシちゃんへ出したのは、マイケルが気にかかったから。亡くなったおばあちゃんもかわいがっていたネコ・・・・
 マイケルを、愛したサトエおばあちゃん。どんな人だったのだろう、とフィリピンに居てもおじいちゃんは考えたもんだ。
 おじいちゃんは・・・おばあちゃんを空気のような女性だと考えていた。まちがいだった!・・・・じつはおじいちゃんが・・・おばあちゃんの空気だったんだ!
 ・・・・フィリピンでは、おじいちゃんの世話をする女の人がいたけど、おばあちゃんのことを忘れられない。おばあちゃんの空気だったオレ!
 知らないうちにフィリピンでも、オレはサトエと同じような女性をさがしてウロウロ!
 ついには金目当ての女に、ピストルで撃たれて、いまではこの座間(ざま)さ!・・・・われながらはずかしい・・まったくはずかしい!・・・」
 おじいちゃんの涙ながらの独り言を、病室にいた家族は凍りついたようにして聞いていました。
 
 


 男の独り言。いくつになっても、男は野生本能が強い!
 愛する人が亡くなった原因を作ったおじいちゃん。おばあちゃんをかけがえのない女性!とわかったのかなぁ。
 

 光
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大人のメルヘン「追憶の海から・・・・」   光

2013/03/31 13:45
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 今年も三月がやってきた。
 寒い冬がやっとあけようとして、春一番がふき寒(かん)のもどりがあって、花開こうとしたツボミがまた固くしまる。
 ヒロシは仙台の海へきていた。
 海は青々として美しく、幾多の命を飲みこみ阿鼻叫喚(あびきょうかん)の、ジゴクの世界を一変させていた。
 三月の初めに、だれも予想しなかった大災害!
 ヒロシは、そのときに社用で遠く名古屋にいた。
 仙台の町にいた家族は、ことごとく海へ消えてしまう。年老いた両親と、両親といっしょだったらしい末っ子のノリオを遺体収容所で見つけた。変わりはてた姿に、最初は別人かと思ったほど。持ち物や歯型などでようやく確認できた。それほどツナミで亡くなった三人は、変わりはてていたのだ!
 妻のサトコと長男のトキオ、長女のサユリのゆくえがしれない!
 サトコが運転していたと思われる車に、痕跡(こんせき)をのこしている。妻のサトコの運転免許書がはいっていた、ハンドバッグがハンドルに引っかかっていたし、長女の赤いリュック、長男トキオのバットとグローブ、それに二人のスニーカーが車内に。三人がたしかに車内にいたという痕跡はそれだけ!
 三人の遺体は現代の科学を駆使(くし)した捜査方法でも、見つからないのだ。
 もしかして三人とも生きているのでは?
 ヒロシは一縷(いちる)の望みを失わなかった!

 あれからヒロシはフルサトをでて、都会に仕事を見つけ独りでくらしている。
 なぜ、都会で独りでくらすのだ?
 ときどき、自問自答する。
 答えは・・・・
 ゆくえの知れないサトコと二人の息子たちに、会えるかもしれない。そんなかすかな希望!
 だが現実には遺体の見つからない人々が、千数百体をこえているのに、という絶望!
 
 悶々(もんもん)とした日を送りつづける。もしやもしや、と気分を高ぶらせ、ヒロシは大都会の雑踏(ざっとう)の中を、歩く。歩く!
 雑踏の中に、ヒロシはサミシサをまぎらそうする、じぶんを見つけられない。
 行きかう人々の中に、実際に娘のサユリに似た少女を見つけて、胸をおどらせる。ゲームセンタへの中で、長男のトキオに似た男の子にであい、思わず声をかけそうになる。
 雑踏の中ではなく、居酒屋で、妻のサトコによく似た女に出会ったことがある。
 ヒロシはドキッ!
 いや、まてよ・・・・サトコは居酒屋で働くような女ではないはず。では、この居酒屋の女がなぜ、サトコのフンイキをもっているのだ?
 答えは、じぶんが女を求めているからだと気づく。
 ヒロシはまだまだ若い!
 知らず知らずのうちに、性を求めているのかも。妻を失った悲しみの中で、男としての性を求めているじぶんに、ヒロシはうろたえる!
 居酒屋の女は、お客として、酒に酔う楽しさを提供(ていきょう)しているだけ。いかがわしい女は一人もいないのだ。ヒロシは居酒屋を辞(じ)するときに、ふかぶかと頭を下げた。

 このごろヒロシは思う。あれから三年目に入るということは、人々の目が災害から離れていく時間のはじまり。
復興(ふっこう)に力をかす、ボランティアも少なくなっていると聞く。

 ヒロシはわざわざヒマを作り、ガレキの町へ足を運ぶのだが、じつは億劫(おっくう)であった!
 なぜなんだろう?
 災害の地を訪れている人々は、災害を目の当たりにしたくて来るだけ。同情を売りモノにしている感があるのだ。押しつけられた同情は、気持ちのいいものではない。
 ヒロシは、一片の同情もほしくない!
 ほしいのはじぶんが家族を、何の気がねもなく弔(とむら)える自由。訪ねる人々はヒロシの、家族をしのぶ時間さえ、ニギヤカにうばってしまう。
 それが億劫な気持ちをおこさせる!
 
 都会で仕事に就(つ)き、そこにくらしているヒロシは、まだ友だちらしい友だちができない。
 というより、ヒロシは作らなかった。人が恋しいのに人を避(さ)けている、そのくせ、人といつでも関わりあいたい。キミョウなジレンマに陥(おちい)ったものだ!

 東京は桜が満開で、公園の花を愛でにくる人々が目についた。
 東北のヒロシのフルサトも、チラホラと桜が咲いている。
 まだまだ寒く、ときおり雪もまじる風景だが、春はそこへ来ていた。
 仙台の海は、泳げるような温かさは遠いのに、ヒロシはヒマをつくっては見に来る。
 この海で、子供たちといっしょに遊んだ!
 考えてみれば、ヒロシもこの町で生まれ、この町で育ち、この町でステキなサトコという女性にめぐり合い、結婚して家族をこしらえた。
 だが・・・・
 どうしてなのか、ヒロシだけ災害にも遭(あ)わず、いまはナギサに佇(たたず)んで海に相対(あいたい)している。
 自然とはフシギなもの。荒々しくキバをむき、この世のジゴクを演出するのに、ふだんの海はゆったり、ゆったりと波もおだやか!
 のどかなものだ!
 海へやってきた今日は、ヒロシはリュックに、缶ビールを忍ばせていた。
 昼をすぎた海岸には、人影がまばら。ナギサに立って町をふりかえれば、荒涼(こうりょう)とした大地になっている!
 何もない町の跡は、荒野になるのだとヒロシは思い知る。
  
 不意に・・・・
 海には巨大なハマグリが棲(す)むという、おじいさんから聞いた伝説を思い出す。少年のヒロシに、海のフシギをヨクヨク話した。ヒロシに、海への夢を持たせようとしていたのだ。あくまでも童話の域(いき)を出ないのに、今でも覚えている。
 ハマグリが吐(は)く息で空がクモリ、蜃気楼(しんきろう)という幻の風景があらわれる話しだ!
 思いでのおじいさんと、ともに、じぶんが住んでいた町は、もしかして蜃気楼?
 蜃気楼の中で、愛しい女性と家庭を持ち、子供を育てて暮らしていた。残念ななコトに蜃気楼は、消えてしまう。
 ヒロシはウロウロと、荒野のあちらこちらへ目をはわせる。
 荒野には道路が回復していた。早いスピードで車が、走行している。
 目の前に見えているツナミの跡の荒野が真実で、ヒロシの家庭のあった光景は、蜃気楼!?

 じつはヒロシは、今日ここへきたのは、ある決心のためである。
 いつまでもつづく、空虚な心をもてあまし、命を絶つことを実行しようとしている。海で入水(じゅすい)した時に、万が一にも助からないように、厚着をしている。
  リュックには、焼酎(しょうちゅう)も入っていた。焼酎を飲んで、体がフラフラになってきたら冷たい海へ!
 
 だらだらと時間をすごし、夕方が近くなっても夕日の海はおだやか。
 飲んだ焼酎が効(き)いてきたのか、酔いが増す!
 ヒロシの近くには少しだが、人影が動いている。
 空には雲がまったくなく、夕日はますます赤い。
 ヒロシは夕日の浜辺で、子供たちと歩いたことを思いだした。
 ヒロシは立ち止まると、砂の上のじぶんの影を見るともなしに見る。影はどう見ても一つ!
 ふり返ると、じぶんだけの足跡がテン、テン、テン・・・・
 ホンのきのうまで、息子たちとじぶんの足跡が砂の上につづいていた。ホンのきのうまで、サトコと来たナギサに、夫婦の足跡が点、点、点・・・・
 -----お父さ---ん!
 -----お父さ---ん!
 空耳なのか、サトコの声が聞こえる。息子たちの声もする。声の方向は?
 海からではなく荒野から!
 そんなバカな!
 ヒロシは目を凝(こ)らす!
 また、聞こえた!
 まちがいなく、荒野からである。目を凝らしても、サトコの姿はないし、息子たちの姿もゼンゼン!
 でも、鮮明に声は聞こえた。
 ヒロシはぼう然とする。荒野には、もはや命などないのだ、と決めつけていたのに。
 ヨク考えてみよう、海で入水して、何が得られるのだ?
 ただ、死ぬだけではないか。
 都会の雑踏の中に、似ているだけでもいい、息子たちの姿をさがしたのは、新たな命を探していたのだと思う。
 心の底では、もう、とっくにサトコや息子の死を認めているのに、けじめをつけきれない自分!
 強い自分が必要なのだ。軽々しく海で入水するなど、バカバカしい!
 だが、荒野のほうから聞こえた、ヒロシをよぶ声は?

 一台の白いワゴンが止まり、中から数人の若い男女が出てきて、ヒロシに手をふりながら走ってくる。
 ヒロシが見たこともない知らない人々。その中の若い女が、
 「よかった、お父さん。こんな寒い海へ飛びこんだら、大変よ!お父さん。まだまだ生きることを考えましょうか?あたしたちも、この町の出身で、みずから命を絶とうとする人を見つけ、生きることをよびかけているの」
 ほかの若い男女も、異口同音(いくどうん)に「お父さん」とよびかけてくる。ヒロシはおどろいて、
 「な、なぜ、オレのことが分かったの?」
 「・・・お父さんが一人で、だれもいない浜辺にいたから。わたしたちは注目していたのよ。フラフラして、海へ向かいはじめたので、急いできたわ。危うくセーフ!」
 ヒロシは、目を見張る。みずから命を絶つことを、止められるとは!
 予期しなかった、善意の若者たちとの出会い。ジワジワと心が温かくなってきた。ヒロシは目を潤(うる)ませながら、
 「ありがとう。オレは自殺などしない。いや、初めは自殺をしようとしていた。でも、このガレキが片づけられた荒野から、命がまた生まれるのではないか、と感じたんだ。海ではなく、この何もない荒野に」
 「そうでしょう。この何もなくなった町に、また命がよみがえってくるのよ。あたしたちは、ここで生まれて育った。ツナミでも幸(さいわ)いに命が助かった。この幸いを、町の復興(ふっこう)のために活(い)かしていきたいと思っているわ。お父さん。死ぬことはいけないことなのよ」
 ヒロシをお父さん、とよんだ若い女性の声は、本当にサトコの声にソックリ。若い男の子たちの声は、これも息子たちの声に似ていた。 
 


 ツナミに飲みこまれ幸いにも助かったのに、それからの苦しみに絶えられず、自ら命を絶つ人が多いとか。命は二つはありません。大事にしたいもの。


 光
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大人のメルヘン、子供の情景「老犬、ジロー」   光

2013/03/24 11:48
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 春になろうとする、温かい日に、父さんが親しくしている白銀(しろがね)八幡サマの宮司(ぐうじ)、タミヤさんがやってきました。春の八幡サマのお祭りのうち合わせです。父さんも町内の有力者の一人。宮司さんはヨクヨク相談にくるんですよ。じつはタミヤ宮司さんと父さんは、幼ナジミなんです!
 「ミヤちゃん」と父さんは宮司さんをよびます。タミヤ宮司さんは「コウタちゃん」とか「タロちゃん」とか。父さんはコウタロウといいます。タミヤ宮司さんは、
 「じつは、この前の日曜日に、大きな犬が社務所へまよいこんできたんだ。年よりのイヌで、首輪にはジローと書いてあった。住所とかはゼンゼン。老犬なのでねぇ・・・・。病気がちの老犬は金がかかる。引きとりてがないと、すまないけど保健所へ引きとってもらうしかないんだ・・・」
 父さんは、どんな犬なのか見せてほしいといいました。
 白銀八幡サマは、町ではかなり大きな神社で、百年はつづいているといわれています。現在の大きさにしたのは、タミヤ宮司さんのおじいさんのおじいさん。その当時から幼稚園を併設(へいせつ)していたそうです。ずいぶん進歩的な曾祖父(そうそふ)がいたものですねぇ。
 白銀八幡サマでは、ジャーマンシェパードという、スラリとして精悍(せいかん)な犬を二匹かっています。神社の番犬です。近ごろドロボウが神社の古美術品をねらって、やってくるそうで、ジャーマンシェパードは、何度かドロボウをつかまえています。
 まよってきた老犬は、ラブラドールの雑種。歩くときにふらついているのは、相当な年をとった老犬だから。
 父さんと、小4のカンナお姉ちゃん、小2のコウスケちゃん、それに母さんはつれだって、老犬ジローを見に白銀神社を訪(たず)ねます。
 ジローは、神社の裏手にある絵馬(えま)やお札などのお祓(はら)いをすませた古いものを、焼却(しょうきゃく)をする、板のフェンスでかこまれた広場にいました。神社で飼っている、屈強(くっきょう)なジャーマンシェパードはチェーンにつながれています。老犬ジローは自由。首輪もチェーンもありません。ジャーマンシェパードと仲よしになっていて、三匹でじゃれ合っていました。

 ジローは、まっ白でやせこけた老犬。
 ヒョコヒョコと歩きます。エサは元の飼い主が特別なシツケをしているらしく、ナカナカ食べないそうです。犬たちに餌(えさ)をあたえる時間がきました。社務所の若い人が、それぞれのイヌの前に、ドッグフードを盛った入れ物を置きます。ジャーマンシェパードはすぐに食べはじめましたが、ジローはエサの前に座りジーッと待っています。口からヨダレをたらしているのに、食べようとはしません。人間が声をかけてくれるのを待っている感じ。犬の世話をする若い人が、
 「ジロー、お食べ」と声をかけても、ウロウロとして食べません。
 コウスケちゃんがジローのそばへよります。「ジロー、ヨーシ!」と声をかけると、立ち上がり、貪(むさぼ)るようにしてエサを食べはじめます。二匹のジャーマンシェパードが残したエサも、食べてしまいました。
 ジローは頭をなでてもらって「ヨーシ、ジロー!」と声をかけなければ、食べてはいけないようにしつけられているようです。ほかの人が、コウスケちゃんと同じようにやっても、ジローの反応はにぶいもの。コウスケちゃんの声に、すぐに応(こた)えるのはなぜ?
 父さんには、あるていどコウスケちゃんと、ジローの心のかよい合う理由を見いだせます。
 コウスケちゃんは、少し自閉症が心配される内気な男の子。老犬ジローは主人から、すてられた?という心の孤独(こどく)をかかえている感じ。同じような心の問題をかかえている、ジローとコウスケちゃんは仲がいいと父さんは考えます。

 コウスケちゃんは、そばについて離れないジローを、ひどく気にいりました。
 コウスケちゃんは、父さんへ、
 「ねえ、父さん、ジローはここでは飼(か)うことはできないンでしょう?」
 「ああ、タミヤ宮司さんは、保健所へつれていって処分(しょぶん)してもらうとか…」
 「・・・父さん。家には亡くなった柴犬のマイクの、犬小屋があるじゃん。ジローを飼ってはダメ?」
 「いいけど、ジローはおトシヨリで、その上に弱っている。長くは生きられないよ。タミヤ宮司さんが獣医さんに診(み)てもらったところ、長くないとか・・・」
 「・・・・亡くなるまでボクはジローといっしょにいたい」
 「父さんも、ジローといっしょにいたいと思っていたところだ。でも・・・・ジローの命を少しでものばそうとして、手術などの痛いことは、父さんは一切やらないつもりだ。犬には犬の命の時間というものがあってね、人間がどんなに伸ばそうとしてもムリ。コウスケがそのコトをわかるのだったら、父さんはジローをつれて帰る。いいかな?」
 コウスケちゃんはコクリとうなずきました。

 家へつれて帰ってから、コウスケちゃんはジローの世話をよくします。
 ジローは毛がすぐに汚れるので、コウスケちゃんは母さんにお湯をもらい、タオルでふいてやります。ときどき、ジローは立ち上がれないこともあります。父さんがタオルを腹に回して輪を作り、上へ引きあげるようにすることを教えてくれます。ジローは手伝ってやると、なんとか立ち上がります。
 ときどき、コウスケちゃんは散歩につれていきます。帰りたくないヨウスを見せて、ジローが引き綱に抵抗(ていこう)すると、
 「ジローッ、ホーム!」と声をかけます。「ホーム」という言葉は、父さんが教えてくれたもの。

 父さんがある日、車でコウスケちゃんとジローを乗せて、近くにできた住宅建設用の更地(さらち)につれて行きました。
 まだ住宅は一軒も建っていません。
 父さんが車で、ここへ連れてきたのは、ジローがどこから来たのか手がかりがないかと思ったから。ジローはまったくナゾの飼い犬。イロイロの介護用語を理解するのは、介助犬として飼われていたのかな。すてられたのか、みずから飼い主の家を逃げ出してきたのか。逃げ出してきたのなら、遠くではないと思われるんですねぇ。
 更地を、あちらこちらジローとコウスケちゃん、父さんは歩きます。
 トツゼン、ある場所でジローは、とてもよろこんだ仕草(しぐさ)を見せます。土を前足でひっかきながら、オンオンと鳴きます。何かを見つけた喜びの鳴き声!
 更地は何の変りもないふつうの土!
 父さんは、
 「この住宅地は、あちらこちらから土を持ってきて盛り土にしているんだ。どこかの山や畑や、壊(こわ)した家の残土(ざんど)などのね。ジローが住んでいた飼い主の土地も、持ってきて盛り土にしているのかもしれない。なつかしい臭いがするんだろう」
 ジローはなおもよろこんで、土の臭いを嗅(か)いでいましたが、やがて、じぶんから車へもどりはじめます。車へもどってから、ジローは不安そうなというより怖そうな表情で、窓から住宅地の方を見ています。初めの喜びにあふれた感じは、もうどこにもありません。父さんが、
 「あのニオイのするところの家に、ジローは飼われていたんだろうねぇ。すてられたのを思いだして、あわてて車へ帰ってきた、と父さんは思う」
 コウスケちゃんが頭をなでてやると、ジローは体をすり寄せてくるのでした。

 父さんの言葉どおり、ジローはダンダンと衰弱(すいじゃく)していきます。
 犬小屋は外にあり、寒いので家の玄関に場所を作り、犬用の暖房カーペットをしいてジローを寝かせます。餌もあまり食べなくなりました。痛み止めの薬をドッグフードにまぜて、母さんが与えます。母さんにはコウスケちゃんと同じような親しみを見せて、ジローは体をすりよせます。
 夜中などにときどき、コウスケちゃんはじぶんの毛布を持ってきて、ジローのそばで眠ります。ジローはとてもうれしそうに、コウスケちゃんの顔をペロペロ!クウクウとうれしそうに鼻を鳴らします!
 父さんは、ジローのヨウスを見て悲しそう。いよいよジローの命が終わりかけている!
 ジローの体を、コウスケちゃんだけではなく、カンナお姉ちゃん、お母さん、父さんまでもふいてやります。ジローの体臭(たいしゅう)が強くなりはじめましたから、こまめにふいてやる必要があるのですねぇ。
 ジローは家族全員が、じぶんのそばにいるので、うれしそうにシッポをふりつづけます。

 あしたは日曜日なので、近くの公園へジローをつれて桜を見に行こうと、父さんがいいました。父さんは、
 「ジローが見る、最後の桜になるかもしれないんでね。歩けなかったら乳母車へ乗せて、押して歩こうとおもっているんだ」
 その夜に、コウスケちゃんはジローの濡(ぬ)れたような目がとても気になりました。
 きのうからジローは、まったく食べ物を食べなくなります。水は少しだけ飲みました。手伝ってやらないと、起きあがれなくなりました。
 コウスケちゃんは、また毛布を持ち出します。
 今夜もジローのそばで眠るつもり。コウスケちゃんは毛布を、ジローにかぶせます。それからしっかりと抱きかかえます。ジローの体温がなんだか低くなってきたような感じがしたから。

 朝に、母さんがジローのそばへきてみると、顔を涙で汚したコウスケちゃんがジローをしっかりと抱いたまま眠っているのを目にします。
 ジローは、もう冷たくなっています。母さんがソーッとコウスケちゃんを揺(ゆ)すると、
 「母さん。ジローは夕べ死んじゃった!ジローが冷たくなりはじめたので、ボクは抱いて暖めようとしたんだ。温かくならなかった。電気カーペットも温かいのに、ボクが抱いてやっているのに。ジローはまるでボクから逃げるように、冷たくなって死んじゃった。どうしよう?」
 「コウちゃんは、ちゃんとジローを見送ったんだから、もう心配しなくてもいいのよ。ジローはきっと、コウちゃんに感謝していると思う。顔を洗ってこうよか、汚れているから」
 母さんにうながされて、コウスケちゃんは起きあがります。顔を洗ってくると、父さんもカンナお姉ちゃんもジローのそばに来ていました。
 ジローは、コウスケちゃんの家族の、温かい思いやりに包まれて、天国へ旅立ったと思いますよ。
 コウスケちゃんは、犬には、犬の命の時間がある、といった父さんの言葉を、ジローの上に重ねているのでした。
 


 近ごろ、町のゴミ置き場に年取った犬や猫が、捨てられている光景を目にします。老犬や老描は人懐こそうに、近寄る人を見ています。すてられてもまだ、人間を信じている目!
 命は小さなペットでも、同じなのにねぇ。

  光
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大人のメルヘン、子供の情景「乱暴者といわれた父さん」   光

