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help リーダーに追加 RSS Essay 異邦人の想いで  心の病  母の香り   光

<<   作成日時 : 2008/09/27 08:56   >>

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ローザンジェラの祖父母は、父方も母方も長崎出身で、外国人の血が流れているということであった。だからローザンジェラは日本人ばなれした容姿で、東洋系ではなく白人系の感じ。しかし、キレイな黒髪である。
 縁があって東京出身のオオタと恋仲になり、結婚。
 オオタは日本の巨大商社の社員だった。ローザンジェラと結婚して間もなく、辞めてしまう。オオタは輸出会社を立ち上げた。アマゾン産のめずらしい花卉類、主にランの花を日本向けに輸出する会社だ。 ブラジル生まれの日系三世ローザンジェラが、オオタの設立した会社のために大活躍。
 結婚五年目にして、男の子ロベルトを授かり、ローザンジェラは幸せそう。五年も生まれなかったのは、ローザンジェラは、卵巣から子宮へつながる、輸卵管を患ったからである。治療に専念して、やっとロベルトが生まれた。
 ローザンジェラは健康診断のために、コンソラソン街サンタアンナ産院へでかけた。丸々と太ったロベルトは、母親に似てなかなかの美男。父親に似て、キレイな目をしていた。そして髪が黒い。
 一通り健康診断もすみ、ローザンジェラはナースステーションへ寄る。ナースステーションには、親しい看護師が何人かいた。ロベルトを近くの籐製のユリカゴに寝かせて、ローザンジェラは看護師たちと話に興じていた。
 ナースセンターへ、交代の看護師たちが詰めかけてきた。ローザンジェラは帰ろうとして、ユリカゴを覗く。ユリカゴの中には、ロベルトの姿はなかった。
 姿のないわが子を求めて、ローザンジェラは悲鳴をあげる。
 消えたロベルトをさがして、病院は大さわぎになる。だれがユリカゴのロベルトをつれて行ったのだろう?
 ナースステーションへ入ってきたのは、ほとんど女性の看護師。もしくは看護師のユニフォームを着た女性だけであった。母に気づかれずに息子は連れ去られた。ロベルトはユリカゴの中で眠っていたにちがいない。だからだれにも気づかれずに拉致された。
 ブラジルでは捨て子が実に多い。しかし、サンタアンナ産院など産院を狙って、生まれたばかりの子供を誘拐する事件も多発していた。誘拐された赤子がもどってくる確率は、おどろくほど低い。奇跡でもおこらないかぎり、子どもが帰ることはない。
 幸運なことに、ロベルトを抱えて産院を走りでてきた女が、通行人にぶつかり顔を見られたこと。女が乗りこんだ白い車のナンバーの、下二桁の番号が判明。車種はブラジルでは超高級車のベンツセダン。いくつもの犯人の手掛かりが残されていた。
 すぐに犯人逮捕と思われたが、はかばかしくない。依然として、ロベルトの行方は知れなかった。

 ローザンジェラは、毎日狂おしい時間をすごしていた。
 神に祈った。
 ローザンジェラは真夜中に目をさまし、キッチンへ消える。泣きながら何かをしている。夫のオオタはようすを見にいく。キッチンではローザンジェラは、片手で乳房をしぼりながら、乳をコップに取っているところだった。オオタは黙ってコップを支えてやる。ローザンジェラは、
 「乳房が痛くてたまらないのよ。お乳がたまっているの。あたしの乳房は、ロベルトが居ないのを知らない。どんどんお乳を出してくるのよ」
 夫は一言もない。ローザンジェラに、何をしてやったらいいのかも分からない。真夜中に妻は幾度となく起きだし、涙とともに母の雫(しずく)を、乳房からしぼりだす。オオタは黙々として、ただ手伝うだけ。ときどきローザンジェラは、
 「あなた、ロベルトはいつ帰ってくるのかしら?」とかなしい質問をする。
 実はオオタは警察から、密かにしらされていた。犯人が特定され、ロベルトを取りかえすべく慎