2013/03/17 15:42
 父さんは大きな体で、声が低く顔がやさしげな、というよりなんだかとても頼りなさそう。小4のトシハルちゃん、小2のテルマサちゃんに、ときどき無言の威圧(いあつ)をかけるときはコワいですよ!
 たいてい二人が、母さんに盾(たて)ついて悪いコトをしたときや、勉強をさぼったときですけど。
 二人の兄弟のほかに、三歳の妹アカネちゃんにかかりっきりの母さんと、このごろ健康がすぐれなくなってきた、父さんの母さんミチコおばあちゃんが、トシハルちゃんたちの家族。
 父さんはある家電会社の課長さん。だれにでも頭が低く、ミチコおばあちゃんが、
 「マサハル(父さんの名前!)。かわればかわるもんだねぇ、お前が、高校生のときに『やぶれ坊主(ぼうず)』と異名(いみょう)をとった男とはねぇ。引っぱりまわされ、ボロボロになったあたしがなつかしいわぁ。やぶれ坊主の名づけ親の白鳥署の巡査、オオゼキさんも今では署長さん。関取(せきとり)みたいに太って貫禄(かんろく)じゅうぶんの男になったしねぇ」
 おばあちゃんは、シゲシゲと父さんを見ます。父さんは、たよりなさそうな顔に笑いをうかべて、何も言いません。「やぶれ坊主」とは、アバレ坊主をとおりこしてランボウな男、という意味だとトシハルちゃんやテルマサちゃんに、ミチコおばあちゃんは説明します。
 小さな二人は、とても信じられませんでした。
 どこから見ても「アバレ坊主」のイメージがわかないほど、父さんは弱々しい感じの男。体はなるほどたくましく、ちょっとしたレスラー顔負け!
 ただ、トシハルちゃん、テルマサちゃんをおこるときは、ギョロリとした目になり、威圧(いあつ)を感じるこわい顔。でもたたくなどの暴力(ぼうりょく)は、まったくありません。
 でも、でも、でも、
 ブキミなこわさを、小さな二人は感じていて父さんにはおとなしいんです。

 きょうは土曜日。あしたも休日なので二人は午後から、歩いて二十分のお友だちの家でゲーム遊びに夢中!
 お友だちの家はお金持ちで、高価なゲーム機がいくつもあり、数人の子供たちもあそびにきていました。
 二人はゲームに気を取られて、すっかりおそくなります。夕方の七時ですよ。
 父さんとは、おそくても七時までには家へ帰ること、と約束させられています。大あわてでお友だちのご両親へ帰りのアイサツをして、帰りはじめました。
 夜になった土曜日の道には、街灯がついていて人通りがとても少ない!
 どうしたことか、車の通行も少ないものでした。

 家にはきょうは父さんはいません。
 母さんの実家へ、母さんと小さな妹のアカネちゃんを連れて、あそびにいっているからです。ミチコおばあちゃんは、町の春の演芸会のことで打ち合わせのために、公民館へ。夕方には帰ってくるそうで、トシハルちゃん、テルマサちゃんの食事の用意をするはずです。おばあちゃん。なかなか口やかましく、夕方おそくなるとおこりますよ。二人とも青くなって、家路を急ぎます。
 二人が住む梅ヶ池公園住宅の公園の道路へ出ました。
 住宅街が広がっています。
 公園のそばの歩道でアタッシュケースをかかえた、小柄で年配のダークスーツの男の人を追いこします。小柄な男の人は、ケイタイで話しながら歩いていました。トシハルちゃん、テルマサちゃんは、追いこすときに、チラッと見ます。アタッシュケースは白っぽい布製で、男の人は横抱きにかかえているんです。よほど大事なものが入っているのでしょう。
 公園を通りすぎ、一方通行の道路を右へ曲がります。わたった先の道路の右の曲がり角にはサザンカの植えこみが、住宅街の中までつづいています。もうすぐに二人の住む家が見えてくるはずです。
 道路をわたったサザンカの植えこみのかげから、トラ模様の子ネコが走りでてきました。首輪がありますから、飼いネコでしょう。灰色のトラネコは、まったくの子ネコではなく中ネコというところ。
 とつぜん、テルマサちゃんの足へ、子ネコはジャレつきます。テルマサちゃんは、思わず立ちどまります。トシハルちゃんが、
 「テル!早く帰らないと父さんがおこるかもよ」
 「でも、このネコ、ボクにジャレてくるんだ、ちょっとだけ遊んでやろうよ」
 テルマサちゃんが子ネコに手を出そうとしてしゃがみました。トシハルちゃんも、つられて子ネコのそばへしゃがみます。
 不意に、キーーッとするどい車のブレーキの音!
 次にはげしくあらそう大人たちの声が聞こえてきました。トシハルちゃんは、サザンカの木の隙間(すきま)から、あのアタッシュケースをかかえて、歩いていた小柄な男の人を、二人の目だし帽をかぶった男が襲(おそ)っている光景を目にします。案外にすぐ近くでした!
 思わず立ち上がろうとする、テルマサちゃんをお兄ちゃんはおさえます。テルマサちゃんが小声で、
 「お兄ちゃん。どうしたんだろう?」
 テルマサちゃんも、男たちが争うシーンを見ています。
 小柄なアタッシュケースの男をおそった男たちは、白い軽自動車で乗りつけたようです。小さな兄弟は軽自動車のナンバープレートの、ナンバーを記憶(きおく)。それから目だし帽の男たちをつぶさに観察していました。じぶんたちはサザンカの木陰(こかげ)に身をひそませ、姿をかくしたまま。
 なぜ、そうしたのか、わかりません!
 すごい声でどなり合いながら争う男たちに、危険を感じたのでしょう。巻きこまれたら、子供であるじぶんたちはどうしようもありませんからねぇ。身をかくす行動に出たお兄ちゃん、しっかりしていますね。
 時間にして、アッというまの争いでしたが、小柄な男の人の白いアタッシュケースは、目だし帽の男たちにうばわれてしまいました。大柄な二人の目だし帽の男たちは、アタッシュケースの男の人をボコボコにしてしまいます。小柄な男の人は、歩道にたおれて動きません!
 おそろしい光景です!
 男たちは白い軽自動車に飛び乗り、急発進して、トシハルちゃん、テルマサちゃんの潜むサザンカの植えこみがつづく一方通行の道路を曲がります。曲がってから、どうしたことか車を止めます。二人の子供たちが潜んでいる、サザンカをすぎたところ。
 二人の子供はびっくりして、体がふるえました。男たちに見つかったのか?
 ハンドルをにぎっている男が窓をあけて、
 「クソッ!あいつ、ケイタイで反撃(はんげき)しゃがった。ケイタイが顎(あご)にあたって、血が出てきたぜ。シゲジ、運転を代わってくんないか?」
 顎にケガを負ったらしい目だし帽の男は、ドアをあけると目だし帽をとり、車の反対側へまわります。反対側の男が運転を代わると、
 「タナカちゃん、ひどいケガか?」
 「ああ、当たりどころ悪かったと見えて、顎が切れている感じだ。血がとまらねぇ」
 「じゃあ、このまま大磯(おおいそ)へぬけて、大磯のタジマのアニキの家へ行こう。アニキの家の近くに、オレの知っている外科医がいるんだ。キズの手当てをしてもらえる」
 トシハルちゃん、テルマサちゃんは、男たちの表情をしっかりと見ました。代わって運転席へすわった男も、目だし帽を取っています。顔には眉毛(まゆげ)がなく、髪はモヒカン刈り。目の下が赤く腫(は)れているんですよ。アタッシュケースの男の人は、よほど抵抗(ていこう)したのか、この男もケガをしている感じ。

 男たちが車をとめたのは、運転を代わるためでした。
 サザンカの陰に潜(ひそ)んだ小さな二人には、まったく気がつかないようです。じつは子ネコを抱いたテルマサちゃんの、ズボンのお尻のあたりが、少し見えていたんです。ズボンは灰色でおまけに夜なので、街灯の光ではサザンカの影にまぎれてヨク見えません。こんな場所に子供がひそんでいるとも考えなかったし、逃げることに気がとられていたせいもあります。
 男たちの、白い軽自動車は、走りさっていきました!
 トシハルちゃん、テルマサちゃんは珠算(しゅざん)塾へかよっています。記憶がとてもよく、男たちとその車を細かく覚えましたよ。
 男たちの車が見えなくなると、二人は大急ぎで家へむかって走ります。チラッとたおれた男の人をふりかえると、事件に気づいた通行人がバラバラと集まりはじめていました。
 父さんたちはまだ帰っていませんでした。
 ミチコおばあちゃんがこわい顔をして、
 「トシちゃん、テルちゃん。父さんにいいつけるわよ。こんなにおそく帰ってきて!おばあちゃんは、あンまりあんたたちがおそいので、お友だちの家へ電話をしたところなの。そうしたら、大分前に帰った、とヘンジがあったので心配していたのよ」
 トシハルちゃんは固い顔で、
 「ごめんなさい、おばあちゃん。梅ヶ池公園のそばに変な人がいたので、かくれていたんだ。いなくなったので、大急ぎで帰ってきたところだよ」
 「そうなんだよおばあちゃん。ヘンな人が三人もいたんだ」とテルマサちゃん。
 「ほらね。だから子供は夜おそく、家の外を歩いちゃあだめなのよ。で、ケガはなったの?」
 おばあちゃんは心配そう。二人は首を横にふります。ごはんを食べはじめたときに、
 「あらまあ、かわいい子ネコ。どこからきたのかしら?」
 おばあちゃんの声のほうを見ると、ドアのところに、サザンカの植えこみにいた灰色のトラネコがいたんです。トシハルちゃんが、
 「テルちゃん、ネコをつれてきたの?」
 テルマサちゃんは首を横にふります。ネコはおそらく、走る二人の後を追ってついてきたのだと思いますよ。家からも近い場所ですからねぇ。カワイイ声で、ニャー、ニャーと鳴いて、おばあちゃんに体をこすりよせます。おばあちゃんは大のネコ好き。おばあちゃんは、
 「この子ネコ、首輪をしているけど、名前も住所も書いていない。ステネコなのかしら?」
 二人は無言でご飯を食べ終わると、じぶんたちの部屋へ引き上げてしまいました。
 父さんたちは夜おそく帰ってきました。帰りの道路が大ジュウタイでおそくなったとか。

 トシハルちゃん、テルマサちゃんは、朝早く起きてリビングでテレビを見ています。
 めずらしいコト!
 日曜日は、母さんがおこさないかぎり、二人は起きてきません。その二人が、ヘンに神妙にテレビの前に座っているんですよ。父さんが起きてきて訝(いぶか)しげに二人を見て、
 「オイオイ!二人ともどうしたんだ、こんなに早くから起きてくるなんて!さては、夕べおそく帰ってきたことで、父さんから怒られるから、と早起きしたのか?」
 まあ、まあ。おばあちゃんから、二人がおそく帰ったというニュースは、父さんへとどいていたんですねぇ。でも、二人は父さんをジーッと見て、トシハルちゃんが、
 「父さん。ボクたちと男同士の話しがしたいんだけど、いい?」
 「オッ、オレと男同士の話しか!どんな話だ?」
 父さんはなかばオドケマス!
 小さな二人の息子は、ゲーム機を買ってほしい、と「男同士」の話しとして持ちかけてきたのでしょう。ゲーム機は高価なもの。父さんの経済状態では、すぐに買えるものではありません。二人とも、小さいながら十分に、父さんのフトコロ具合(ぐあい)を知っていました。でも、お友だちの家でゲームに夢中で帰宅もおくれたほど。
 ゲーム機がほしいンですねぇ!
 二人は固い表情で、まずトシハルちゃんが、
 「父さん。ボクたちは夕べおそく帰るときに、梅ヶ池公園で、年配の男の人が、持っていた白いカバンを強盗に盗(と)られるのを見たんだ。ドロボウは白いケイに乗って目だし帽をかぶった、大きな男二人。カバンを盗られた男の人は、ボコボコにされてたおれていた。男の人はすぐに、道路を通る人たちに助けられたみたいだけど。
 ボクラは逃げていくドロボウの二人を見たし、白いケイの車の番号も見たし、話していることも聞いたんだ」
 父さんは小さな息子たちのイガイな話に、息をのみます。トシハルちゃんは、言葉をつづけて、
 「ボクラがドロボウを見たことを警察へ届ける前に、父さんへ話して、ボクたちが知らせたことが、犯人にわからないように、ナイショにしてもらおう、と考えたんだけど」
 「・・・・ホホーッ!で、なぜナイショにしたいんだ?」
 トシハルちゃん、テルマサちゃんは顔を見合わせて、テルマサちゃんが、
 「二人の犯人の男は、すごくデカクて強そうで、もし、し返しにきたらボクラも父さんも、それから母さん、おばあちゃんもボコボコにされてしまう。悪いやつは、あとで仕返しにくるって、父さん、この前に話していたじゃん。ボクラはそのことで夕べ寝ないで相談していたんだ。だから父さん、ボクラが警察へ届けたことをぜひぜひ、ナイショにするために『男同士』の話しをしたいんだけど・・・」
 父さんは「男同士」の話しとしては筋(すじ)がちがうのでは、と拍子(ひょうし)ぬけ!
 同時に、小さいながら家族のことを心配する二人の息子に、目が潤(うる)みました。父さんは、
 「よ、ヨーシッ!男同士の話し、父さんはしっかりと聞いた!だけど、二人ともこれから白鳥警察署へ行かなければならないよ。夕べのニュース速報では、ボコボコにされた被害者は、重傷(じゅうしょう)で意識がないそうだ。強盗がだれなのか、目撃者もなく、警察ではこまっていたところ。二人とも、すぐにしたくをして!
 父さんは車を用意するからね」
 母さんがあわてて起きてきて、息子たちの服をととのえます。おばあちゃんが、車庫まで父さんについていき、
 「マサハル。『やぶれ坊主』のお前が、いい息子を育てたものねぇ。あたしは、てっきりトシちゃんもテルちゃんも、ゲーム機のオネダリかと思ったわ。こりゃあ、二人へのご褒美(ほうび)がいるわねぇ、あたしが費用を手伝うから安心して」
 おばあちゃんは、それだけいうと自分の部屋へ引きあげていきました。
 白鳥警察署のオオゼキ署長さんは、およろこびでトシハルちゃん、テルマサちゃんをむかえます。二人の希望の、名前をだれにも明かさないことも、モチロン約束!
 帰りぎわにオオゼキさんは、
 「トシちゃんにテルちゃん、あとで警察署から表彰状と金一封(きんいっぷう)が出るからね。金一封はとても少ないけど、警察からのお礼だと思って受けとってね」
 金一封と聞いて、二人とも大よろこび。いくらか知らないけど、お金のほうがいいですからねぇ。父さんとオオゼキ署長さんは、ならんで歩きながら駐車場まで。
 「マサちゃん。ありし日の『やぶれ坊主』が、いい息子を育てたもんだねぇ。マサちゃんは、本当はいい男なんだ!だからいい息子が育ったとというわけか。ああ、本当に金一封は少ない、まあ、マックぐらいは食べられるから、息子さんによく話しておいて」
 父さんは、ありし日の『やぶれ坊主』が、いい息子を育てたという言葉に、じぶんは褒(ほ)められているのか、どうかと考えます。
 まあ、褒められている言葉でしょう。なぜなら、父さんは、いま最高にいい気分なのですからねぇ。



 ありし日の、乱暴者だった父さんが、幼いながら家族のことを心配する、息子を二人も育てるようになったんですねぇ。

  光
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大人のメルヘン、子供の情景「女雛さんの涙」   光

2013/03/09 19:36
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 夜の八時に、遠い南米の国、ブラジルはサンパウロから、父さんの電話。初めにアイナちゃんとアンズちゃんの面倒を見ているおばあちゃんが出ました。
 アイナちゃんは小3。アンズちゃんは小2。二人ともサンパウロで働いている父さんの留守をまもっているんですねぇ。もちろんおばあちゃんといっしょ。母さんは家にはいません。
 母さんはアンズちゃんがまだ幼稚園の年長さんのときに、家を出ていきました。
 父さんと離婚したんですよ。
 アイナちゃん、アンズちゃんを連れて行かなかったのは、新しい母さんの相手の男の人が、きらったからです。男の人は、
 「じぶんは血のつながらないアイナちゃんやアンズちゃんを、ギャクタイしてしまうかもしれないから」
 だから、ゼッタイに他人の娘を、引き取るのはイヤだといったそうです。法律どうりアイナちゃん、アンズちゃんは父さんが育てることに決まります。父さんはお仕事の関係で、遠い南米にいますが、もうすぐ帰国して日本でくらすことに。そうしたら二人の娘たちと、いつもいっしょ。
 母さんのいない家!
 父さんは父さんの姉さん、サエコ伯母さんに手伝ってもらったり、このごろ家に住みはじめた父さんの母さん、トミコおばあちゃんに、留守の家庭をみてもらっています。トミコおばあちゃんは、まだまだ現役の学習塾の先生。
 今夜の八時に、父さんから電話があるというので、アイナちゃん、アンズちゃんはワクワクしながら待っているところ。サンパウロは朝の八時だそうです。日本は夜。アイナちゃんたちの家の上には、ほぼ真ん丸なお月サマがかがやいています。少し雲があって、風が窓をかすめています。ゴーゴーと風の音がときどき強く聞こえます。やがて電話はまずアイナちゃんにわたされ、
 「モシモシ、アイナか?父さんだよ。サンパウロは少し雲がある朝の八時。朝の空には満月のお月サマが白く光って見えている。そちらでは?」
 アイナちゃんは、あわててリビングの大きな窓に目をうつします。煌々(こうこう)と光る丸いお月サマが見えました。アイナちゃんは息をはずませて、
 「父さん。お月サマが見えるわ。スゴク光っている。夜のお空には雲が少ししかなく、風が強いので窓の外ではゴーゴーと音がしているわ」
 「ホホーウ!じゃあ、お月サマが空を走っているように見えているかな?」 
 うすい雲から出てきたお月サマは、まるで空を走っているように見えます。
 「お月サマがスゴイいきおいで走っているわ。サンパウロではどうなの?」
 「サンパウロでは、晴れた朝の空に負けそうに、お月サマがウスク白く光っている。お空に浮かんでいるだけ」
 「こちらではちがうわ。銀の光がながれてくるみたい」 
 「オッ、アイナは詩人だなぁ。お月サマの光は銀の光か?」
 「うん。本に書いてあったわ。お月サマの光は、銀の光だって。太陽とちがって熱くなく、やさしく光っているんだって」
 「そうなんだよ。お月サマの光は、どこにいる人でも、わけ隔(へだ)てなくやさしく射(さ)してくる。決して火傷(やけど)をすることはなく、眩(まぶ)しいこともなく、人の心から心へ射しこんでくるんだ。人の願いも銀の光が運んでくれるし」
 ウーン、父さんは幼い娘の上をいく詩人ですねぇ!

 父さんが、南米から帰ってきました。
 二月のおわりで、アイナちゃんとアンズちゃんの桃の節句(せっく)を祝(いわ)いたいから、といいます。いつもの桃の節句には、家を出ていった母さんが、赤いヒナ壇(だん)をこしらえて、かわいいヒナ人形をかざるのでした。でもヒナ人形がもう家にはありません。母さんが持っていってしまったから。母さんの家に代々伝わるヒナ人形で、娘から娘へのこしたきたそう。母さんがヒナ人形を持っていったのは、いずれアイナちゃん、アンズちゃんを呼びよせるつもりではないでしょうか?
 三月の桃の節句(せっく)に、父さんは、知り合いの人形屋さんにたのんで、アイナちゃん、アンズちゃんのヒナ人形を作らせました。女雛さんをリアルに作っています。二人の娘はパッチリとした目をしていますから、女雛さんも、かわいい目。そのほかのヒナ人形は、細い目のフツウのお人形さん。
 アイナちゃんのヒナ壇、アンズちゃんのヒナ壇とわけられていて、名前がついています。
 二つのヒナ壇を、父さんとおばあちゃん、サエコ伯母さんまできて、にぎやかに作りあげます。アイナちゃん、アンズちゃんは、目をかがやかせて大喜び!
 アイナちゃんが、
 「父さん、女雛サマだけ、あたしの顔でそのほかは、ゼンブ、ふつうの顔のおひなサマなのはなぜなの?」
 父さんはむずかしそうな顔で、
 「お前の女雛サマは、本人がここにいるからソックリにできる。アンズの女雛サマも同じ。でもお前たちのトナリに座る男雛サマは、お前たちが大きくなって探さなければならない。未来のお前たちのトナリに座る男雛サマの顔は、まだ父さんにはわからない。だからふつうの細い目をした男雛サマの顔なんだよ。三人官女サマ、五人囃子(はやし)サマの顔。すべて未来にお前たちが作る顔なんだよ」
 アイナちゃんもアンズちゃんも、とてもはしゃぎましたが、サミシイことが一つ。
 桃の節句を祝ってくれる母さんが、いまは離婚して家をでています。
 よその男の人といっしょに住んでいて、二人の子供まで生まれています。母さんは今では、よその男の人の子供の母さんです。二人がどんなに望んでも、母さんとして、この家にもどってくることはありません。父さんといっしょにくらすこともありません。

 三月一日の月の光がある夜中に、アイナちゃんとアンズちゃんは、ひな壇の前に座っていました。
 窓から半欠けのお月サマが、光を射しこんでいます。お月サマの銀の光に照らされて、二人の女雛サマの顔が、白く浮き出るようにして見えます。
 父さんが、部屋へ入ってきました。センベイをボリボリかじりながら、
 「どうしたの、二人ともヘンに静かにしているじゃない?」
 アイナちゃんが、
 「父さん。お月サマの銀の光は、思う人に言葉を伝えてくれる、とこの前の電話で話していたわね?」
 「この前?ああ、南米のブラジルから電話をしたときだな?」
 「あたしはお月サマへお願いして、言葉を伝えたいんだけど、どうしたらいいかしら?」
 父さんは娘の想いを、すぐにわかりました。いまは遠い場所にいる母に、何かいいたいのでしょう。まだまだわけもなく母が恋しい年ごろの、アイナちゃん。アンズちゃん。父さんは、
 「かんたんさ。両手を合わせて、お月さんにお願いするんだ。さあ、二人とも窓へよって、お月サマへ両手を合わせて!思う人をよんでごらん!」
 アイナちゃんと、アンズちゃんは窓辺によります。半カケでも明るくかがやくお月サマへ、両手を合わせました。でも、お月サマをただ黙って見ているだけ。
 ナカナカ声が出ないんですよ。父さんのそばで「母さん」とよんでいいものかどうか。戸惑(とまど)っているんですねぇ。父さんは、
 「さあ、二人とも声をだして。今夜は特別に、大声を出してもかまわないから」
 二人の娘は、父さんに促(うなが)されても、声が出ないのでした。本当は「オカアサーン!」とよびたいのに!
 父さんが、
 「では、父さんがよんでやろう」
 父さんは、野太(のぶと)い声で、
 「・・・オカアサーン!」
 父さんの声につられるようにして、アイナちゃん、アンズちゃんが、
 「オカアサーン!オカアサーン!」
 何度か母をよんでいるうちに、二人はオイオイと泣きはじめました。何事かとおどろいておばあちゃんが、部屋へやってきます。窓の向こうのお月サマを、両手を合わせてアンズちゃん、アイナちゃんが拝(おが)んでいる姿に、おばあちゃんは立ちすくみました。でも父さんはニコニコと笑顔で、娘たちを見ています。
 やがて泣きつかれた娘たちの顔を、父さんは一人一人、やさしくタオルでふいてやります。
 「どうだ、二人とも少しは気がすんだか?」
 アイナちゃんも、アンズちゃんもヘンジをしません。父さんは、
 「父さんがたのんだら、母さんは、お前たちの顔を見に少しの時間だけ、ここへ来てくれると思うよ。どうしようか?」
 アイナちゃんが、
 「・・・あたしガマンする。もし母さんがここへきたら、この前のようにトラブルになって、おばあちゃんやサエコ伯母ちゃんにめいわくがかかるから」
 じつは父さんの留守中に、トツゼン母さんがやってきて、アイナちゃん、アンズちゃんを連れだそうとしたんです。おばあちゃんが、すごい剣幕(けんまく)で怒りました。ちょうどその時、きていたサエコ伯母ちゃんも、大きな声で怒りました。
 二人を連れだそうとした母さんは、
 「あ、あたしがあたしの娘たちを連れていくのに、どんな不都合があるのよ!」
 目を吊り上げて叫びました。すぐに警察がきて、なんとかその場はおさまりましたが・・・・
 母さんは、とても恐ろしい顔をしていました。二人とも叩(たた)かれるようなキョウフをおぼえたもの。母さんは、アイナちゃん、アンズちゃんを、別の目で見るような感じ。アンズちゃんが後で、アイナお姉ちゃんに、
 「お姉ちゃん。母さんはどうしたのかしら。あたしたちを犬か猫を見るような、変わった眼をしていたわ。叩かれそうな怖い目をしていたし」
 アイナお姉ちゃんは、何もいわず、ただただ涙を流していましたねぇ。
 あの時の、怖いシーンを思いだしたのか、アンズちゃんも、
 「あたしもガマンする。母さんは、ムカシの母さんとはちがったわ。いまの母さんは、あたしはキライだ!」
 「じゃあ、なぜ母さんとよんで泣いたの?」
 父さんが、アンズちゃんの肩を抱いて聞くと、
 「ムカシのやさしかった母さんを、お月サマの光でよびだしたかったのよ。お月サマの銀の光で、あたしの思う母さんに、雛人形があるよーと伝えたかった!」
 アイナちゃんが、
 「もしかして、母さんは、あたしたちの雛人形を見にくるかしら?」
 「ああ、来るかもしれないよ」と父さんがいうと、アイナちゃんは、ヒナ壇の一番上の女雛さんをクルリと後ろ向きに!
 「アレ、どうして後ろ向きにしたの?」と父さんが聞くと、
 「母さんに、あたしの泣き顔を見られたくないのよ。この雛人形はあたしの心。あたしの泣き顔が移ってしまって、はずかしい!あたしは、悲しくても笑い顔ができるけど、あたしのお人形さんはそうはいかないと思うから」
 アンズちゃんも、アイナお姉ちゃんにならって、女雛さんを後ろ向きに。
 父さんは、もうおそいから二人に寝なさいと勧(すす)めます。
 二人はベッドにもぐりこみました。
 父さんは娘たちが眠るまでそばにいました。アイナちゃんもアンズちゃんも、そばにいる父さんの姿を何度も確かめ安心の表情。そのうちに眠りへつきます。
 父さんはソロソロと立ち上がると、ひな壇の女雛さんを、表向きになおしました。娘たちの悲しい思いを知りましたが、やはりお雛サマは表向きがきれいですからねぇ。
 部屋のドアのところに、おばあちゃんがひっそりと佇(たたず)んでいます。
 二人はリビングへ入ります。父さんがテーブルに座ると、おばあちゃんが冷蔵庫からビールを持ってきました。二人でビールを飲みはじめます。おばあちゃんが、
 「アイナちゃんが女雛さんはじぶんの心、といったのには涙が出たわ。多感な女の子に成長していくのねぇ」
 「ああ、母さん。アイナもアンズも美人になるし、おばあちゃんの隔世遺伝でやさしい女に成長していくと思う」
 「女として、強い部分もある、出ていった母さんにソックリなところがあるわ」
 「・・・・!」
 あさっては、桃の節句!
 娘たちが健(すこ)やかに育つのを、近くの桃山神社へ願(がん)かけに行こう、と父さんは思いました。
 


 それぞれに桃の節句があるんですねぇ。

   光
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大人のメルヘン、子供の情景「母さんだけの詩人」    光

2013/03/01 19:12
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 サチコちゃんは小3。長い黒髪の似合うカワイイ女の子。妹には小2のトシエちゃん。こちらはオカッパ頭の元気な女の子。
 父さんには、おじいちゃんもおばあちゃんもいません。父さんが若いときに車の事故で二人とも亡くなったそうです。
 母さんには、近くの町に住み病院の看護師助手をやっているサナエおばあちゃん。それから、いまは住所が知れないトキオおじいちゃんがいます。
 トキオおじいちゃんは、おばあちゃんといっしょに住んでいましたが、ワルイ仲間ができて、あちらこちらで借金をくり返し、町にいられなくなます。どこかへ行ってしまいました。小柄なとても明るいおじいちゃんでしたが、お金にはルーズで、評判がよくありません。そうそう、父さんからも大金を借りてそのままのはずです。最後に父さんと、お金のことでおじいちゃんは大ゲンカ!
 おじいちゃんは、姿を見せなくなります。
 おばあちゃんの家もとび出していて、カワイソウにおばあちゃんは独りぐらし。おばあちゃんは、
 「おじいちゃんは、あちらこちらに不義理(ふぎり)をかさね、あたしはどこでくらしていいのか。いつも悩んでいるのよ」
 だからなのか、父さんにエンリョしてなのか、サチコちゃん、トシエちゃんにも会いに来てくれません。父さんはサチコちゃんに妹のトシエちゃんを連れて、ヨクヨク遊びにおばあちゃんの家へ行かせます。小3のサチコお姉ちゃん、しっかりしていて、電車バスを乗り継(つ)ぎ、おばあちゃんの家へ。帰りは父さんが車で迎えに行ったり、母さんがいったり。たまには泊まって帰ります。
 父さんは、ある商事会社の課長さん。
 部下も大勢いて、家にはよくよあそびにきていました。だから父さんは人気者。
 父さんには、一つの特技(とくぎ)があります。父さんが中学生のころに書いた詩が、全国大会で入賞したとか。だから詩を書くんです。でも母さんの話しでは、詩は中学生のときのまま止まっていて、とてもヘタだということでした。父さんはわかっていて、母さんだけにしか詩を書きません。じぶんで母さん専用の詩人だ、とサチコお姉ちゃんやトシエちゃんに威張(いば)ったもの。ときどき、父さんのキゲンのいいトキに書く詩ですが、子供たちはあまり読んだことはありません。母さんがゼンブ、どこかへ直してしまうから。

 ある年の春に、遠くの九州からおじいちゃんの音信(おんしん)がありました。病院からで、みんなに会いたい、と知らせてきたんですよ。父さんは青い顔をして、さっそくあくる日におばあちゃんや、家族を連れ、九州の病院へ。
 4人部屋の病室の一つに、おじいちゃんは寝ていました。母さんやおばあちゃんがよびかけても、ボウーッとしています。担当(たんとう)のお医者さんが、おばあちゃんにムズカシイ顔。おじいちゃんは大変な容体(ようだい)のよう!
 やがておじいちゃんは、意識がはっきりしてきたのか、おばあちゃんに、
 「サナエ。すまなかったなぁ、ワシはいつもお前にすまない、と思っていたんだよ。最後にミットモナイ言い訳と思って聞いてもらいたい。それから『お母さん』」、
 母さんの顔を見ました。おじいちゃんはサチコちゃんたちの母さんを、いつもこう呼びます。自分の娘なのにちょっと変!
 「お前も、ワシにいえるだけのモンクを言ってほしい・・・・お母さんに会いたかった・・・すまないと思っている。お前のダンナさんに、不義理を重ねまったく合わす顔がないけど」
 それからおずおずとした目で、父さんを見て、
 「サトルさん。すまなかったなぁ、娘のバカなオヤジを・・・金は返したかったんだけど・・・ますます人生のどん底へ落ちこんでしまい、返せないまま。あの世へ行ったらホトケサマの前で働いて、借金を返したいと思っている・・・」
 それから、それから、サチコお姉ちゃん、トシエちゃんの手をにぎり、
 「うれしいねぇ。ワシにこんなかわいい孫がいるんだ。目にしっかりと、焼きつけておこう。かわいい天使の姿として・・・・」
 なんだかおじいちゃん、調子のいいことばかりいって、元気になりそうな感じ。二人の孫娘はすっかり打ち解(と)けて、病室はにぎやか。
 でも、でも、でも!
 おじいちゃんはダンダンと意識が遠のいていき、静かに息を引き取ります。
 おじいちゃんはヤツレはてて、小柄だった体が、さらにさらに小さくなっている感じでした。

 家へ帰ってきてから、母さんは元気がありません。
 どんなおじいゃちゃんでも、母さんの実の父親。亡くなる目の前で『お母さんに会いたかった』といいました。嫁(とつ)いだ先の旦那(父さん)さんにエンリョして、そういったのでしょうか?
 多分、そうでしょうねぇ。じぶんが不義理をかさねたことで、ダンナにいじめられてはいないか、父親として心配した言葉だと思いますよ。そんな目の色が、母さんには見えました。
 でも、でも、でも、
 サトル父さんは、母さんをいじめるような男ではなく、
 「ヤスコ(サチコちゃんたちの母さん)。気にしなくてもいいんだよ。父さんは、人生が何もかも上手くいかず、ドロの海にいわば溺(おぼ)れてしまい、這い上がれなかった。
 オレに一つだけ、とても良いコトをしてくれたのを覚えておいてほしい。父さんはヤスコという娘を、この世に作り出してくれた。その女性は縁(えん)あって、オレのお嫁さんになってくれた。これが一番、オレにとって良いコトだったんだ」
 なぐさめてくれた父さんの言葉が、母さんの胸に沁(し)みます。でも、心が晴れないのは、ふつうの娘としてあらわせないモヤモヤとした思い。
 母さんは、よくよく、富士山を見ます。
 美しい霊峰(れいほう)といわれる女性的な、優美(ゆうび)な線を見せる富士山。父親は娘を、富士子と名づけたかったと聞いたことがあります。あの山を見ると、苦しいことがあっても、癒(いや)される自分がありました。
 いまは、それがありません!
 もの思いにふけりながら、富士山を見ているときに父さんがよってきて、
 「オイオイ。ヨメはん。いつまでも悲しい顔をしてると、ばあさんになるぜ。これはたった今、オレが書いたホッカホッカの詩だよ。読んで」
 母さんにわたして、父さんは野球のテレビ中継を見にリビングへ。母さんは、わたされた詩を、ゼンゼン読む気がしません。どうせヘタな詩に決まっています。こんなブルーのとき、父さんのヘタな詩を読む気はないのに!
 でも、読みはじめました。
 ----ヤスコ。
 父さんのことで自分を蔑(さげす)むことはないよ
 父さんは生き方がちがっていたんだ。
 亡くなられたのは、しかたがない。
 『お母さんに会いたかった!』と最初の娘への言葉が、
 オレの心にズンッ!
 死んでいく身に、娘を思いやる父親の心!
 いたいほどよくわかったよ
 だからヤスコ、
 オレにエンリョして、あんな父がミジメだとか情けない、とかはいわないで!
 娘として、父親の死を悲しんでほしい。
 良いこともあった父だと、思ってほしい!
 ヤスコだけの詩人より-----

 母さんは、リビングでテレビに子供たちと夢中の父さんを見ます。
 涙がとまりません。
 娘として、父親の死を悼(いた)むのを、エンリョしないで、と母さんだけの「詩人」は書いていますよ。
  もしかして、母さんが一番、ほしかった言葉かもしれません!
 母さんのモヤモヤした気持ちが、スーッと晴れてきました。取り残されたような気もちの母さんが、亡くなったおじいちゃんの、心の野辺の送りを、今、すませたと感じます。
 遠くに見える富士山のさらに上を、白い雲がフワフワ!
 あれに乗って、おじいちゃんは、きっと天国へ!
 天国のホトケサマの前で働いて、借金をかえすといいました。
 母さんは、何度も父さんの詩を読みかえします。涙を拭いては、また読みます。それから、大事にたたんで、それまで書き溜めていた父さんの詩の上に置きました。
 母さんだけの詩人の詩は、一つもすてずに、とってあるんですよ。
 母さんの憂(うれ)いをはらった、母さんだけの詩人の詩!
 世界にたった一人の、母さんだけの詩人!
 いいですねぇ!



 
  男はおだてられると、詩人になったりコメディアンになったり、板前さんになったり、シェフになったり(経験者は語る!)。なんとか退院できましたので、またブログをゆっくりと再開します。よろしくね。

 光
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大人のメルヘン、おじいちゃんが消えた理由    光

2013/02/06 21:48
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 ケンタは四十歳。いまの会社に勤めてから、もう十年がたった。子供は小4と小2の二人の女の子。じぶんに似て顔立ちのきれいな女の子に、そだっているとおもう。まあ、親のヨク目で見ているのかもしれないが。多分にじぶんよりも子供たちの母親のヨシエに目元や口元、芯の強いところなど似ているのかもしれない。
 ケンタの妻のヨシエは五歳年下のおとなしい女性。というよりおとなしくなった女性というべきか。
 ヨシエは母子家庭でそだち、とても気のつよいところがあり、成人になるまで社会とイロイロのトラブルをおこしてきた。ヨシエはそこそこの美人なのに、男をよせつけないスルドイ目つきをしていた。そのくせ何となく男を引きよせる目も持っていたのだ。
 ヨシエは女手一つで母にそだてられたのだが、母の生きざまを見て男を拒否(きょひ)というか、近よる人間をサケテていたような感じだった。
 フシギなのは、ヨシエは男をきらうくせに、男にかぎりないアコガレをもっていること。
 じぶんの理想の男を求めるおもいがあるのだが、母を一人にした父親のような男をケギライする。ヨシエの父親は家庭をすてて、ほかの女と新たに結婚してしまう。
 その結婚にもやぶれて、最後にはひっそりとあるアパートで孤独死!
 遺体は市役所が身元不明者としてあつかってしまう。父の遺体を引きとる人がだれもいなかったから。
 父の死をしらされたのは、ヨシエが未成年(みせいねん)の少女の日々を、荒れくるって過ごしていたとき。
 父の死を母から聞かされて、フンッ!じぶんたちをステて孤独に死んだのだから、あたしはカンケイない!
 母も離婚しているし他人なのだから、遺体など引き取らないのが当然!
 ヨシエはセセラ笑ったものである。
 自然のながれとしては、孤独死した当時の相手の妻や子供が、引きとらなければならないのだ。とにかくヨシエは冷ややか。
 一つ、ヨシエにおこった現象は、父の思いがけない死から何かが吹っきれたという思い。
 いままで社会で荒れくるっていたのは、父への憎(にく)しみと母への反抗(はんこう)のつづきだと思う。父の死によって、じぶんが、まるで幼い子供がダダをこねているように見えてきて、すっかり熱が冷めてしまった。
 不良少女を気どるのをやめてしまう。もともとヨシエはマジメな性質の女の子で、ただただ、両親に目に見える反抗をしていたにすぎない。

 二十歳になり母から、成人式のお祝いをヨシエは受けた。
 母はヨシエにピンクの花柄の振袖(ふりそで)をよういした。着てみると、どこの令嬢かとおもえるほどの、あでやかで上品なヨシエがあらわれたのである。
 これがジブン?
 姿見の鏡にうつるじぶんに、ヨシエはとまどう。
 こんなにきれいなじぶんという女が、町の不良少年や不良少女たちとつき合って、キセイをあげていたのだ!
 あれは、未熟(みじゅく)な思春期の、カオスのような熱病だったのかもしれない。父の孤独死は、本来ならば娘にとって、非常なインパクトをともなったはず。ヨシエは強いインパクトを受けた。インパクトはラッキーにも娘を、社会の正常な流れにひきこんでしまう。

 ヨシエはようやく、成人式を境にして社会のまじめな職業へ就(つ)くことになった。母のたゆまぬ娘への愛が、陰(いん)に陽(よう)にヨシエをみちびいたのは言うまでもないだろう。
 はじめての給料をもらったときに、ヨシエはあらためて自覚する。スナオに「お母さん、ありがとうございました」と面(めん)とむかって母にいえたのである。
 ヨシエにとって母はやさしい女ではなかった。
 母は女手一つで娘をそだてたわけだから、人生のミニクイ場面も、いい場面も、つい見えてしまう。というより、母は女としてのジブンを、なるべく見せようとしたようだ。ヨシエは女の子。やがて年ごろになり、男を愛するようになったとき、母の生きざまが正面の教師となるか反面(はんめん)の教師になるのか。少なくとも選択(せんたく)の一つになる。そのために、母はやさしい母になることをやめたのだ。

 ヨシエがまじめなシゴトへ就いたときに、ケンタを知るようになる。
 ケンタもじつは母子家庭でそだった。
 ケンタの父は高名(こうめい)な柔道教師。
 がっちりした体格でとても明朗(めいろう)な男。大柄な母、サユリと似あいの夫婦だと、結婚当初は羨(うらや)ましがられたものである。
 だが家庭での父親は、ケンタが成長するにつれてバイオレンスの大王になった!
 なにが気に入らないのか、しょっちゅう幼いケンタと妻に暴力をふるう。父はジブンの意見が通らないと、気分を害して暴力をふるうクセがあった。職場の学校で暴力がふるえないとき(いわゆる指導者としての教え子たちへのギャクタイ!)は、気もちがいら立ち妻のサユリにあたったのである。サユリはあまり夫の気に入るようなナグサメ方をしなかったこともある。ドメスチック・バイオレンスはひどくなっていった。
 柔道教師で体がガッチリしていて、息子のケンタなど小指だけでつぶせそうなのに、父はギャクタイを強めた。ある日のギャクタイは度を超(こ)えていて、ケンタは人事不省(じんじふせい)の重体(じゅうたい)に!
 自分の息子なのに、これほどのギャクタイをしてしまった柔道家の夫!
 妻のサユリは怒りで、パニック!
 金属バットを手に、夫になぐりかかったのである。だが夫の敵ではなく、あえなくタタキふせられサユリも重傷を負ってしまう。

 ケンタは幸運にも蘇生(そせい)したが、もうそばには父の影はなかった。
 いや、一度だけケンタが小3のときに、父が家へやってきたのを見た。父はヤツレはてて、みょうにオドオドしている。父はケンタの養育費を、持ってきたのだったが。これまでに一円の養育費も払わなかったのに、どういう風の吹きまわしなのか?
 母、サユリは冷たくつき返す。
 父がどんな職業に就(つ)いているのか、いままでに音信はない。父の身だしなみを見れば、およそ見当はつく!
 父はヨレヨレの服装で、無精(ぶしょう)ヒゲを生やしていた。印象的だったのは、危(あや)うく死に至(いた)らしめるところだった息子のケンタを、ゼンゼン見ようとしなかったこと。もし死に至らしめていたら、父は殺人者!
 その思いが父の上にあるため、ケンタへ目が止まらなかったのかもしれない。
 久しぶりに見る父は、まるで他人の男を見るような感じ。ケンタにはマダマダ、家庭でギャクタイをつづけた、キョウフの大王そのもの!
 き然とした母、サユリに父は背をむけ、つき返された金をポケットへいれて、町を出ていく!
 ケンタはコワいもの見たさというか、久しぶりの父を追いかけ遠く離れて歩いた。
 父は背を丸めトボトボとした足取りで、駅の方向へ。一度こちらをふり向いたので、ケンタはあわてて物陰にかくれる。たしかに父はケンタを見た。だがかわった表情もなく駅へ向かって歩を進める。
 駅が見える場所までケンタはついてくる。
 歩道には通行する人がまばらであった。春の日の街路樹に、ミドリが染まりはじめている。行きかう人々には春の楽しさがあるはずだが、父の後ろ姿にはなかった。ケンタの目に、黙々(もくもく)と歩く父の大きな姿が影絵のように見える。本当ならば笑いもあった父の声を、もう少し間近で聞きたいのに。父の後ろ姿にはケンタをよせつけない、サミシサが色コクにじみ出ているのだ。
 その日から半年後に、ケンタは父の死を知らされる。
 父は死の病をもっていたので、最後に妻だったサユリを見たかったのかもしれない。最後に息子のケンタの姿を心に刻みたかったのかもしれない。それはだれにとっても、虫のいい話しなのだが。

 ヨシエに出あって、最初にケンタが感じたのは、
 ----この人は、オレと同じような家にそだった女なんだ!----
 同じ家でそだったのであれば、同じ思いに浸(ひた)られる。ヨシエの近所では不良娘!とひそかにウワサされているそうだが。人のうわさなど当てにはならないし、信用できない。ケンタはヨシエがとても好ましい女性、と信じてうたがわなかった。ヨシエを愛するとすれば、ヨシエをどんなことがあっても信じることだ!
 と思いつめて近よって行ったのだが。女の心をこちらへ向かせるのは容易なことではなかった。
 ヨシエは心を鎧(よろい)でかこっていて、近よれば構えた剣でケガを負いそう。だがヨシエは鎧の下に、とても女らしい心に満ちた肌をもっていたのだ。

 ケンタは二人の娘を連れ、ヨシエと久しぶりに温泉旅行へ行った。
 温泉宿がある山には春の息吹があふれ、小鳥たちの姿やサエズル声が聞こえる。朝早く起きだし、温泉宿の町を家族で、そぞろ歩く。
 温泉から遠くの駅がかすかに見えている。駅までの道はズーッとゆるやかな下りでつづいていた。ケンタは自分の前から、二度とふりかえることもなく、消えていった父の姿を、何気なく探す!探す!探す!
 不自然な動作に、娘たちが、
 「どうしたのお父さん。何か探しているの?」
 「うん。お父さんは、ムカシ、目の前から消えていったお前たちのおじいちゃんをさがしていたのさ。この道が、おじいちゃんが消えていった風景に似ているかんじなんだ」
 ヨシエが笑いながら、
 「まあ、アナタ。バカみたい。死んだ人がこんな温泉の町に、あらわれるはずはないでしょう!」
 「うん。その通りだ!でもオレは、ただ何となくそう思ったんだ」
 二人の娘たちは異口同音(いくどうおん)に、
 「ねえ、お父さん。あたしたちにおばあちゃんはいるのに、なぜ、おじいちゃんはいないのかしら?」
 ケンタは少し考えて、言葉をえらびながら、
 「お前たちに、なぜ、おじいちゃんがいないのか、おまえたちが大人になり、ステキな男性と結婚したときに、考えてほしい。ぜひ、ぜひ考えてほしい。じつをいうとお父さんにも、なぜお前たちのおじいちゃんがいないのか、まだまだ分からないんだ。
 ・・・でも、これだけは、はっきりといえる!
 お前たちの前から、お前たちが結婚するまで、そして子供が生まれて家族をつくるまで、お父さんが消えることはない。お前たちのお母さんを独りにすることはない!」
 娘たちは、意味が分からないのか、キョトンとしている。
 そばのヨシエが歩きながら、ソーッとケンタの手を握る。ヨシエの手は暖かく、女らしい心に満ちた肌を感じさせるものだった。
 


 早い書き込みですが、ちょっと病院へ。また来月から書き込みを始めますのでよろしく。お元気でね。

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「指切りゲンマン!」    光

2013/02/02 00:16
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 ヒロノリちゃんは、幼稚園の年長さん。父さんにつれられて川向こうにある有料老人施設「リバーサイド桜」へ、ときどきおばあちゃんのお見舞いにでかけます。小2と小4のお姉ちゃんたち、母さんもいっしょ。
 おばあちゃんは、一年前に「リバーサイド桜」へ入ったばかりです。
 父さんのお兄さんといっしょにくらしていたおばあちゃん。仲がわるくなって、有料老人施設へうつったのでした。父さんのお兄さんはお金持ちでしたが、事業が思わしくなく、おばあちゃんとケンカをしたのはお金のため。その点、ヒロノリちゃんの父さんはビンボウなので、おばあちゃんとお金のコトでケンカをすることはありませんでした。母さんがヒロノリちゃんに説明しましたから、わかっています。
 でも、ヒロノリちゃん、半分ぐらいしかわかっていません。まだ幼稚園の年長さんですからねぇ。母さんはむずかしくても、子供たちには、ちゃんと説明します。大人の世界は、ムズカシイですねぇ。覚えるのはまだ早いと思いますが。
 ときどお見まいに行く「リバーサイド桜」には、入所しているおばあちゃんが多いですねぇ。おじいちゃんは数えるほど。少ないおじいちゃんの中で、セガワさんというおじいちゃんが、ヒロノリちゃんの目を引きます。
 セガワおじいちゃん、いつでも泣きそうな顔をしているから。
 施設の昼休みの憩(いこ)いのときに、大勢のお年寄りが広いサロンにあつまり、お話をしたり、本を読んだり。お姉ちゃんたちは、お年寄りの中に入って、いろいろとおセワをするんですねぇ。小4のアカネお姉ちゃんは、食事介助やベッドメーキングのお手伝いを、ヘルパーさんたちに交じってするんですよ。
 アカネお姉ちゃんは、大柄でどちらかといえば、ちょっとランボウ。ヒロノリちゃんや小2のスミレお姉ちゃんと仲がわるいほう。
 ところがところが。
 おばあちゃんをお見まいに来たときは、とても優しい女の子になります。
 たびたび来るようになってから、アカネお姉ちゃんのランボウな態度がカゲをひそめ、ステキな女の子に。父さんはビックリ!
 ほんとうはアカネお姉ちゃん。優しい少女だったんですねぇ。
 体の不自由なお年寄りの、介助のお手伝いをするうちに、優しい女の子になったのはまちがいありません。
 ヒロノリゃんたちのおばあちゃんが、アカネお姉ちゃんへ、ヘルパーさんのお手伝いをするように仕向(しむ)けた感じですよ。
 ああ、ヒロノリちゃんの母さんも、施設へくると、さっさとヘルパーさんのユニフォームを借りて着て、お年寄りの体の清拭(せいしき)やフロ介助、トイレ介助、食事介助などの、お手伝いをするんですよ。なにしろ母さんは、病院の看護師さんでしたからねぇ。老人施設のお仕事など、慣(な)れたものです。
 ところで、ヒロノリちゃんと小2のスミレお姉ちゃんのすることは?
 お年寄りたちの周りであそぶことでした。
 ヒロノリちゃんも小2のスミレちゃんも、かわいい顔をしています。スミレちゃんはとてもオシャマで、お年寄りたちとお話をしては、ケラケラと笑います。明るいんですよ。ヒロノリちゃんが腹が立つのは、おばあちゃんたちが、女の子だと思っていること。じぶんは男だぞー、と怒ると、そのヨウスがかわいいのか、おばあちゃんたちはキャアキャア笑います。まるでお年寄りたちの、カワイイお人形さんかペットの動物の感じ。

 セガワおじいちゃんは、みんなのそばにいつもいるのですが、泣き顔なので、だれも話しかけません。自分でも話しかけることが少ないのでした。
 セガワおじいちゃんが、人とは離れたところに座っていて、新聞を読んでいるときに、ヒロノリちゃんが、
 「おじいちゃん。おじいちゃんは、なぜいつも悲しい顔をしているの?」
 おじいちゃんは実は新聞など読んではいませんでした。読むふりをして、みんなの話し声に耳を澄(す)ましていたんです。ヒロノリちゃんが話しかけたことで、ちょっとびっくりして、
 「ワシが悲しい顔をしているように見えるの?」
 「うん。なんか泣きだしそうな顔だよ」
 「ほー、こりゃあいかん!ワシはムカシ、あまり悲しいことがつづいたんで、笑顔ができないんだよ。悲しい顔で固まってしまって、元にもどらないんだ。でも、こうしてみんなの声を聞くのが大好きで、みんなの笑顔が見られるのが大好きなんだ」 
 セガワおじいちゃんは、雑記帳を手にすると、顔の絵を描きはじめました。ヒロノリちゃんは横から見ていましたが、とてもヘタ。マンガのような絵で、何を書いているのか聞くと、
 「ワシはヒロちゃんの顔を書いているつもりだけど、似ていないかなぁ」
 「マンガみたーい!もっと、じょうずに描いてよ!」
 ヒロノリちゃんがゲラゲラ笑うと、そのときに初めて笑顔になり、描きなおしはじめましたが、ウーン!まだまだヘタです。
 それからヒロノリちゃんは、セガワおじいちゃんとナカヨシになり、部屋へもあそびに行くようになります。

 セガワおじいちゃんの部屋には、何もないかんじですっきり。ベッドがあり窓際近くの小さなタナに、クリスタルの一輪挿(さ)しが。一輪挿しの口がすこし欠けていて、茶色のテープが張られています。何かの赤い花が一輪、いつもさしてあります。このごろでは、赤いバラが多いかなぁ。おじいちゃんは、一輪挿しを指さして、
 「この一輪挿しは、去年亡くなった(実は六年前!)ワシの大好きなカミサンの形見(かたみ)。赤い花がスキだったンで、ここへ来てから、ワシは花びんに花を切らしたことがないんじゃ。このごろでは何の赤い花がスキじゃったのか、ワシは忘れてしもうた。とにかく赤い花だったので、赤いバラを欠かさずに挿してある。花が部屋にあるだけで、亡くなったカミサンが、ここにいるような感じがしてねぇ」
 でも、一輪のバラは少し萎(しお)れていて、もう新しい花に取りかえたほうがよさそう。ヒロノリちゃんが、
 「おじいちゃん。このバラはもうとりかえたほうがいいよ」
 「うーん。そうだなぁ、ヘルパーさんに買ってきてくれるようにたのんでおこう」
 「花をじぶんで買いにいかないの?」
 「うん。いかない。億劫(おっくう)でねぇ。ワシの泣き顔を見て、ヘンな顔をする人も多いんで。ここはワシがどんな顔をしても、知らん顔でみんなつき合ってくれる」
 「おじいちゃん。おじいちゃんの花はないの?」
 「ワシの花はない!あるとすれば、ワシが死んだときにだれかが挿してくれる花。考えてみれば、ワシはカミサンが大好きだった。一番悲しいことは、じつはワシのカミサンが亡くなったことなんだよ。だから悲しみも深くなり、悲しみの顔だけしか作れなくなった。そうだ・・・・
 ヒロノリちゃんに、一つたのみたいことがあるんだ。聞いてくれるかね?」
 ヒロノリちゃんは、ちょっと身構えます。セガワおじいちゃんが、まじめな顔でたのむのは?
 「カンタンなことだよ!ワシがもし死んだら、この花びんにもう一本の花をさしてほしい・・・そうしたら、ワシはカミサンの花と共に、天国へ行けるような気がするンじゃが・・・」
 ヒロノリちゃんはコクリとうなずきます。セガワおじいちゃんはニコニコ顔で、
 「じゃあ、男の約束。指切りゲンマンをしようか」
 節くれだった太い小指を、ヒロノリちゃんの前に突き出します。ヒロノリちゃんもニコニコ顔で、小指をつきだし、
 「指切りゲンマン、ウソついたら針千本、飲ましょーっ」
 セガワおじいちゃんは、
 「指切ったー!」
 
 残念なことに、セガワおじいちゃんは、ヒロノリちゃんと指切りの約束をした日から、ほどなくして亡くなります。
 おじいちゃんの死を知らされたのは、亡くなられた次の日で父さんから。セガワおじいちゃんは、ヒロノリちゃんへリッパな、お伊勢様のお守り袋を託(たく)していました。お守り袋には、ヒロノリちゃんの名前も書かれているそうです。
 セガワおじいちゃんの死を聞いて、ヒロノリちゃんは、男の約束を思いだします。
 あの一輪挿しに、おじいちゃんの花を挿(さ)さなければなりません!
 なにしろ指切りゲンマンして、指切りを。それに父さんが、男の約束は鉄よりも固い、と日ごろからヒロノリちゃんに吹きこんであります。
 まあ、父さんのは軽いジョークかもしれませんが。ヒロノリちゃんにとっては、セガワおじいちゃんとの約束は、とても大きなものだと思いました。なぜって?
 セガワおじいちゃんは、ヒロノリちゃんが挿した花で、おばあちゃんの花といっしょに天国へ行くンですから。花ビンに花を挿さなければ、おじいちゃんは天国へ行けません!
 ヒロノリちゃんは父さんへ、セガワおじいちゃんが住んでいた部屋へ連れて行ってと、強く強くたのみます。
 父さんはヘンジをしません。
 ちょっとツゴウがわるいんですよ。
 施設へ入所しているおばあちゃんが、カゼで体をコワし病院へ入院しているンです。そちらへ行かなければなりませんから。病院は家からも遠いし、「リバーサイド桜」は家とは反対の方向にあるし。ヒロノリちゃんの頼みは聞けません。ヒロノリちゃんは必死で、
 「父さん。おじいちゃんの部屋の花ビンに、ボクは花を挿したいだけなんだ。ボクはおじいちゃんと男の約束をして、指切りゲンマンをしてきたし。ボクがおじいちゃんの約束を守らなければ、おじいちゃんはあの部屋から天国へいけないから」
 父さんは、
 ----まあ!セガワさん。とんでもない約束をウチのヒロノリとしたもんだ。どうしよう!----
ケッキョク、父さんは車で初めにリバーサイドへ立ちより、ヒロノリちゃんの要件をすませて、父さんの母さんが入院している病院へ行くことにしました。小さくても男の約束は、守らなければなりません。ヒロノリちゃんの思いを大事にしなければ。

 「リバーサイド桜」のセガワおじいちゃんの部屋は、まだ片づけられてはいませんでした。部屋の窓際の小さなタナには、口が欠けたクリスタルの一輪挿しが置かれています。おどろいたことに、一輪挿しには真っ赤なバラが一輪!
 じつは父さんが ヒロノリちゃんのために、前もって施設へセガワおじいちゃんの部屋をそのままにしておいてと、電話でたのんだのです。一輪の赤いバラも挿しておくようにとね。
 ヒロノリちゃんは、母さんにたのんでおじいちゃんの花を買ってもらいます。母さんは、セガワおじいちゃんの奥さんの花と同じ、赤いバラを一輪、用意してヒロノリちゃんにわたします。
 こうしてブジに、ヒロノリちゃんの男の約束ははたされました。そのイキサツを、病院を訪ねた父さんは、ベッドに伏(ふ)しているおばあちんへ報告します。母さんも、二人のお姉ちゃんも病院へ先にきていて、おばあちゃんと談笑していました。
 おばあちゃんは、青い顔をしていましたが、元気そうで、
 「まあまあ、ヒロちゃんの男の約束のために、父さんはひっぱりまわされたというわけー!」
 ゲラゲラと笑います。それから、
 「ヒロミツ(父さんの名前ですよ)!あたしとも、男の約束をしておくれ」
 「エーッ、オレが母さんと男の約束をー?」
 「そう。ヒロミツは男!あたしとする男としての約束よ。指切りゲンマンをしておくれ」
 父さんは、ちょっと不安そうにおばあちゃんの顔を見ます。おばあちゃんは、相変わらずニコニコ顔で、
 「ヒロミツの約束は・・・・あたしに、もしものことが起きた場合に、一切の延命治療(えんめいちりょう)をおこなわない、という約束よ。あたしに、安らかな死を認(みと)めてほしい。もしものときに、兄弟の中で一番優しいお前が、あたしの安らかな死を妨(さまた)げそうな感じだからね。延命治療はゼッタイにナシ!という約束の指切りゲンマン!」
 おばあちゃんは、ニコニコ顔で腕をのばし、父さんの右手をつかみました。
 父さんは、なぜか ふるえながら小指をのばします。その小指におばあちゃんはじぶんの小指をからめて、
 「あたしの安らかな死を、延命治療などでさまたげないという約束。ヒロちゃんの男の約束とおなじ。指切りゲンマン、ウソついたら針千本飲ましょ!」
 そばでヒロノリちゃんが元気よく、
 「指切ったー!」
 父さんは指切った自分の小指をながめてカタイ顔!
 「か、母さん。オ、オレに、そんな悲しい約束などさせないでおくれよー!」
 おばあちゃんは、もう一度父さんの小指に自分の小指を絡ませて、
 「指切ったーっ!」
 それから、枕元のハンカチで父さんの顔の涙をふきます。まるでヒロノリちゃんの母さんみたいに、ハンカチで父さんの顔を拭き拭きするんですねぇ。そういえばおばあちゃんは、父さんの母さん。母さんは年をとっても息子に、同じようなことをするんだ!
 でも、父さん。まだまだ元気なおばあちゃんと、ただの指切りなのに、なぜ泣くんだろう?
 ふり返ると、母さんも、二人のお姉ちゃんも涙を流しています。
 ヒロノリちゃんには、訳の分からないことでした。


 指切りゲンマン、ウソついたら針千本飲ましょっ!

  光
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大人のメルヘン、子供の情景「シンゴちゃんの質問」  光

2013/01/27 01:25
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 二歳のシンゴちゃん。病弱で発育もわるく、知能の発達もほかの子供たちとくらべると、おくれギミ。消化器官がわるいために、しょっちゅう病院通いです。病院へは母さんがつれて行きます。母さんは、もう三歳になろうとするシンゴちゃんに一日中、かかりっきり!
 とても心身(しんしん)がつかれていて、このごろではほとんど笑顔がありません。
 シンゴちゃんの母さんは、とても情熱的なステキな女性!
 シンタロウ父さんと恋のはてにむすばれて、シンゴちゃんが生まれたわけですが。じつはシンゴちゃんが生まれるにあたって、医師から告げられ、トラブルがあったのです。
 父さんの幼馴染のオサム医師の父で、小児科の権威(けんい)のサエキさん。父さんへ、衝撃的(しょうげきてき)なことを告(つ)げたンですよ。父さんと母さんのあいだに生まれてくるシンゴちゃんについて、二人がよく話しあってほしいというコトでした。話しあうコトは、シンゴちゃんはダウン症で生まれる確率(かくりつ)が高く、それもかなり重症。
 父さんの幼馴染の医師オサムさんは、その事実を口にできません。父親のサエキさんが、役目をかって出たというわけです。
 父さんも母さんも、ダウン症の要因(よういん)もっていて、生まれてくる子供は、かなしい運命を背負って生きなければならない可能性があります。
 父さん母さんには、晴天(せいてん)の霹靂(へきれき)!
 父さんは冷静に母さんを説得します。母さんが情熱のまま、あるいは激情(げきじょう)にまかせて、障害のある子供を産めば、どういうことになるのか!
 ハッキリとわかります!
 世間では「生まれてくる命を、親のツゴウでとってしまうのは罪悪!」と決めつける、無責任な人も多いんですよ。生まれてきた子供に全責任を持つ親の心を、もてあそぶ、宗教家!慈善家!教育家!そのほかの、自称(じしょう)、親切な人々!
 あの人たちは、カッテなことをいいます。残念なことに、その人たちの言い分は、もっともな話しとして聞こえるんですからねぇ。
 でも、でも、でも、
 障害を持って生まれてきた子供の、メンドウを見る親にとっては、口ではいえない、大変なコトなのです。正義を気取る人たちは、じぶんが代わってメンドウを見てやるとはいいませんし、援助(えんじょ)をもうし出る人もほとんどいないといいます。じぶんが、じっさいにかかわらないので、気楽でもっともなことが言えるんですよ。
 じつは障害児をかかえて暮らすのには、フツウの人の数倍の努力と数倍の費用がかかります。なかでも、人の目を気にする「心労(しんろう)」というダメージを、社会は両親に与えてしまいます。心労というダメージは、両親をときには凶暴(きょうぼう)にさせ、わが子に暴力をふるってしまうことも。
 シンゴちゃんの母さんは、ケッキョク、まわりのフンイキやじぶんの激情(げきじょう)にかられて、生むことをきめたわけです。フダンはとても冷静な父さんでも、母さんの「子供を産みたい!」という母性本能をムシすることはできませんでした。
 生まれてきたシンゴちゃんを見て、心ない人は、
 「あれだけお医者さんが勧(すす)めたのに、アサちゃん(シンゴちゃんの母さん)は、かわいそうな子供を産んでしまった」と陰口(かげぐち)をたたいたといいます。陰口はシンゴちゃんをもうけた母さんの心を傷めつけ、不安と苦しみの世界へ追い詰(つ)めます。
 シンゴちゃんは、生まれつき消化器官がよわく、すぐにゲリをします。消化器官がよわいということは、発育不全(はついくふぜん)を引きおこし、二歳になり、もうすぐに三歳がせまっているのに、歩くことも不自由。知能の発達もおくれギミで、幼馴染のオサムさんの父親サエキ医師がいった通りが現実になってきました。
 母さんは「セッカク、あたしのお腹へ宿った、大切な命!取ってしまうことなど、ゼッタイにイヤ!」と激情にかられて父さんに食ってかかったものです。強い母性本能には、父さんがどんなに冷静に話しても聞く耳はもちませんでした。
 だから父さんにたいして、母さんはコンプレックスを感じます。とても強い責任を感じます!
 でも、でも、でも、
 ある日、何が気に入らないのかシンゴちゃんはムズガリ、どんなにあやしても泣きやみません。おなかが痛いようでもないし、何かがほしいようでもないし、母さんはトホウにくれます。イライラが募(つの)ります。
 とうとう母さんは癇癪(かんしゃく)をおこして、シンゴちゃんのホホをピシャリ!
 そんなに強くはたたいたとは思えないのに、乾(かわ)いた音がしました。
 シンゴちゃんは泣きやみます!
 幼い息子の恐怖(きょうふ)の目が、母さんの頭の中を真っ白にさせました。言葉も話せない、むずがるシンゴちゃんにインパクトを与え、だまらせてしまったんです。
 となりの部屋にいた父さんが、あわてて出てきました。
 母さんはふるえがら、
 「あなた。あ、あたしはシンゴちゃんをそだてる自信がなくなってきたわ。あたしはシンゴちゃんをたたくつもりなど、まったくなかったのよ。あたしは、ムイシキにたたいてしまった。あたしの暴力にシンゴちゃんがだまってしまった。あ、あたしをまるで怪物を見るような目をして、だまってしまったのよ!」
 なおも言いつのろうとする母さんに、父さんもオドオドしながら、
 「と、とにかく。アサコ冷静になろうか。オレもできるだけ手伝うからね」
 
 
 その場はなんとか平静になりましたが、母さんは覚めた目をするようになります。
 わが子をかまうという情熱が、なくなっていった感じに。
 母さんは、じぶんがまた暴力をふるってしまうとオソレたのか、シンゴちゃんの世話を、田舎から出てきたおばあちゃんに、なるべくしてもらいます。母さんの、お母さんの、おばあちゃんは父さんへ密かに、
 「シンタロウさん。あたしの思いちがいかもしれないけど、アサコは育児放棄(いくじほうき)をするかもしれません。アサコを精神科医にちょっと診せてほしいわ」
 父さんは目をむいておばあちゃんを見ます。
 育児放棄!
 動物の世界ではよくあることだといいますが、まさかシンゴちゃんの母さんが?

 父さんは、ある日の金曜日の深夜に、タクシーで海竜寺へ乗りつけます。
 海竜寺の本堂は開いていました。本堂には阿弥陀如来サマの、等身大(とうしんだい)の木像(もくぞう)があります。とても古いものだということで、黒光りが。
 その前にすわり、父さんは少年時代から、トクノリ和尚さんとお話をしたものです。
 父さんには父親がありません。母子家庭だったので、父の代わりのようにトクノリ和尚さんを話し相手にしたのでした。
 トクノリ和尚さんは近所でも人気があり、なやみゴトの相談を気軽にします。和尚さんには、だれとでも気さくに話すシズエ奥さんがいます。小さな寺を切り盛(も)りしている聡明(そうめい)な女性。シンゴちゃんのアサコ母さんとも仲がいいのでした。シンタロウ父さんにとっては、元気のいいおばさんかな。
 
 本堂へ上がったとき、阿弥陀如来サマの前には、まだ護摩(ごま)を焚(た)くケムリがただよっていました。お寺では、何かの催(もよお)し物があったようですねぇ。灯りもついているしケムリはそのナゴリ。
 父さんが今夜、ヘベレケに酔っぱらって、寺へタクシーで乗りつけたのは、会社でイヤなことがあったから。辞(や)めたいと相談にきたンですよ。
 これで父さんの「会社を辞めたい!」の相談は何度目かなぁ!

 トクノリ和尚さんの心のカウンセリングは独特!
 まず阿弥陀如来サマの前にすわり、あいてへ背を向けて話しを、だまって聞くだけ。ときどき合いの手を入れたり相槌(あいづち)はうちますが。
 深夜なのにトクノリ和尚さんはおきてきて、シンタロウ父さんの話し相手になります。
 和尚さんは酒好きで、一杯飲みながら(いいのかなぁ、仏さまの前で酒を飲んで!)本堂の阿弥陀如来サマの前に座ります。
 シンタロウ父さんは、和尚さんの背中へメンメンと話しかけはじめました。和尚さんの顔が見えないので、父さんは、まったくいい気な感じで、
 「オッショさん。オレは、思わず会社の同僚(どうりょう)をぶん殴(なぐ)ってしまうところだったんだ。アイツが飲み会で『シンゴちゃんみたいな子供を持って、タイヘンだなぁ。何しろ幸(さち)うすき息子なんだから!』といったんだ。シンゴみたいな幸うすき子、とはどういうことだ、とオレはスゴク腹が立ってね」
 「ホホーッ。どうスゴク腹がたったんじゃ?」
 「そ、それは、シンゴみたいなというタトエがさ。シンゴみたいな息子を、オレは望んだわけじゃない・・・・親の手がなければ生きていかれないシンゴは、世間の人から見れば、カワイソウな子かもしれない。
 でもねオッショさん。シンゴは幸薄(さちうす)い子供ではないんだよ。
 考えようによっては、ふつうの家庭の子の、何十倍もの質の濃い愛情を受けている、幸多(さちおお)き子供なんだ。アサコがなりふりかまわず、シンゴの世話をしていて、オレはそう思うんだ。
 ----だれにも、というか夫のオレにも反対されて生んでしまったシンゴに、アサコは引け目を感じているかもしれない。そのためなのか、盲目的(もうもくてき)に愛するシンゴの、むずがりに、怒りをバクハツさせてホホをパシーン!
 オレはあのとき、そばにいたから知っているけど、アサコの一生懸命さがコワレナイか、と思った。アサコのお母さんが、それからのアサコの変化ぶりを見て『育児放棄をするかも・・・・・』と心配したけどねぇ。
 でも、心配はいらなかった。
 アサコは冷静に距離をおいて、客観的にシンゴを見ようとしたんだ。
 オレも、なるべくならシンゴの世話をしている。なるべくならというのは、つまり男のオレは、ズルイところがあって、家の外では自由な空気を吸っているから。本当をいうと、一日中、シンゴにべったりの時間はつかれる。会社での仕事は、いわばオレの息抜きの時間。アサコにはすまないと思っているけどね」
 「・・・で、タロちゃんは、そのブレイな同僚をどうしたの?」とトクノリ、オッショさんが聞くと、
 「それがねぇ、良くしたもので、同じく障害児の子供を持つ課長補佐のケイコさんが、目を吊り上げて怒ったんだよ。いつも物静かなケイコさんが、オレの同僚をシカリつけた顔。オッショさんに見せたかったなぁ。で、おかげでオレは同僚をぶん殴らずにすんだ。アイツ、日ごろからライバル意識(いしき)が強く、口が軽いヤツで、いつかはぶん殴ってやろう、と思っていた。
 でも、いいチャンスだから、このトラブルで仕事をやめてやろうと思ってね、相談のためにここへ来てみたんだ」
 「・・・・・・タロちゃん。ひとつ聞きたいんだが、シンゴみたいな子供を、オレは望んだわけじゃない、とはどういうことなの?」
 「アレッ、オレはそんなことをいったかなぁ?」
 「コレ、コレッ、タロちゃん。ワシの前に鎮座(ちんざ)ますのは、霊験(れいげん)あらたかな阿弥陀如来サマ!ウソはいかんぞウソは!」
 「そ、そうだ阿弥陀如来サマの前だった。『オレが望んだわけではなかった』、とはオレのマズイ逃げ口上(こうじょう)。アノー、家のアサコにはナイショにしておいてくださいよ。これでもオレは反省しているんだからー」
 「うん。うん。阿弥陀サマはトクベツに、アサコさんにはナイショにしておくそうだ。で、ここへわざわざタクシーで乗りつけ相談したかった、仕事をやめるという話は?」
 「アレー、オレはそんなことも言ったかなぁ。生活が懸(か)かっているし、オッショさんに胸の内を打ち明けたから、仕事をやめる話はなかったことにしてよ。阿弥陀サマの前だけど、オレのくだらない独り言だとおもってね」
 「ホホーッ。じゃあ仕事はこれからもつづけるのかね?」
 「モチロン。モチロン。何しろシンゴがいるからね。アイツの人生は短い。アイツの人生に、オレは親として最後まで関わりたい。アサコほど濃い愛情はそそげなくても、オレはシンゴの父親だからね」
 オッショさんは、首に巻いたタオルで、しきりに顔をぬぐっていましたねぇ。
 シンタロウ父さんは、オッショさんの背中へ言うだけいうとふかいため息をもらし、
 「オッショさん。ありがとうね、ずいぶん気が晴れたよ。オレはこれから帰るから」
 「ちょっとまちなさい。アサちゃんに車で迎えにきてもらうから」
 「エーーッ!いいよ、いいよ。もう真夜中だし眠っている時間だから」
 あわてていうシンタロウ父さんの耳に、トクノリ、オショさんの奥さんシズエさんが、
 「アラッ、シンタロウさん。あたしがアサコさんをもう呼んであるのよ。寒い夜道を歩くのはあぶないからね。うしろを見てチョウダイ!」
 シンタロウ父さんは、ギョッとして本堂の入り口をふりかえります。
 本堂の上がり框(がまち)の板の間に、アサコ母さんが、ひっそりと座っていました。
 「ア、アサコ!ここへ来ていたの、オレはぜんぜん知らなかった!!」
 シンタロウ父さんは、それからオソルオソル、
 「アノー、オレがオッショさんへ話していたことをもしかして聞いたの?」
 アサコ母さんは、ニコニコとして、
 「ゼンゼン!」
 でも、アサコ母さんが手にしたハンカチは涙で濡れていましたよ。
 シンタロウ父さんは、帰ろうとして立ち上がります。でも、長いあいだ正座(せいざ)していたために、シビレが来ていて思わずヨロヨロ、ドシーン!
 アサコ母さんがそばへきて助けおこしましたが、お母さんも板の間に長いあいだ、正座していたのでシビレが来ています。シンタロウ父さんは、母さんの助けでおきあがり、歩きはじめましたが、ふたたびヨロヨロ!
 父さんと母さんは、もつれ合って歩きながら、阿弥陀サマの見ている前でまたドッシーン!
 父さんに引きづられるように馬乗りのような形で、母さんも倒れます。
 オッショさんがゲラゲラ笑いながら、
 「そこの二人。夫婦とは転ぶときもイッショだということを、霊験あらたかな阿弥陀如来サマが教えてくださった。忘れないことですぞ」
 父さんも、母さんもペコペコと頭を下げ、本堂からでて駐車場へ。見送りながらトクノリ、オッショさんはタオルで涙をふき、
 「ヤレヤレ。謹厳実直(きんげんじっちょく)な和尚のワシを泣かせる。タロちゃんにも、アサちゃんにも阿弥陀如来サマの、いっぱいの功徳(くどく)がありますように」
 オッショさんが手の数珠をもんで念じると、そばにきていた奥さんのシズエさんが、
 「謹厳実直の坊主が聞いてアキレルわー。阿弥陀サマの前でお酒を飲んでもいいの、罰(ばち)が当たるわよ」
 「いいんだ。現代のオッショさんはね。それにこれは酒ではない。般若湯(はんにゃとう)といわれる、ありがたいお水だ!」
 
 ところで、なやみ多き両親のもとで、曲がりなりにも成長するシンゴちゃんから、そこのあなた、その向こうのあなた、自分には関係ないとソッポを向いているあなた!
 「ボクはどうしたらいいの。ボクは、やはり生まれてはいけなかったのかなぁ?」
 かわいい質問があります。答えてやってくれませんか? 


 百の家庭には、百の家族の葛藤(かっとう)があります。極楽浄土にすむ阿弥陀如来サマでも、治めるのには大変でしょうねぇ。

 光
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大人のメルヘン、子供の情景「サナエお姉ちゃん」      光

2013/01/13 08:09
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 サナエちゃん小3。ミドリちゃん、小1。
 二人とも神ノ森小学校へかよっています。小学校は神ノ森神社のちかくにあり、神社の奥には黒々とした森があります。森にはシカやイノシシ、タヌキ、それからキジやヤマドリなどなどがいるそうです。猟友会(りょうゆうかい)のおじさんたちが、ツキノワグマがいると話していました。
 神ノ森へ子供たちだけでは、ぜったいに入ってはダメと大人たちから厳重(げんじゅう)に注意されていますよ。
 神ノ森の奥には、かなり広い盆地があり、チョウチョやセミやトンボ、などが獲(と)れる林や猿ヶ池という小さな池がありました。おばあちゃんの子供のときは、みんなであそんだそうです。いまでは林の木が大きく育ってしまって、森になっているんですねぇ。
 ムカシは林の木を切り出してマキにしたり、炭にしたりして、いつも若々しい里山でした。人々は里山の手入れをやめ、山へ登らなくなります。動物たちだけが行きかう森になってしまったと、おばあちゃんがサナエちゃん、ミドリちゃんへ嘆(なげ)いたことが。
 このごろ神ノ森は整備(せいび)され、遊歩道もつくられて、かなり奥まで登られます。
 冬には雪がふると、道に迷う人がでてくるので、要注意の山なんですよ!
 今年は、早くから雪がふりました。
 でも、遊歩道があるので人々は、気軽に山へ入っていけるんですねぇ。
 山から切り出した堅(かた)い木で作ったという、木琴(もっきん)をサナエお姉ちゃんは、おばあちゃんから贈(おく)られました。
 サナエちゃんは音楽がスキで、おばあちゃんからもらった木琴をじょうずに弾(ひ)きます。本当にじょうずに弾(ひ)くんですよ。おばあちゃんも弾いていたとかで、ダイジにされていた木琴は黒光りがしているのでした。
 ミドリちゃんも音楽がすきですが、木琴はきらいです。
 琴(こと)がすきなようですよ。ハープのような竪琴(たてごと)。とても高価なので父さんはあきらめ、安い、子供のミドリちゃんでも弾けるアルパという、南米の竪琴を買ってきました。最初だけ熱心(ねっしん)に弾きましたが、ミドリちゃんはあきてしまいます。
 このごろでは、もう弾きません。
 サナエお姉ちゃんのように、じょうずに弾けないので、アルパはきらいになりました。
 
 サナエお姉ちゃんは、じつはおばあちゃんとおなじ名前。
 お父さんがおばあちゃんの名前をもらってつけました。
 サナエおばあちゃんは、去年、亡くなりました。とてもサナエお姉ちゃんをかわいがっていましたねぇ。フシギなことに、サナエおばあちゃんと、サナエお姉ちゃんは性格がにています。そっくりだ、と亡くなったおじいちゃんも言っていたほど。
 サナエお姉ちゃんは、どちらかといえばオットリとした女の子。ミドリちゃんは、だれに似たのか、とても活発な女の子。サナエお姉ちゃんとちがって性格は飽(あ)きっぽく、短気で、強引(ごういん)なところもあります。
 これは父さんにそっくり、と母さんが。
 サナエお姉ちゃんが、おばあちゃんに似たのは、隔世遺伝(かくせいいでん)だと父さんがいいます。でも、顔立ちは父さんに似ていて、大人になったら美人になる、とサナエおばあちゃんが。
 そのおばあちゃんは、カゼが原因の肺炎でアッというまに亡くなりました。トツゼンのサナエおばあちゃんの死に、父さんは半(なか)ばパニック!
 おばあちゃんを、とても愛していたんですねぇ。
 おばあちゃんは、神ノ森の奥にある小さな猿ヶ池に、めずらしいトンボが棲(す)むと、よくよくサナエちゃんやミドリちゃんに話していました。池のまわりだけは、フシギに大きな木が茂(しげ)らず、ムカシの里山の姿をのこしたまま。
 だれかが、冬でも凍らない温かい池で、魚や昆虫がいっぱいいる、と話していました。猟友会のおじさんたちだと思いますよ。池までは遊歩道がついていて、町からよくよく人々がウォーキングしていました。

 冬になって寒いのに、どこからか赤い尾をした小さなトンボが、サナエちゃんたちの家のリビングに迷いこんできました。すぐに死んでしまいましたが、父さんは、
 「きっと、冬でも暖かい猿ヶ池に、トンボはいたんだ。風に乗って家へ飛んできたんだと父さんは思う」
 赤い尾をした小さなトンボ。どこから来たのかはナゾです。猿ヶ池から飛んできたのなら、行ってみれば、イッパイいるのかもしれない、とミドリちゃんは思いました。
 行ってみたい!
 ミドリちゃんは、じぶんの希望をすぐに行動にうつしてしまう、活発な少女。反対に落ち着いていて、少しノロマにも見えるサナエおねえちゃん。ミドリちゃんが、猿ヶ池へ行こう、とさそっても、
 「ダメッ、先生やおばあちゃんに、子供だけで行くのはゼッタイにダメって、注意されているじゃない!」
 ニベモなくことわられて、ミドリちゃんは少し怒っていますよ。
 「おねえちゃん何を言ってもダメ、ダメ、ダメ!つまんないお姉ちゃん!」

 そのお姉ちゃんが、猿ヶ池へ行ってみようといいだします。
 同級生の男の子が、猿ヶ池へ行くから、とさそってくれました。サナエお姉ちゃんは、男の子のカッコウいい大学生のお兄さんへ、少女の恋心をよせているみたい。オットリした小3のお姉ちゃん、マセているのかなぁ。
 男の子のカッコウいいお兄さんが、リーダーで猿ヶ池へ行くので、サナエお姉ちゃんは、ゼッタイにダイジョウブだと思っています。まあ、猿ヶ池までは遊歩道が整備されていてそんなに遠くはなく、昼間なら大勢の人が歩いていますから、心配はいりません。ただ、猿ヶ池からさらにつづく深い森は、危険があるので子供たちは立ち入り禁止です。
 いよいよ猿ヶ池へ行く当日。
 男の子から電話があり、お兄さんがツゴウがあって少しおくれるから、ソロソロと先に行ってと知らせがありました。
 サナエお姉ちゃんは寒がりなので、厚いジャケットの下に、何枚もの毛糸を着こみ、背中のリュックには使い捨てカイロを入れています。カイロは母さんが用意してくれました。今日はもしかしたら昼から雪かもしれない、と天気予報が出ています。父さんが、
 「もしリーダーが来なかったり雪が降ってきたりしたら、帰っておいで。歩いている人が少なくなってきたら、そこから帰ってくること。クマが出るからなー!」
 父さんのジョウダンに、サナエお姉ちゃんは顔を青ざめます。お姉ちゃん、クマがスキではないんですよ。小さなタンバリンをリュックへ入れます。クマは大きな音を出せば逃げていく、とテレビで見ましたから用心のためのクマよけ!
 「ミドリちゃん。あんたもタンバリンを持っていきなさいよ、もしクマに出遭(であ)ったら役にたつのよ」
 ヒソヒソ声で妹の耳にササヤキます。ミドリちゃんは父さんに見えないように、じぶんのリュックへ小さなタンバリンを入れました。それから母さんが作ったお弁当と、二個のオニギリ!
 マアマア!家からもちかい猿ヶ池へ行くのに、なんと大げさなコトでしょう。

 サナエちゃん、ミドリちゃんは、リーダーが来ないままに猿ヶ池へ歩きます。遊歩道には人が多く、お年寄りがたくさん歩いていました。その人たちに交じって、二人は軽快に歩きます。何人もの人を追いこし、途中でペットボトルのお茶を飲みます。でも、リーダーたちの姿は見えません。まだこないのかしら!?
 ミドリちゃんは、
 「お姉ちゃん。このまま猿ヶ池へ行っちゃおうか。あたし、家へ迷いこんできた赤いシッポのトンボが、猿ヶ池にいるのを見たい!」
 「こんな冬の季節に、トンボが猿ヶ池にいるわけがないじゃない。父さんのジョウダンよ」
 「じゃあ、赤いトンボはどこからきたのよ?」
 「それは謎(なぞ)だわね。だれかが飼っていたトンボが、逃げだしてきたンじゃないかしら」
 「あ、あたしは、あのトンボは猿ヶ池から飛んで来たと思うなぁ。猿ヶ池では赤トンボがウジャウジャと飛んでいるかもよ。冬でも暖かい池なんだから」
 「・・・・そうねえ、じゃあ、行ってみましょうか。あのお兄さん、来ないみたいだし、セッカクここまできたんだから」
 「・・・お姉ちゃん。同級生の男の子のお兄さん、カッコウいいの?」
 「カッコウいいわよ。でも、なんで聞くの?」
 「ベ、ベツニー」とミドリちゃんはイタズラそうな顔でクスクス!
 
 猿ヶ池が近くなっきました。
 大勢のお年寄りたちが道いっぱいに歩いています。軽快に歩くサナエちゃん、ミドリちゃんには少しジャマ!
 ここから猿ヶ池への遊歩道は、大きく右へカーブして、その先で今度は左へ曲がっています。平坦(へいたん)な地形をえらんで作られているので、そうなっているんですねぇ。サナエちゃんは近道をしようかと考えました。枝道へ入ると、猿ヶ池へはすぐ。ミドリちゃんが、
 「この前、父さんといっしょの時に、このあたりから近道へ入っていったじゃない。あの時も人が多くて、追いこしにくいので、入っていったわ」
 「で、でも、迷いやすいから、通ってはダメって父さんが」
 でもでもでも、
 ミドリちゃんがあまり言いツノルので、とうとうサナエちゃんは負けて近道へ。

 この近道が迷いやすいのは、緩(ゆる)やかにジグザグがつづいているから。登る当人は前しか見ていないので、道がジグザグなのを感じにくくなっています。まぎらわしいケモノ道が、いくつも交差していて、子供には見分けがつきません。
 ダンダンと遊歩道を歩く人々の声が小さくなり、ついには聞こえなくなりました。
 「お姉ちゃん。まだつかないわねぇ。父さんがいっしょのときはすぐについたのにぃ」
 ミドリちゃんは泣き顔。大きな木が生えているので、見通しが悪くなっています。
 サナエちゃんも不安になります。
 二人は猿ヶ池ではなく、猿ヶ池の奥に広がる深い森へ迷いこンだようです。
 道らしきものは、上へ上へとつづていています。
 それからは、二人はパニック!
 あっちだ、こっちだとケンカをしながら歩きます。ますます森の深い場所へ。
 二人とも疲れはてて、巨大な樹に小さな洞(ほら)があいている場所で座りこみます。樹の洞は、二人が入りこめるぐらいのスペースがありました。樹の後ろには苔(こけ)むしたガケが、岩肌をむき出してせまっています。一方、樹の洞の前はなだらかな下りで、笹(ささ)がまるで学校のグランドのように広く生えています。笹の向こうは沢になっていて、水音が聞こえていました。沢の向こうには、黒々とした森が。
 二人は、どちらへ行っていいのか、まったく見当がつきません。ミドリちゃんが泣きながら、
 「お姉ちゃん。とんでもないところへ来ちゃったねぇ。どうしよう?」
 「ここで助けにきてくれる人を待つのよ。もう暗くなってきたし、歩きまわれば谷や穴へ落ちて、ケガをするしね。ここまで来るのに崖や、穴や小さな谷があったじゃない」
 「クマが来ないかしら?」と不安げなミドリちゃん。
 「めったにこないそうよ。猟友会のおじさんたちは、もういないだろう、ていっていたしね」
 「でも、いるかもしれないわ。あたしはタンバリンを用意しておこう。クマが来たらワーッてさけんで、タンバリンをたたくのよ」
 サナエお姉ちゃんは、やっと笑いました。

 あたりがマスマス暗くなり不安なので、二人は樹の洞へ入り、体を寄せあって、目の前に広がる笹を見ています。二人はそれぞれにリュックから、オニギリを取り出して食べました。
 ダンダンと夜が更(ふ)けてくると、あたりが真っ暗!
 でも、フシギなコトに、目が慣(な)れてくるとあたりが影絵のように見えるンですねぇ。それに樹の洞の中なので、森の風が二人には当たりません。でも吹いてくる風の音が、ビュービューととてもブキミ!
 オバケが出てきてもフシギではない、そんな夜の森の光景!

 二人ともいつの間にか眠ってしまいます。
 真夜中にサナエお姉ちゃんが目覚めます。寒くって目が覚めたンですねぇ。
 森には煌々(こうこう)と光るお月さまが出ていました。
 ビックリしたのは、目の前の笹のグランドが雪で真っ白!
 二人が眠っているあいだに、雪がふったのでした。大雪ですよ!
 お月さまの光は、意外に強く、沢のむこうの森も黒々として見えています。ミドリちゃんも目が覚めて、
 「お姉ちゃん。雪がふったのねぇゼンゼン気がつかなかったわぁ」
 「寒くない?」 
 「寒いわぁ。足が冷たくって感じがないみたい!」
 サナエお姉ちゃんは、じぶんのリュックの中をゴソゴソとさがしていましたが、母さんが入れてくれた使い捨てカイロの袋を引っぱりだします。袋には五個のカイロが入っていました。
 サナエお姉ちゃんは、まずミドリちゃんのクツの中に、一つずつカイロを入れます。それからミドリちゃんの背中、お腹、最後の一つはお尻の下へ。それでカイロはなくなってしまいました。ミドリちゃんが、
 「お姉ちゃんのカイロは?」
 張りたくても、じぶんのは、もうありません。
 サナエお姉ちゃんはヤセがまんをして、寒くないのでいらない、といいます。
 二人とも無言で、深夜の森の雪景色を眺めていました。風がありません。ときどき樹の梢(こずえ)から積もった雪が落ちてきて、バサッ、バササ、バササと音がします。なんだかキミが悪いですねぇ。
 ふいに、
 沢の方向から、二、三頭のシカのような大きな動物の黒い姿が滲(にじ)み出ます。サナエお姉ちゃんはふるえます。森の中のシカは獰猛(どうもう)、と先生が話していましたから。リュックからタンバリンを取りだし小声で、
 「ミドリちゃん。あんたもタンバリンをかまえて。あたしがさけびながらタンバリンをたたくから、いっしょにね。一番大きな声でワーッ、こっちへ来るなー、とさけぶのよ」
 サナエお姉ちゃんは、はげしくタンバリンをたたきながら、
 「ワーッ、こっちへ来るなー!」
 ミドリちゃんも金切り声で、
 「ワーッ、こっちへ来るなー!」
 トツゼンの二人の少女のサケビ声。はげしいタンバリンの打音(だおん)に、二、三頭のシカはおどろいて飛び上がり、沢へ向かって転がるように逃げていきます。
 次に沢のほうからあらわれたのは、二匹の犬のような動物。タヌキだと思います。二人は同じように、さわがしく音を立ててタヌキを追っぱらいました。タヌキは「キャン、キャン、キャーン」と犬がほえるような鳴き声で、逃げていきました。
 眠気がさしてきたころに、こんどは、
 「ブオン、ブオン、ウーウー」というブキミないくつものウナリ声が、沢のほうから上がってきて、五、六頭の大型の動物があらわれます。イノシシのようです。おそらく沢の水を飲んで、それから笹のグランドまできた感じ。
 姉妹は、もうだいぶん慣(な)れていたので、前よりもはげしく大きなさけび声で、イノシシの群(む)れを撃退(げきたい)しました。
 「お姉ちゃん。クマがあらわれても、追っぱらえるわね」とミドリちゃん。
 「そ、そうね、追っぱらえるとおもうわ」とサナエお姉ちゃんは自信がなさそう。クマは比べ物にならないぐらい巨大な動物。あらわれないでほしい、と心の中で祈ります。
 ミドリちゃんがトツゼン、ガチガチと歯を鳴らしてふるえながら、
 「お姉ちゃん。寒くなってきたわねぇ。早くだれか助けに来てくれないかしら?」 
 サナエお姉ちゃんは、妹の頭を撫でて、じぶんの分厚いジャケットを脱ぎます。ミドリちゃんは寒くてふるえているのか、こわくてふるえているのか?
 サナエお姉ちゃんは、じぶんのジャケットで妹を包むと、
 「ミドリちゃん。もう少しガマンをしましょうか。父さんがかならず助けに来てくれるからね」

 二人は朝早く、捜索隊(そうさくたい)の人々に助けられました。
 捜索隊に交じっていた父さんが、目にした光景は!
 サナエお姉ちゃんが、じぶんのジャケットまで脱いで、妹を包み、しっかりと抱きながら眠っている姿でした。毛糸をヨケイに着こんでいたとはいえ、じぶんのジャケットまで脱いで妹を守っていたとは!
 さすが、お姉ちゃんですねぇ。
 父さんは、思わず涙、涙、涙!
 サナエお姉ちゃんは、二、三日、病院へ。
 低体温になり、スイジャクしていましたから。ミドリちゃんは、何事もなく家へ帰られました。でも、母さんからはお目玉です。
 二人とも、とくにサナエお姉ちゃんは、発見がおくれていたら大変なコトになっていたでしょう。
 でも、神ノ森の神様は、二人の仲のよい姉妹の命を守りました。


 サナエお姉ちゃん。おばあちゃんがお手本だと思いますか?
 ちがいますよ。大洪水で、家族が危機に瀕(ひん)した時に父さんが取った行動。父さんは、身をすてるようにして家族を守ったンですねぇ。サナエお姉ちゃんは、父さんの背中を見ていたわけです。子供は、身近な両親の背中をしっかりとみています。それが悪いことでも。    光
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大人のメルヘン、子供の情景「はだしのケンちゃん」   光

2013/01/05 10:07
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 ケンタローちゃんは、母さんのお兄さんで市会議員のアツトおじさんの家族といっしょに住んでいます。
 ケンちゃんの家族は、弟のヒロシ、父さん母さんと共に、自動車ジコにまきこまれなくなってしまいます。対向車線を走ってきたトラックと、父さんが運転する車が正面衝突!
 ケンタローちゃんだけをのこして、家族は亡くなってしまいます。ケンちゃんは不幸中の幸いで、軽いけがで命は助かりました。
 相手のトラックの運転手はかすり傷だけ。
 ジコはトラック運転手の居眠りが原因!
 運転手はさかんに言いわけをしていました。トラック運転手は、イマまでにいくども小さなジコを引きおこしていましたが、うまく言いのがれていたんです。今度ばかりは目撃者がいたし、車内装備のカメラがトラック運転手のウソを見やぶりました。
 トラック運転手によって、すべての家族をうばわれてしまったケンちゃん!
 ---ボクの父さん母さん、弟のヒロシちゃんが死んじゃった。「ケンちゃんただいま!」とみんなの声が聞こえそうで、夜になると耳を澄ますんだ。でも、いつのまにか眠って、朝になると聞こえるのは、ボクをおこしにきたアサコおばさんの声だけ・・・・
 アツトおじさんの奥さん、アサコさんは、どことなく冷たくてよそよそしい。ケンちゃんとは一メートルも二メートルもはなれて話す、壁がある感じ。
 でも、でも、でも・・・・・
 フシギなことに、アサコおばさんは、亡くなった母さんによく似たフンイキがありました。顔も体つきもちがうのに、アサコおばさんには、子供ずきなフンイキがあるんですねぇ。ケンちゃんは、とまどいながら、アサコおばさんと接(せっ)しています。心の底からアサコおばさんを、きらっているわけではありません。密かに、
 ---母さん、とよんでもいいかなぁ。でも、やはり亡くなった母さんとはちがうし・・・どこがちがうんだろう?声がちがうかなぁ、背も高いし、柔道もやるそうだし---
 小学一年生のケンちゃんは、まだまだ幼稚園から、やっとランドセルを担(かつ)ぐまでに成長した幼い子供!
 くらべて、アサコおばさんの二人の息子は、体格のいい高校生。ケンちゃんとでは、スゴイちがいがあります。
 むかしむかし、アサコおばさんは、二人の幼かった息子を育てたおぼえが。思い出しながら、おっかなびっくりで、ケンちゃんに接していました。
 なぜ、おっかなびっくりかって?
 理由があります。
 アサコおばさんの親しい友だちの女性が、娘さんをギャクタイして死なせてしまいました。ケンちゃんぐらいの年ごろの娘さん。くわしく言えば、ある事情であづかった、ヨソの娘さん。本当の娘ではないので、ギャクタイをつづけたといわれています。
 アサコおばさんは、ギャクタイに走ってしまわないか、とじぶんがコワイんです!

 両親のいなくなったケンちゃんを引き取ったのは、夫のアツトさん。アツトおじさんは市会議員。世間に、亡くなった妹の子を引き取って暮らしている、良いシーンを見せるためなんです。次の選挙がありますからねぇ。選挙のために、見せておく必要があるんです。
 でもケンちゃんに多くかかわるのは、アサコおばさん。二人の息子たちは、ずいぶん歳がはなれているので、ケンちゃんには小さな弟というより、まるでネコかイヌをかわいがるような接(せっ)し方。とまどいもかくせないんですよ。
 ケンちゃんはジコの後遺症(こういしょう)なのか、少し動作の鈍(にぶ)いところが、ときどきでてきます。強情なところもあります。意外にもよく笑います。屈託(くったく)のない少年の笑いを、よくアサコおばさんに見せます。もちろんアサコさんの二人の息子たちにも。アツトおじさんにも。
 アサコおばさんは、ケンちゃんにヨクヨクお小遣(おこづか)いをあげます。
 どうするかと見ていると、引き出しにしまって使おうとしません。小学一年生の年ゴロでは、興味(きょうみ)にかられて、身近な町のショッピングへ出かけるもの。ケンちゃんはお金は持っていくのに、使おうとしないんですねぇ。お金に興味がないのかな。
 アサコおばさんは、お金についてとても厳(きび)しい感情を持っています。
 アサコおばさんは、夫のアツトおじさんが議員になるまでは、とてもお金で苦労しました。生きていくためには、ぜったいにヒツヨウなお金。でも、カンタンには得(え)ることができません。お金がない苦しさを、アサコおばさんはイヤというほどケイケンしました。二人の息子たちにも、お金のありがたさ、カンタンには得ることのできないむずかしさを、キビシク教えこんであります。
 なぜケンちゃんは、お金にあまり関心を見せないんでしょう?
 まあ、お金がたらないほどの不自由な生活は、いまのケンちゃんにはさせていません。それでも、お金を使う少年のキョウミはあるはず。ないのはなぜなんでしょう?
 ケンちゃんの心へ入っていくのには、フダンの壁があるような接し方ではダメなことはわかっています。
 コワイんですねぇ、じぶんがギャクタイをしてしまうのが!
 身近(みぢか)でギャクタイの事実を見ているだけに、ケンちゃんと母と子のような親しい感情にもっていけないじぶん。ケンちゃんは、ときどき幼い男の子、特有の顔を見せます。
 ---アラッ、この子はあたしがキライではないんだ!---
ケンちゃんの笑顔を見て、何かしらホッとするアサコおばさんでした。
 
 ケンちゃんが、お金にキョウミをしめさないのは、じつはねえ、亡くなった両親にゲンインがあるんですよ。
 両親は家を買ったことで、大きな借金をかかえていました。お金のことで、子供たちの前でも、はげしいケンカをくり広げたもの。ケンちゃんはケンカにまきこまれて、ケガをしたことがあります。お金をめぐってケンカをする両親が、キミの悪いモンスターに見えたもの。
 車のジコの当日も、両親は朝か口ゲンカの応酬(おうしゅう)!
 ケンちゃんはお金のやり取りに、トラウマ。トラウマのために、お金にキョウミがない裏がえしのタイドをとっているんですねぇ。でも、大人たちのだれ一人も気がついていませんでした!

 クリスマスもすぎて、町は正月のフンイキに満ちています。巷(ちまた)を歩く人々は、何だかウキウキ!
 アサコおばさんは、ケンちゃんが引き出しにしまっておいたお金を、数えているのをチラッと見ました。お正月に何かを買おうとしているようです。二人の高校生の息子たちと、ケンちゃんは町の大きなデパートで買うものを相談しているようでした。アサコおばさんは、ケンちゃんが何を買いたいのか気になります。子供たちのほしいものは、ゲーム機や最新のオモチャでしょう。大人に近い高校生の息子たちでも、買いたいものを聞いてみると、小さな子供たちと大差ないゲーム機でした。
 ある日曜日の昼近く。家族みんなで都心のデパートへ行くことに。
 アサコおばさんは、ケンちゃんの部屋でお小遣いをわたそうとします。ケンちゃんは、お金をなんだかもらいたくなさそう。ケンちゃんは何かを買おうとして、大きな息子たちに相談していました。少し手助けのつもりで、いつもより多めにお小遣いをはずみ、
 「お年玉よ。お金は大事だからね、ムダづかいはダメよ!」
 「・・・・ボク、いらない!ボク、お金なら持っている、だからいらない!」
 「そういわないで、お正月なんだから、何かとお金はいるのよ」
 アサコおばさんがケンちゃんの手にわたすと、
 「ボ、ボクは、お金などいらないんだ。ボクはお金がきらいなんだ。なくてもゼンゼン構わない!」
 ケンちゃんはとつぜん、はげしい言葉でいうと、手にしたお金を床へタタきつけました。憎々(にくにく)しい顔で、アサコおばさんをにらみつけます。アサコおばさんは、ケンちゃんがお金を床へタタきつけたことで、頭に血がのぼりました。おまけに見たこともない、憎々しげなケンちゃんの顔!
 「何をするのよ、大切なお金をすてたりなんかして!」
 アサコおばさんは、ケンちゃんのホホをピシャリ!
 乾(かわ)いた音でしたが、ケンちゃんはビックリしました。やさしいおばさんと思っていたのに、いきなりケンちゃんはホホをタタかれたんですから。ケンちゃんはおどろきの表情から、泣き顔になり、
 「お、お母さんなんか、大きらいだ。お金のことばかり言うお母さんなんて、大きらいだ!」
 いきなり玄関へ走りだします。玄関のドアをあけて、裸足(はだし)のままとび出し、とめてあった自転車で、どこかへ行ってしまいました。まったくアッというまのデキゴトで、アサコおばさんは頭が真っ白!
 ケンちゃんという両親を亡くした幼い少年を、タタくつもりなど、ゼンゼンなかったのに!
 となりの部屋にいたアツトおじさんが出てきて、
 「ケンぼうをタタいたのか?」
 「ええ・・・・・タタくつもりはなかったんだけど、ついじぶんの子供のつもりで・・・・・」
 「・・・・・じぶんの子供のつもりか・・・・・ケンぼうはタタかれて二回もアサコのことを、お母さん、とよんでいたなぁ。オレたちは気づかなかったけど、ケンぼうは、アサコのことをけっこう、お母さん、と思っていたんだ・・・・」
 「・・・・・!!!!!」
 「・・・・もう、ケンぼうをタタいたりしないことだな」
 アツトおじさんの言葉にアサコおばさんは毅然(きぜん)として、
 「いいえ、ケンちゃんが悪いことをしたときはタタきます。母親としてタタきます。それは・・・死んだケンちゃんの母さんの代わりにはなれない。でも、生きているアサコという女が、ケンちゃんの母親にはなれるんです。ケンちゃんの生きている母親があたしですから」
 
 それからアサコおばさん、アツトおじさん、二人の高校生の息子も、どこかへ行ってしまったケンちゃんをさがしまわります。裸足で自転車にのりましたから、遠くへ行けるはずはありません。
 でも、心当たりをさがしましたが見つかりません。アサコおばさんは心配で顔を青くしてふるえながら、
 「あ、あなた。警察へとどけましょうか?もしものことがケンちゃんに遭(あ)ったら、あたし、どうしていいかわからない!」
 アツトおじさんが警察へ電話をしようとしたときに、桜ヶ丘公園のそばにある桜ヶ丘神社の神主(かんぬし)さんから知らせがありました。ケンちゃんが、神社の社務所の物置小屋で眠っているということです。足の裏にケガをしているようです。
 神主の横田さんはアツトおじさんとも親しいし、何よりもケンちゃんが横田神主さんと仲がよかったのです。ケンちゃんが桜ヶ丘神社へ行くのは、物置小屋の窓から、一本の巨大なセコイアの樹が見られるから。神主さんの先祖がアメリカへ行ったときに、持ち帰った、空へむかってグングン伸びていくスギ科の巨大樹。
 アサコおばさんは、すぐに桜ヶ丘神社へ向かいます。車はアツトおじさんが運転していました。アサコおばさんは応急処置用の薬箱と、厚めのじぶんのジャケットも持ってきていました。
 神社の鳥居のわきにケンちゃんが乗ってきた自転車があり、そばに神主さんの横田さんがいました。横田さんは、
 「家の柴犬のハチがいないのでさがしていたら、物置小屋でケンちゃんと眠っていたんですよ。ハチはケンちゃんとナカヨシでね。ハチのそばに裸足のケンちゃんが眠っていたんで、もう、ビックリ!急いで電話をしたというわけです」
 アサコおばさんは、神主さんへお礼の言葉もソコソコに、神社の社務所の奥にあるプレハブの物置へ急ぎます。ケンちゃんは積(つ)んである、たくさんのマットレスの一つを引き出し、それに丸くなって眠っていました。柴犬のハチが寄りそっています。ハチはアサコおばさんにシッポをふりました。
 ケンちゃんは眠ったまま。
 足の裏は傷だらけで、血が黒くかたまっていました。見るからに痛そう。
 アサコおばさんはケンちゃんの横にすわると、手早く救急箱をあけ、足裏のケガの手当てを。アサコおばさんはスポーツをやるので、ケガの手当ては慣(なれ)ています。ケンちゃんは気がつかないのか、相変わらず眠っています。
 じつは、ケンちゃんは、アサコおばさんが物置へ入ってきたときから気がついていました。眠ったふりをしていたんですよ。
 ケガの手当てが終わったころに、神主さんやアツトおじさんが物置小屋へ入ってきました。アサコおばさんが、ケンちゃんをかるくゆり動かすと、目をあけて、
 「やっぱり、お母さん、きたんだ」
 「来たわよ。神主さんが知らせてくれたのよ」
 「・・・・ボクはお母さんがここへ来ると思っていたんだ。なぜなのか、そう思ったんだ。アノー、お金をすてたりなんかして、ゴメンなさい」
 「ゴメンしてあげる。お金はとても大事なものだということをわすれないでね」
 「うん」
 ケンちゃんは痛そうに立ち上がります。アサコおばさんは持ってきた厚手の自分のジャケットを、ケンちゃんへ着せました。ジャケットは大きくてまるでオーバーみたい!
 アサコおばさんは、ケンちゃんを横抱きにすると、物置をでました。ケンちゃんはとても、歩けるような感じではありませんからね。ケンちゃんはあわてて、
 「い、いいよ、いいよ、ボクは歩けるから」
 「あたしに任(まか)せておきなさい、ケンちゃんはまだ 小学一年生。あたしにとっては、軽いもんだわ」
 アサコおばさんに抱えられて、石畳(いしだたみ)の参道まで来ました。そこまで来ると立ち止まり、いっしょに来たアツトおじさんへ、
 「あなた、あたしのクツを持ってきてちょうだい!」
 アサコおばさんはクツシタだけで、石畳の参道をゆっくりと歩きます。
 「アノーお母さん。ケガをするよ裸足では・・・」とケンちゃん。
 「あたしは、ケンちゃんがこの石畳の参道を、裸足で走ってきたのを感じてみたいの」
 「でも、ボクは何も感じなかった。痛くも何も。物置小屋へ入ってマットに寝たら、それから痛くなって。それから寒くって、眠くなったんだ」
 アツトおじさんは目を丸くし、クツシタだけでケンちゃんを抱えて歩くアサコおばさんを見ています。アサコおばさんは、ニコニコと笑いながらケンちゃんと話しています。
 アツトおじさんには、アサコおばさんの気持ちがわかりません。
 まあ、男のアツトおじさんにはわからないでしょうねぇ。アサコおばさんの、母親の気持ち。子供が痛さも忘れて走った石畳の道。子供の気持ちを肌で感じようとする、アサコおばさんの心!
 ああ、まちがいました!
 ケンちゃんの、生きているお母さんの心です。
 アサコおばさんではありません。アサコお母さんですから念のために!


 皆様、新年あけましておめでとうございます。
 今年も相変わりませぬよう、お付き合いください。合わせて、皆様の更なる御繁栄、更なる御健勝を望みます。

 光
 

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大人のメルヘン、子供の情景「おばあちゃん、メリークリスマス!」     光

2012/12/10 19:00
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 ハジメちゃんのおじさんハヤトさんは、父さんの弟、つまりおじさん。お仕事は歌手!
 町でライブをときどきひらき、ポピュラーミュージックがトクイで、とにかくにぎやかで元気いっぱいに歌う歌手です。スラリとして背が高く、父さんとはあまり似ていない美男。ソロボーカルで、ギターを片手に舞台いっぱいに動きながら歌います。ハジメちゃんは見たことがありますが、若い女性のお客さんが、キャアキャアさけびながらさわいでいますよ。でも、ハヤトさんの歌はにぎやかなだけで、とてもジョウズには聞こえないンですねぇ。
 父さんはいつも、
 「オレもハヤトも漁師の息子。オレは足を悪くして船に乗ることができなくなった。代わりにハヤトが船に乗ってくれる、とオヤジ(ハジメちゃんのおじいちゃん)もオレも思ったけど、女の子からキャアキャアさわがれる歌の道へ入ってしまった。ハヤトは、もうすぐに三十の声を聞く。いつまでもヤクザな仕事に就(つ)いていると、そのうちに行きづまるンだがなぁ・・」
 ハジメちゃんに、グチをこぼすんですねぇ。
 ハヤトおじさんは、家へあそびにくると、かならず、お菓子などのおミヤゲを持ってきてくれます。おじさんは香水をプンプン匂わせ、かっこいいスーツを着て、陽気に話します。でもこのごろ、なんだかクライ顔。父さんと話しているのを聞いていると、ライブをする会場の費用が高いとか、お客さんがスゴク少なくなったとか、新しい曲が作れないとか、泣き言ばかり。父さんが、
 「ソロソロ、オヤジの手伝いをしてみるか?オレが話をつけてやってもいいが」
 「・・・・・うーん・・・」
 ハヤトおじさんは、おじいちゃんの後を継(つ)いで漁師になるのが不安。長いあいだ、歌の世界にいたのでチカラ仕事の漁師はムリ、とため息をつくんですよ。ハヤトおじさんは、まだまだ自分の歌に心残りがありました。おじいちゃんの漁師を継いで、海へ戻りたくないようです。

 おじいちゃんは、とても元気で天気がよければ海へでます。
 海は大漁(たいりょう)のトキもありますが、何ヵ月も不漁がつづくことも。思いがけないアラシに出遭(であ)ったり、「三角浪」という巨大な波で遭難(そうなん)しかけたり。海へでたら、ぜったいに気をぬけない時間がつづくンです。
 海の男は船に乗ったら命を懸(か)けているンだ、とおじいちゃんがいったことがありました。もちろん、海にね。ハヤトおじさんは、海に男の命を懸ける勇気がないのかな。チラッと父さんがいいました。
 海はハヤトおじさんのライブの舞台のように、ハナヤカなところがありません。
 ハジメちゃんの父さんやハヤトおじさんが、生まれて育ったはじまりは、おじいちゃんとおばあちゃんが暮らした海の世界があったから。父さんも体が丈夫であれば、まちがいなく漁師になっていたといいます。おじいちゃんは、
 「海は儲(もう)からなくってね、生活をしていくのがタイヘンなんだ。ハヤトが歌の世界にはいりこみ、海へ帰りたくないきもちはよくわかる。だからおじいちゃんの代々つづいてきた漁師の家は、ここらへんでト切れてもしかたがない。でも・・・ハジメちゃんが・・・大きくなって漁師をやりたいっと希望をもったら、それはそれでおじいちゃんはとてもウレシイ!」
 おじいちゃんは「ハジメちゃん・・・」といって本当はハヤトおじさんといいたかったとおもいますよ。でも歌の道へはいった、いまのハヤトおじさんではねぇ・・・・・
 

 このごろ本当に不景気で、ハヤトおじさんが歌のライブを開いても、お客がまったく集まらなくなりました。集まらなければ歌で生活している、おじさんはお金にこまります。独身で気楽だ、と強がって見せますが、フトコロはいつもサミシイはずだと父さんが。
 ハヤトおじさんのエライところは、どんなにこまっても、ヤミ金業者といわれるコワイ男たちからお金を借りないところ。父さんがホメていました。多くの名もない歌も売れない歌手が、じぶんのハデな生活をつづけていくために、コワイ男たちからお金を借りるとか。どんなにコワイのかは、小さなハジメちゃんにはわかりません。でも、恐ろしそうに話す父さんのヨウスから、だいたい想像ができます。きっとモンスターのようで、お金を返さなかったら、ボコボコにされるのかもね。
 ある日、父さんが、
 「ハジメ!ハヤトおじさんは、カッコウいいか?」
 「うん。とてもカッコウいいよ。若い女の人が、いつもそばにいて楽しそうに話しているし、テレビのスターみたいだし」
 目をキラキラとかがやかせて、ハジメちゃんは答えます。父さんは、
 「そうか・・・・こんどハヤトおじさんがきたら、ハジメが思った通りを、いってよ。とてもよろこぶと思うから・・・・・」
 父さんは、ちょっと暗い顔でいいました。
 ハヤトおじさんは、とうとう歌をやめるようなのです。だから、家へきても、サワヤカナ笑顔がないのでした。
 父さんはハヤトおじさんを、元気づけるためにハジメちゃんにそうたのんだのかなぁ。それとも何か別の思いがあるのかなぁ。

 海で仕事をするおじいちゃんにたいして、おばあちゃんが家を守っています。そのおばあちゃんが心臓病でたおれてしまいました。大事をとって、徹底的(てっていてき)に治療するために入院したまま。
 ハジメちゃんは、父さんや母さん、サチエお姉ちゃんといっしょに、病院へお見舞いに。おばあちゃんは、案外に元気でハジメちゃんを見てスゴイよろこびよう。ハジメちゃんは、小さいときのおじいちゃんにそっくりだといいます。おじいちゃんはおばあちゃんの幼馴染!
 ハジメちゃんぐらいの幼いときから、家も近所で、育ってきたそう。おじいちゃんは、
 「おじいちゃんは海で人魚姫を見つけて、オヨメサンにしたんだよ。それがお前のおばあちゃん。おばあちゃんは、幼馴染だけど、実は人魚姫だったんだ」
 ハジメちゃんは、おじいちゃんの話しに、本当かなぁ?
でも、本当におばあちゃんが人魚姫で、小さいときからおじいちゃんのそばにいたとしたら、とてもすてきですね!
 ハジメちゃんと父さん、母さん、それにサチエお姉ちゃんが、最初に病院へお見舞いに訪れたときに、病室のおばあちゃんのそばに、ハヤトおじさんがいました。とても無口で、顔には無精髭(ぶしょうひげ)がのびたまま。身だしなみのよい陽気なハヤトおじさんにしては、ビックリするほどの変わりよう。
 
 二回目の休日に、こんどは父さんとハジメちゃんだけで、おばあちゃんのお見舞いにきました。
 おばあちゃんは、来週は退院するそう。
 母さんとサチエお姉ちゃんは、用事があるので、後からくると父さんがいったときに、ハヤトおじさんが病室へ入ってきました。さっぱりした服装で、ヒゲも剃(そ)っています。この前の陰気(いんき)な顔で無精ヒゲのハヤトおじさんとはちがいました。手には白いバラの小さな花束。花の香りが、病室をいっぱいにします!
 ハヤトおじさんは、おばあちゃんのベッドへ近づくと、オズオズと花束をさしだし、
 「母ちゃん。あしたはクリスマスだね。オレはケーキをたのむのをわすれたんだ、いそがしくってね。この病院の近くの花屋で、母ちゃんのすきな白いバラを買ってきたよ。クリスマスケーキだと思ってほしい」
 おばあちゃんは、うれしそうにハヤトおじさんが持ってきた花束を受けとりました。
 本当にうれしそう!
 おばあちゃんの笑顔を見たハヤトおじさんは、力なくハハハハッと泣き笑いの顔で、
 「母ちゃん。本当はあしたのクリスマスケーキをわすれたんじゃなくって、金が足らなかったんだ。収入も一定(いってい)しないヘタな歌手のオレは、いつも金がたらない。金がないクセに金遣いがあらく、だからいつもピーピー!
 でも、クリスマスには、オレはどうしても母ちゃんにプレゼントをしたかった。サイフには安い花代ぐらいしかなかった。持ってくるのには気が引けたんだけど・・・」
 「いいんだよ、母ちゃんは、ハヤトの花束を待っていたんだから。でも、何がいそがしかったの?」
 おばあちゃんは訝(いぶか)しげな顔でハヤトおじさんを見ます。ハヤトおじさんは、少しためらいましたが、
 「こんどオレは歌をやめることにした。もうヘタな歌を歌いつづける歳ではなくなったしね。オレは父ちゃんの仕事を手伝うことに決めた。歌をキレイさっぱりにやめて、もとにもどらないために、アンちゃん(ハジメちゃんの父さん)に大事なギターを処分(しょぶん)してもらった。じぶんではどうしても歌の命のギターが、処分できなかった。ギターを持っていると、父ちゃんの仕事を手伝う決心が鈍(にぶ)りそうで。
 ・・ああ、オレは歌がだめだから、父ちゃんの仕事を手伝えばいいや、というアヤフヤナ気持ちはもっていないからね。安心してよ。
 オレは遠回りをしたけど、漁師の息子だということに、やっと気がついたみたい。
 ・・・母ちゃん。これからもよろしくお願いします」
 おばあちゃんは涙ぐみながら、手をのばしハンカチでハヤトおじさんの顔をふきます。ハヤトおじさんも顔を歪めて涙を流しているのでした。大きな大人のハヤトおじさん。白いバラの花束を抱えたおばあちゃんに、まるで子供のように涙をふいてもらっている光景!
 ハジメちゃんが見たこともない光景。ハヤトおじさんがなぜなのか、とてもカッコウいい男に見えました。
 
 しばらくして、にぎやかな声と共に母さんと、クリスマスケーキの箱をかかえたサチエおねえちゃんが、病室へ入ってきました。用事で後から来るといったのは、じつは頼んだケーキを取りに行ったからです。おばあちゃんのベッドをかこんで、母さんがケーキを切り分けはじめます。
 ふいにケータイがなりました。父さんがでて、
 「ああ、おじいちゃんから電話。あしたのクリスマスには、大漁の船で港へ帰ってくるそうだ。今ケーキを食べていると言ったら、オレにも一切れ残しておけよ、だって」
 ハジメちゃんの母さんは、とっくに別の皿へ、おじいちゃんのケーキを切り分けてありますよ。
 みんなでにぎやかにケーキを食べています。おばあちゃんはケーキを食べながらも、ハヤトおじさんが持ってきた白いバラの花束を離さないんですよねぇ。
 とても気に入っているみたい。
 おばあちゃん!
 あしたはクリスマス!
 愛すべき子供や孫にかこまれたおばあちゃん!
 メリークリスマス!
 あしたは大漁の船で、おじいちゃんが港へ帰ってきます。
 おじいちゃんにもメリーメリークリスマス! 


 わたしは本業のタクシーが忙しくなりましたので、書き込みは来年までお休みにいたします。
 もうすぐにやって来るクリスマス。皆様へメリークリスマスの心を伝えたいと思います。
 来年も皆様の御繁栄と御健勝のほどを、切に願います。
 メリーメリークリスマス、そしていいお正月を。
 
      光
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異邦人のリポート「サンパウロの情景 」  光

2012/12/04 09:27
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 メガロポリス、サンパウロではこの半年間に、約100人の警官が殺害されたという。いずれもバイクに二人乗りの、組織暴力団の男たちに白昼(はくちゅう)、あるいは薄暮(はくぼ)、あるいは深夜においてである。犯人は例外なく銃撃で警官たちの命をうばっていた。サンパウロでは、白昼からバイクに乗った街のナラズモノたちに、おそわれる事件が多発しているのだ。
 ブラジルは、異常気象による干ばつや洪水で、経済がよわっていた。
 干ばつのために広大な牧場で、牛がヤセこけて、死んでいるシーンがテレビ画面にでてくる。温暖化は、南米はじまってイライのひどい乾季を引き起こしていた。
 このころになって、雨がふりはじめようやく人々は愁眉(しゅうび)ひらく。雨のめぐみのありがたさを感じているようだ。毎年に干ばつのヒガイがあるのに、方法がこうじられるのがオソイ!
 国土があまりにも広すぎて手がまわらないらしい。
 人口は早くから1億8千万といわれているが、2億人を超えているのでは、という人もいた。メガロポリス、サンパウロやリオなどに人口が集中して、広大な牧場には人の気配がすくない。

 ブラジルは人種のルツボといわれて久しい。
 その真実は、白人系35%黒人系35%そのほかはアジア系、先住民族系インディオ、ヨーロッパ系、中近東系などで人口が構成されている。街を歩いてみて、目につくのは黒人や白人と黒人の混血の子孫。いわゆるmoreno.morena(モレーノ、モレーナ)といわれる人々である。
 世界的な祭りのカーニバルで、ハナヤカに仮装して踊り狂う人々が、ほとんどを占めている人種。一方、政治の上層部、経済や、学研はほとんど白人系で占められていた。
 まずしい人々が国民の大多数を占める黒人系へ集中しているのが、アメリカとまったくおなじ。黒人系の祖先は、遠くアフリカからドレイとして、新大陸へ連れてこられた悲しい歴史がある。
 げんざいは奴隷制度はなくなったが、なぜなのか経済や政治の分野(ぶんや)では、白人系が席巻(せっけん)しているのだ。大都会の商店の経営者がほとんど白人系なのを見て、社会がフシギに思わないのがわたしにはフシギである。州知事、警察署長、裁判所の判事、市長などなどが、ふえたとはいえ黒人系が少ない。これまたブラジル社会が疑問におもわないのがわたしにはフシギ!
 
 家のテレビが、サンパウロできのう起こった事件を報道していた。きのうの深夜に、非番の警官が郊外のスーパーで買い物をして帰り道、バイクに乗った暴力団の殺し屋たちにおそわれたというニュース。警官はただちに反応(はんのう)して射撃戦(しゃげきせん)になる。二人の殺し屋たちは返りうちにあい、その場であえなく射殺された!
 モンダイは私服(シフク)の警官と二人のナラズモノたちが、射撃戦をやったこと。流れ弾があちらこちらへ飛んで、民家の屋内にいた10歳の少女がギセイになってしまった。おとといはやはり私服で休暇を楽しんでいた女性刑事を、暴力団のコロシヤたちがバイクでおそい、じつに10数発の弾を浴びせて殺害!
 先にも書いたように、この半年間で警察官の殉職(じゅんしょく)が100人をこえ、社会問題までに発展しているのだ。
 とにかくブラジルは銃社会!
 銃がまるで一杯のコーヒーを飲むように、カンタンに手にはいる。わたしでもサンパウロの自宅には、まだ3丁の拳銃が、寝室のタナの奥にしまわれている。拳銃に装てんする弾(タマ)も3箱。一箱には50発の弾が入れられている。ブラジルでは拳銃とか猟銃、カービン銃などは、街の釣具屋さんに陳列されて売られている。警察署から証明書をもらう必要がある。それさえヨウイできれば、高性能のヨーロッパの拳銃でも買える。じぶんの身はじぶんでまもる、というのがカトリックの教え。身をまもるのには拳銃しかないのである。
 ファベーラとよばれるスラム街では、金さえだせば証明書もなしで、カンタンに拳銃がかえる風景があった。これがあたりまえの風景で、銃社会ではない日本人にはとてもリカイできない。宗教から根ざしている、じぶんの身を守る武器を持つ、という文化があるのだ。

 ブラジル社会で、黒人系の人々の犯罪率(はんざいりつ)が高いのは、ひとえに貧しいからという。
 何か事件がおこると、すぐにどこそこのモレーノ(黒人系、男)ではないか、と人々はムイシキに想像してしまう。いつかはブラジルにも、黒人系大統領があらわれる日が来るだろうが、わたしにはまだまだ遠いという思いが強い。まず黒人系の人々は、みずから犯罪の発生(はっせい)をなくすドリョクが必要。いつまでも、じぶんたちは社会から虐(しいた)げられ、そのタメに貧しいのだ、という言い逃れは、もう通用しない。どんなことにでも、カミサマに頼り、カミサマのせいにして、犯罪に走る他力本願(たりきほんがん)の気持ちをなくしてほしいもの。なんとなれば、ブラジル人は、本当はとても人ナツコく人情にとみ、親切で、太陽のように熱い心をもった人々の集団!

 わたしがサンパウロへ来るたびに、イヤナ思いがするのは、殺人事件のとびぬけた多さ!
 サンパウロで警察官が、組織的暴力団のターゲットになっているおそろしい現実!
 犯人を捕らえても、収監するプリズンが足らない現実!
 取るにたらない軽犯罪者?は、国や州が定めるフィアンサ「補償金」とよばれる金を裁判所へつみ立てると、ただちに街へ放たれてしまう。そこにはアメリカのように訴訟社会が横たわっていていて、悪徳の弁護士たちがウヨウヨと泳ぎ回っているようだった。
 もう来年まで数ヵ月!
 ブラジル人たちにとって、待ちに待ったカーニバルの大祭がやってくる。
 この世界一のカーニバルの祭りに、顔をだす人々はほとんどがスラム街の住人。面白いことに彼らが仮装するのは、イニシエのブラジル貴族の人々!
 じぶんたちを遠くアフリカから、ドレイとして買い入れた、ポルトガル帝政時代のポルトガル貴族!
 広大な農園で人間性をムシしてこき使い、ブラジルの底辺(ていへん)の貧しい社会を現代に残したポルトガル人貴族!
 白人系のポルトガル貴族に、黒人系の人々はかぎりないアコガレを持っているかんじであった。白人の貴族にアコガレるのは、じぶんたちの低い社会的地位に対する、コンプレックスの表れ?

 毎日に起こる殺人事件。よくもまあ、人がカンタンに殺されるものだ、とわたしはため息がでる。こんなに人が殺されていいわけがない。一ヵ月のサンパウロの殺人事件が、東洋の国の日本の一年の殺人事件の何倍にもなる、とニュースキャスターが慨嘆(がいたん)しているシーンがチラッと流れた。目に止めたのは、その東洋の日本から久しぶりにサンパウロへ訪れた年配の異邦人!
 ブラジル人は、殺人なれしていて、どこかの国の殺人事件の何倍になろうが、じぶんたちの知ったことではない、と歯牙(しが)にもかけないだろう。
 異邦人は少年時代、青年時代をブラジルという熱い太陽の国のフンイキをいっぱいに浴びて過ごした。いまは日本へ帰国している。
 世界一といわれ、二番がないほど突出した治安のよい国、日本!
 その両極端にあるような、ブラジル!
 わたしにとって、いつもなつかしさがいっぱいのサンパウロなのに、久しぶりに訪れて、幻滅(げんめつ)を感じるのはこの犯罪の多さ。人がカンタンに殺されるのになれてしまった、サンバの国、太陽の国!
 年に一回の世界一の大祭、カーニバルへ情熱を燃やしつくす、愛すべき人々!
 天国で頭を抱えているカトリックの盟主(めいしゅ)であるキリスト様へ、わたしは頭痛を直す薬を送りたいものだが、さて!

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 異邦人のリポート「サンパウロ事情」   光

2012/11/24 23:38
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 セントレア国際空港を、10月28日、日曜日のルッタンザ(ルフトハンザ)機で南米へむけて飛びたつ。乗り換(か)え中継地(ちゅうけいち)のフランクフルト国際空港までの機内では、空席がめだった。飛行時間は、約、14時間!
 フランクフルトから南米のサンパウロまでは、満席!
 お客さんは白人系か中東系人で、日本からフランクフルトまでの、東洋人系の客の姿がすくない。ほとんどフランクフルトでおりてしまったようだ。二年後のブラジルでひらかれるサッカーワールドでは、このように機内はヨーロッパの人々でうまることだろう。
 約12時間で、ブラジル時間の朝の7時にサンパウロ国際空港へ到着。
 せまい座席に長時間にわたってすわりつづけていたので、ホーッと安どのため息がでる。じっさい、エコノミー席は、せまくてうごけない。人間は長時間にわたったて自由を束縛(そくばく)されると、気分がとても凶暴(きょうぼう)になるのを知った。なにを見ても腹立たしいのだ。早く税関手つづきをおえて、外をあるいてみたい。
 税関手つづきは、イガイなほど簡素化(かんそか)されていた!
 タクシー乗り場へきたのが早すぎポーッとしていたほど。だいたいわたしは、反応(はんのう)がにぶく、ポーッとした男なのだが。それにしても、ダンダン入国手つづきがカンタンになるのは、大カンゲイ。ワールドサッカーやオリンピックのときには、もっと税関手つづきが簡素化されていると思う。でなければツギツギにやってくる航空機を、捌(さば)くのはムリ!
 空港が身動きできなくなるほどパッセンジャーで、いっぱいになってしまうではないか。空港も拡張(かくちょう)がすすんでいて、滑走路がもう一本できるとか。空港内の通路をあるいていたときに、窓の外で工事をしているヨウスがうかがえた。

 到着して10月30日火曜日になった。
 わたしの家のリビングにあるテレビでは、アメリカ西海岸をおそったハリケーンのシーンが映しだされている。ずいぶんと巨大なハリケーンだ。風速100`メートルにたっした暴風雨(ぼうふうう)が、スサマジイ爪あとをのこしている。日本をおそう巨大台風のかんじだが、ハリケーン、サンディーはテレビが伝えているように、ほんとうに風速100`メーター?
 わたしが見た日本の巨大台風のほうが、もっとすさまじいかんじがする。気のせいかな?
 だいたい外国人は、災害を大げさに吹聴(ふいちょう)するクセがある。おし流されたガレキや大小の車などの、橋げたにセキ止められているシーンは、なんだか日本のほうが強烈に見える。災害の大きさを誇(ほこ)ってもしかたがないが、日本をおそった巨大台風が、サンディーより二段も三段も上のような気がしてならない。台風にそなえて、日本の家屋はジョウブに作られている。くらべて外国の建物は、そうではないかんじなのはなぜなんだろう?
 テレビで写しだされる 災害シーンで、注目したのは、ガソリンスタンドでおとなしく、じぶんの車へ燃料が供給される順番をまつ人々の姿!
 台風の被害をうけて、営業しているスタンドはかぎられている。数少ないスタンドへ殺到(さっとう)した車、車。車!
 じぶんの順番をまつ人々のまわりには、武装(ぶそう)した治安部隊の姿がない。
 以前のハリケーンでは、人々はワレサキにスーパーをおそい、ガソリンスタンドを破壊(はかい)した。そのシーンがテレビにながれていたのに、ずいぶんサマ変わりしたもの。おそらく、日本の東北で地震のあとでおそった津波にコトゴトク破壊され、甚大(じんだい)な死亡者をだした教訓(きょうくん)が生きているのではないか。
 どんな教訓?
 東北の大被害(だいひがい)に遭(あ)われた人々は、略奪(りゃくだつ)も、暴動もおこさず、モクモクとみずからの生きる道をあるきつづけた。その健気(けなげ)な人々の姿や、行動は、百万弁の説教をも無にするほどの、強烈な教えとなって、アメリカの人々にもとどいていたのではないか。
 だいたい外国では大災害へ、まず人々を鎮(しず)める治安部隊がでて、救援の手をさしのべるのがふつう。ハイチの大災害でも、救援トラック部隊がとちゅうで暴動者たちに略奪され、ろくに被災者をたすけることができなかった。外国では、じつはあれがふつうなのである!
 スーパーの略奪やガソリンスタンドの破壊もない、サンディーのとおりすぎたあとの、大いなる秩序(ちつじょ)があるアメリカ。わたしは大きな好意をもてた。世界の先頭をあるくアメリカ。わたしはこんなシーンが見たかったのである。
 
 わたしがサンパウロへ着いてから、テレビニュースでは、アメリカをおそったサンディーばかりを写しだしていた。超巨大なハリケーンである!
 気候の変化からか、世界中でおこっている台風!
 これも地球温暖化が原因の災害らしい。じつは、温暖化がなぜおこっているのかは、科学者にもわかっていない。ある仮定(かてい)の説がたてられて、そうではないかといわれているだけで、まだまだ真実は黒いベールをかぶっている!
 それにしても、台風はますますふえ、海水はますますあたためられ、わたしの町のちかくの海岸には本来はその海には棲(す)まない、熱帯、亜熱帯の魚や生物がウヨウヨ!

 11月1日の朝は肌寒く、きのうまで気温は35、36℃前後であったのに、15℃!
 寒い!
 なんなんだこのはげしい気温の上がりさがりは?
 南米はどうしても南極大陸の寒気団の勢力に、天候を左右される。大陸を南へいくほど、気温はさがり、ぎゃくに北へあがっていくほど熱帯になっていく。アマゾンやエクワドール(赤道)あたりが最北でもっとも暑い!
 窓の外を見ると、ツバメがむれてとんでいた。
 南米のツバメは夏(11月ごろから翌年の2月ごろ)にむかって、大陸を南下しつづけ、ブラジルからウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン方面へとんでいく。まちがいなくブラジルは夏の季節が巡(めぐ)ってきているのだ。2月ごろが南米の真夏で、そのころに世界最大のカルナバール(カーニバル)といわれる、カトリックの宗教際(カーニバル)が催(もよお)される。
 サッカーワールド大会も、2年後にはカーニバルの余韻(よいん)もきえないままに、はじまってしまうのか、となにやら心配になってきた。まあ、情熱のおもむくままにカルナバールを楽しんだのだから、また情熱のつづきでサッカーをやってほしい!
 じっさいにはインフラ整備(せいび)がおくれにおくれて、FIFAがヤキモキしているようだと、タクシーの運転手がいった。ブラジルの庶民は地球上最大のスポーツイベントを、やれるのかどうかをしんぱいしているヨウスが見られない。ナニゴトもカミサマの思召(おぼしめ)しのとおり、世界はまわるのだっ、と胸にクルスをきって笑いとばす。
 なるほど、ここはカトリックの国で、天にましますキリストさまが精神を支配する国。陽気な南国で、わたしが青年時代から壮年時代をすごした国で、大らかな国であった。
 サンパウロの街を歩いて気がついたのは、キレイになっていること。
 街路の凸凹や、穴が少なくなっていて、車が交通弱者である歩行人に、止まるようになっていた。すてられたゴミがあまり見当たらない。だが、街路が浸(つ)かるぐらいの豪雨がくると、どこにあったのかゴミのカタマリが、市中をながれる川や河にうず高く顔をだす。人の目につかない街角の暗がりに、ごみはすてられていて流されてくるのだ。ごみは正直なものだ!

サンパウロ、2012年11月、小雨がぱらつく寒い日

 光

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 大人のメルヘン、子供の情景「おばあちゃんのシャボン玉」     光

2012/11/17 20:01
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 タイヘイちゃんは、シャボン玉の向こうに、うれしそうな笑顔のシズエおばあちゃんを、思いだします。
 シズエおばあちゃんは、父さんの母さん。見た感じでは元気ハツラツで、よく動きまわるおばあちゃん。シズエおばあちゃんは、どうしたことか父さんと大ゲンカ!
 それから、おばあちゃんは、有料の老人施設へ入ってしまいました。
 シズエおばあちゃんは、体は別にどこもわるくはありません。タイヘイちゃんに、コショコショとナイショ話で、
 「おばあちゃんはねぇ、だれかにメイワクをかける、人間関係がいやなの。だから財産を処分して、自由にくらせる、有料の施設(しせつ)をえらんだのよ。タイヘイちゃんの父さんも母さんも、これで何の心配もなくくらせるのよ。でも、ときどきタイヘイちゃんの家へあそびに来て、おいしい料理を作ってあげるね」
 おばあちゃんは料理のプロだそうです。おいしい料理を作るのがすきで、作った料理を、おいしそうに食べてくれるタイヘイちゃんが大すきだそうです。

 きょうは敬老の日。
父さんが朝早くシズエおばあちゃんを、施設へむかえに行って家へつれてきました。母さんがいろいろと食材(しょくざい)をそろえ、おばあちゃんは、料理の腕をふるうわけです。おいしいお昼ご飯を作ると張りきっていました。
 母さんは、シズエおばあちゃんの強力な助手というところ。でも二人で、楽しそうに相談しながら食事を作るヨウスは、タイヘイちゃんが見ていても気持ちがいいですねぇ。二人はとても仲がいいのに、おばあちゃんの実の息子の父さんとは、気が合わなくてケンカばかり。なぜおばあちゃんと仲がわるいのでしょうねぇ。
 でも父さんが施設へおばあちゃんをよびに行くと、よろこんで家へ来るんですよ。
 タイヘイちゃんを見たいためにくるんだ、と母さんがいったことがあります。おばあちゃんは、タイヘイちゃんのことを、ときどき「タクロウ」とよんであわてて、「タイちゃん」といい直すことがあるんです。タイヘイちゃんは、べつに気にもとめませんが、父さんがちょっと不安な顔。少しよびちがえただけなのに、父さん、ヘンなの!
 
 タイヘイちゃんは、来年はもう小学校へ上がります。おばあちゃんがランドセルを用意するといいます。タイヘイちゃんはライトブルーのランドセルをえらびました。おばあちゃんは、
 「タクロウ。男の子だから黒をえらびなさい!」
 タイヘイちゃんはビックリ!
 タイヘイちゃんのおどろいた顔に、シズエおばあちゃんはあわてて、
 「ゴメン、ゴメン!ヨクヨクまちがえて人の名を呼ぶのよ。ライトブルーのランドセルでいいのね?」
 タイヘイちゃんが、コクリとうなずくと、うれしそうにおばあちゃんは笑いました。
 タイヘイちゃんは、気になって父さんに、
 「ねぇ、父さん。おばあちゃん。ときどきまちがえて、ボクのことをタクロウというんだよ。だれのことなんだろう?」
 父さんは、こまったような顔でしたが、
 「父さんのお兄さんのことだよ。父さんのお兄さんは、ちょうどタイヘイぐらいの時に、家の近くにあったショウブ池で亡くなったんだ。タイヘイは、なぜなのか父さんのお兄さんのタクロウに、よく似ている。二、三年前に亡くなったおじいちゃんが話していたよ。シズエおばあちゃんは、幼くして亡くなったタクロウ兄さんが、いまだに忘れられないのさ。
 おばあちゃんはムカシのコトを、ほんとうにヨクヨク思い出すようになったんだ。これはよくない前兆(ぜんちょう)かもしれないので、父さんは心配している」
 タイヘイちゃんは、父さんに、お兄さんがいたことを初めて知りました。タイヘイちゃんぐらいの幼い時に、ショウブ池で亡くなったそうです。でも、ショウブ池は今では、ほとんど埋め立てられて、わずかに菖蒲(しょうぶ)の群落(ぐんらく)がのこっているだけ。子供がおぼれるような深くて大きな池ではありません。まあ、イネを植えるタンボのような、浅い池なんですよ。
 
 シズエおばあちゃんと、母さんと小3のユキエお姉ちゃんの声が、リビングから聞こえています。おばあちゃんの指揮で、ごチソウが作られている声です。父さんとタイヘイちゃんはジャマなので、庭へ出てシャボン玉をとばしていました。父さんの作るシャボン玉液は、なかなか強いもの。シャボン玉が大きくふくらみ、風にもこわれにくい。風に乗って遠くまで飛ばせます。
 やがておばあちゃんが、ごちそうができた、とよびに庭へ出てきました。
 タイヘイちゃんのそばへ来ると、
 「まあ、大きなシャボン玉!たのしそうねぇ、おばあちゃんにもストローをかしてちょうだい」
 タイヘイちゃんは自分のストローを、おばあちゃんへ渡します。おばあちゃんはまるで子供のように、キャアキャアさわぎながら、ストローでシャボン玉をとばしはじめました。つづけざまにシャボン玉が上がります。風が止まりいくつものシャボン玉が、すぐ近くでフワリフワリ!
 「見てごらん、シャボン玉が虹色にかがやいているわ。フシギなものねぇ。シャボン玉に虹が光っているのよ」
 特別大きなシャボン玉が、おばあちゃんのストローから生まれました!
 シャボン玉は風がないので、下へ下へと落ちていきます。おばあちゃんは、あわてて手をさしのべて、シャボン玉を支えようとしました。でも、シャボン玉は、ふいにパチッとおばあちゃんの手のひらで消えてしまいます。
 おばあちゃんは、またストローで大きなシャボン玉を作ります。こんどは風がすこし出てきたので、大きなシャボン玉はフワリと浮かびます。おばあちゃんは、コワイ顔をしてシャボン玉へ手をのばします。シャボン玉は、ユラリとおばあちゃんの手をかわし、空へ。おばあちゃんはまた、手をシャボン玉へのばして行きましたが、トツゼンにシャボン玉は消えてしまいます。おばあちゃんは、
 「・・・タクロウは、あたしの手から池に。シャボン玉は、あたしの手から消えた。生まれてすぐに消えたのよ」
 あっ気にとられてタイヘイちゃんがおばあちゃんの顔を見ます。
 おばあちゃんの唇がブルブルとふるえています。父さんがあわてて走りより、
 「か、母さん。ごチソウが冷めるといけないから、部屋へもどろうか」
 大事そうにおばあちゃんの肩を抱いて歩きます。チラリとタイヘイちゃんを見て、
 「ホラホラ!タイヘイ。ごチソウがよんでるよ。父さんが食べてしまうからな」
 タイヘイちゃんは急いで、おばあちゃんのそばへよると、
 「どうしたのおばあちゃん?」
 「エッ?ああ、ちょっと気分がわるくなったのよ。でも、もうダイジョウブ」
 「シャボン玉を見ると気分がわるくなるの?」
 「・・・シャボン玉があたしの掌(てのひら)で消えたことで、気分がわるくなったの。ちかごろヘンだわ。ときどき、とんでもないことを思い出して、気分がわるくなるの」
 父さんはイヨイヨ悲しそうな顔。おばあちゃんの顔色はわるく病気になったのかなぁ!
 食事がはじまると、おばあちゃんは元気になりました。でも、父さんの表情は暗いままで、それを見た母さんも、ちょっと沈んだ色が顔に出ていました。

 おばあちゃんのグアイが、急速にわるくなっていきます。
 父さんはお仕事を休んで、病院のおばあちゃんにつき添(そ)います。母さんも、ヒマを見ては病院へ行きます。タイヘイちゃんには、なんだかコワイ予感が。ユキエお姉ちゃんに、
 「おばあちゃん。だいじょうぶかなぁ。あんなに元気だったのに、トツゼン、病気になるなんて」
 「おばあちゃん。重い認知症になりはじめたンですって・・・・」
 タイヘイちゃんは、少し考えます。おばあちゃんは、父さんのお兄さんになるタクロウさんの死を、シャボン玉を見たトタンに、思い出してしまいました。でも、おかしいですねぇ、ムカシの悲しい思いでを、いままで忘れていたのでしょうか?
 その疑問(ぎもん)を、家へ帰ってきた父さんに聞きました。父さんは、
 「おばあちゃんのムカシの、とても強い悲しみは、心へ閉じこめておいたんだ。忘れたわけではないよ。どんなことがあっても、閉じこめた悲しみは、外へは出ないはずだった。でも、心が壊(こわ)れてきて、かくしていた思い出がでてきたのさ」

 おばあちゃんは、どんなに元気そうに見えても、お年寄りです。父さんが、
 「人はだれでも命の長さをもっている。人はゼンブ、その長さがちがうんだ。元気で病気一つしたことがない、とジマンのおばあちゃん。でも、心の病気をトツゼンに患(わずら)うのは、おばあちゃんにその時が来たんだと、父さんは考えている。おじいちゃんを亡くしてから、父さんにはわかっていたことだけどねぇ」
 「どうやって分かっていたの?」
 するどいタイヘイちゃんの質問に、父さんはおどろきます。父さんは言葉を濁(にご)そうとしましたが、思いなおします。小さな子供でも、やがてやってくる祖母の真実のことを、誠実(せいじつ)に話しておかなければと考え、
 「タイヘイも知っているだろう、おばあちゃんは、なにやかやと言って、家へひきこもり、だれとも話さなくなったことを。おばあちゃんには、だれとも話さない静かな環境(かんきょう)よりも、みんなと話し合う賑(にぎ)やかな場所が必要だったんだ。家へ引きこもらせない場所が、おばあちゃんのえらんだ施設なんだよ。父さんと大ゲンカをして、施設へ移ったんだけど、でも、心の病が来るのを防げなかった。おばあちゃんにソノ時がきたんだと、父さんはいやでも思い知らされた」
父さんは、少し涙ぐみます。あまり見たことのない、父さんの涙!
 
 タイヘイちゃんは、思い出します。
 シャボン玉を吹く、うれしそうなおばあちゃんの顔を。いくつものシャボン玉には、おばあちゃんの顔が写っていました。いくつものシャボン玉に、虹が光っていました。もしかして亡くなったタクロウさんが、シャボン玉に入っていたのかなぁ?
 だから消えたことで、おばあちゃんは悲しくなったのでしょうか?
 このごろでは、おばあちゃんの顔が変わってきています。まるで別人のように変わって来ているんですよ。でも、父さんのお母さんで、タイヘイちゃんの大事なおばあちゃんなんです。


 やがてやってくる祖母の真実。小さな子供にでも、誠実に話す父さんがいるんですねぇ。
 来週は、サンパウロ訪問記を書こうと思っているのでよろしくね。

 光
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大人のメルヘン、「ある海からの質問」    光

2012/10/14 07:46
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 タケオはサーファーで、夏には波のりに夢中!
 暑い夏の日の中で、肌を焦(こ)がしながら、一日、波のりですごす。タケオはスポーツマンなので、すきな波のりに費(つい)やす時間はおしくなかった。ぎゃくに、時間がたりないとかんじるぐらいだ。
 台風がとおりすぎて海もだいぶんにおさまる。タケオは、サーフボードをかかえて浜辺へやってくる。浜を管轄(かんかつ)する消防や警察が、まだ波が高く、サーフにはじゅうぶんに気をつけてと注意した。タケオは心底ではセセラ笑いながら聞いていた。じぶんをだれだと思っているのだ。サーフの競技ではいつも入賞している男。ベテランの部類にはいる人間なのに。波が荒いからきているのであって、荒くなければ海などこないのだ。
 
 八月の海に、タケオは強い思い出があった。強いというか、コワイ思い出。
 あの日、海は荒れぎみで、波のりには危険な高い波が、押しよせていたのだ。波をうまく乗りこなし、サーフボードはオモシロいように海面をスベル。波の頂上から、まるで谷底を見下ろすかんじで、すべりおりていくときのソウカイな気分!
 スリリングな気持ちが何物にも代(か)えがたい!

 その日にかぎって、タケオは動きがにぶかった。
 カゼをひいていて、少し熱もあったのだが、若さで押しとおして海へくる。母にとめられたが、とめられるとヨケイに波のりに、闘志(とおし)をもやすのが、タケオの悪いクセ!
 いつものように、高い波の頂上へサーフボードをのりあげ、すべりおりようとしたときに、目まいがした。
 体がグラッとかたむいたと思う。タケオは仰向(あおむ)いた状態で、波の頂上から海面へ落ちる。高さが五、六メートルはあっただろか、タケオの背中がもろに水平な海面へぶち当たった。
 ひどいショックが体を走り、タケオは気をうしなう。近くにいた仲間のサーファーに助けられて、タケオは岸辺まで運ばれた。背中を痛めてしまったのである。
 脊髄(せきずい)を損傷(そんしょう)して半身がマヒしていたが、タケオは楽観していた。じぶんはまだまだ若い。じじつ、二十歳をすぎたばかりの青年であった。
 タケオが運がよかったのは、献身的(けんしんてき)なカイゴをしてくれる両親がいたこと。とくに母は気の強い女性で、何かとモンクをいいながらもカイゴの手をぬかない。おかげで半身不随(はんしんふずい)になる、といわれながら、奇跡的に回復の兆(きざ)しを見せはじめる!

 はじめに両足の指がうごきはじめ、つぎにヒザがじぶんの意思で曲げられるようになる。つかまり立ちをしながら、わずかずつ歩行もできるようになった。気丈(きじょう)な母は、タケオのヨウスを見て、涙を流した。めったに涙を見せない母なのに!
 「タケちゃん。カミサマがお前に、忘れていた下半身の自由を持ってきてくれたのよ。大事にしなくっちゃあ」と母がいうと、
 「オレもタケオは、寝たきりになると心配していたが、若さというものは大したものだ。まちがいなくカミサマがタケオに、自由に動く体をもどしてくれたんだ!」
 両親は、しきりにカミサマが忘れ物をもってきたという。家の代々の宗教は日蓮宗。なのにホトケサマとはいわずカミサマというのが奇妙なのだが。

 あれから一年以上もすぎた。ケガから立ちなおり、いまはほとんど常人(じょうにん)の若者と変わりがないほど。
 だが海へあまり、タケオは足をむけなくなる。
 こわいのである。
 またサーファーの魅力(みりょく)にとりつかれ、波のりをはじめるにちがいない。一度あることは二度ある、二度あることは三度ある、と暗(あん)にジコを仄(ほの)めかせて母親はいうし。タケオはその通りだと考える。海へ行かないにこしたことはない。
 それでも、青々とした海の魅力は、タケオの心から失われることはなかった。

 タケオは明朗(めいろう)で頭のいい青年。両親のジマンの息子であった。ジマンの息子はある大きな食品会社に就職(しゅうしょく)。たちまちのうちに頭角(とうかく)をあらわし、職場での地位もたしかなものとなる。近ごろでは、半身不随だったケガを感じさせないほど、正常な動きを見せる。タケオが寝たっきりの生活を、一年以上すごしたといっても、信じない人が多い。完全にタケオは、ケガから回復したようにみえた。

 母親は、たまの休日に、自室でボンヤリとすごす息子が気になっていた。
 若いンだから、外で羽目をはずして遊べばいいのにと思う。タケオはサーファーなかまや、学校からの幼ともだち、職場の同僚など、つきあう人が多い。このごろ、少しずつ、タケオはつき合うのを、さけるようにしているのがかんじられる。なぜさけているのだろう?
 タケオは休日の前の晩には、かならず深夜になって帰宅する。どこかで飲んでくるらしく、ベロンベロンに酔っていた。何かに悩んで酒をあおっている感じに、母親は見える。
 何を悩ンでいるのだろう?
 母親は、タケオも年ごろなので、恋人のことかと考える。タケオは母親に似て、眉目秀麗(びもくしゅうれい)の青年。人受けが非常にいい。まったくの好青年!
 
 ある連休の深夜、タケオが酔っぱらって帰ってきたときに、両親はテーブルをかこんでビールを飲んでいた。
 両親もナカヨく酒を飲むことがある。タケオがいっしょに飲むことはない。タケオはだれかと顔を合わせながら飲むのがきらいらしい。それが両親でも。
 今夜はちがった。両親のテーブルにいっしょに座り、
 「ボクにもビールをくれないか。今夜はボクが悩んでいることを、どうしても聞いてもらいたい気分なんだ」
 母親は笑いながら、冷たい缶ビールを持ってくる。タケオはゴクゴクと飲み、
 「じつは、ボクはこの前、つき合っていたヨシエさんと別れた。ボクがどうしてもヨシエさんとつきあえない理由の、医師の診断書(しんだんしょ)を見せてね」
 タケオは泣き上戸(じょうご)なのか、もう涙を流しながら立てつづけにビールをアオル。
 母親はケゲンな顔。そばの夫を見る。タケオの父親は肩を竦(すく)めて見せる。父も何のことかわからないらしい。母がオソルオソル、
 「なんなの医師の診断書つきの説明って?」
 「ボクがセックス不能の男という診断書なんだよ・・・母さん。ボクは見てのとおり、あのひどいケガを完全に克服(こくふく)したつもり。でも、それは見かけだけだったんだ。
 ・・・・じつはセックスについては、麻痺(まひ)したままなんだ。じぶんではとてもセックスに関心があり、ステキな女の子に気分はソソラレル。でも、ボクの性器は眠ったまま・・・・・以前はオシッコを知らないうちに漏(も)らしていたけど、いまはそれはなくなった。ボクのセックスは女を抱こうとしても、何の反応もないんだ・・・・・立たないンだよ。母さん・・・・・立たないんだよ」
 タケオは一気にいうと、オイオイと声を上げて泣きだす。
 母親はアゼンとして、子供のように泣く息子を見ていた。スポーツマンのようなリッパな体をしているのに、セックスができないという。下半身マヒの人は、セックスにも異常をきたし満足な夫婦生活ができない、と母は聞いたことがあった。タケオが泣きながら、立たない!とわめいたのは、男性性器が用を足さないということなのだ。母親はどうしていいのかわからず、夫の顔を見る。ここは男同士、何とか話し合えないものか。
 タケオの父親はむずかしい顔をして、
 「タケオ。オシッコが漏(も)れることはなくなった、というのは、どういうこと?」
 「・・・・・オシッコは出るのが感じられるようになったんだ。この調子でセックスの機能(きのう)もよみがえるか、と思ったけど、大学の専門医がムリだといった。どこかでセックスを支配する神経が、切れているのか、ダメージを受けているのか。それはわからないらしい。
 でも・・・・もしかして戻るかもしれない性機能に望みをかけ、好きな女性をエンエンと待たせておくわけにはいかないんだ。結婚はセックスがすべてとはいわないけど、好きだという思いは、セックスにつながっている。キレイごとではなく、セックスによって子供を儲(もう)け、愛情の表現をし、人は生きているのだと思う。
 父さんは男だから、ボクの言わんとするところがわかると思う。じっさいに、何がなんでも、女を抱きたいと心は逸(はや)るのに、じぶんの性器が眠ったままなのは、ひどく惨め!
 ボクは、もう 何度も、そんな惨(みじ)めなシーンに遭(あ)っている」
 父親はタケオの顔を苦い思いで見る。男の惨めな思いを、男である父親はいたいほど知っている。父親も結婚してから、インポテンツになったことがあったから。おもに精神的な障害から、性不能におちいったらしい。それは、つれそう妻(タケオの母)が気長に治療(ちりょう)に協力してくれ治ったのだが。
 父も母も為(な)すすべもなく、息子の心のさけびを聞いているだけ。 
 
 タケオはヘベレケに酔っぱらった次の日には、なんだかさっぱりした顔をしている。若者は、じぶんで悩み、じぶんで傷つき、成長していくもの。ザンネンなのは、両親が息子の悩みを、聞いてやれることだけだったこと。タケオは、解決策(かいけつさく)がなくても、悩みを聞いてくれる両親に、深い平和を感じるのだった。
 
 母は、ある日、都心のデパートで息子が別れたというヨシエさんに、グウゼンに出会った。タケオの母を見たヨシエは、一瞬、顔をそむけたが作り笑顔で、
 「オバサマ。お元気ですか?」
 「ヨシエちゃん、お久しぶりねぇ」
 ヨシエは一人でデパートへ買い物に来ていた。ひどくやつれていて、タケオと別れた悲しさが尾を引いている感じだ。母は、ヨシエが息子と結婚する、と考えていたし、ねがってもいたのだが。それほどワガママな息子には、すぎた女性だと思っていたのに。
 「ヨシエちゃん。なんと言ったらいいのか。タケオがあたしに医師の診断書を見せてねぇ・・・・・あなたは、お元気ですか?」
 傷心(しょうしん)のヨシエに、お元気もクソもないはずだが、母は、そう聞かずにはいられなかった。ヨシエは、
 「・・・タケオさんは、医師の診断書をオカアサマに見せたンですか?」
 「ええ。でも、息子のむずかしい問題に、あたしも夫も、何の答えも見いだせないでいるのよ。タケオはいいました、もしかして治るかもしれない病気に希望かけても、時間が許さないって。いつ叶(かな)うのかしれない希望に、あなたをシバルことはできないというのよ。あたしは、それはもっともだと思うの」
 ヨシエは何かいいたそうだったが、涙ぐみ、頭を何度も下げてその場を去っていった。
 母親は、去っていくヨシエの後姿を見て、深いため息をつきながら、
 ・・・・まったく、家のバカ息子!あたしがサーフィンをヨクヨク止めたのに、聞く耳を持たなかったために、ケガをした。ケガはヨシエちゃんというスバらしい女性の心を傷つけ、あたしたち親の心を傷つけ、だれかの心を傷つけ。
 ・・・・でも、一つだけ救(すく)われるのは、別れたとはいえ愛する女性に、思いやりを示したこと。以前のタケオはワガママいっぱいで、他人に思いやりを見せたことはなかった。やはり、重大なケガで、相手に思いやる心を、知らず知らずの内に養(やしな)ったみたいね!・・・・
 母は重い気持ちで、デパートの中を歩く。サマザマの人々が、デパートの中を歩いている。中にはヨシエのようにやつれた顔をして、歩いている女性もいるだろう。
 一人の男のケガが、かかわる多くの人に、悲しい思いをさせている。
 母はトボトボと歩きつづける。
 一人の息子の母に代わって、「海」が質問したいと思います。
 そこのあなた。じぶんは関係ないと思っているあなた。その向こうのあなた。
 タケオはどうしたらいいのでしょうか?
 答えはないと思いますか?でも答えてほしいンですよ!



 社会がかかわる、こんなむずかしい質問に答えはないのかもしれませんね。


 光
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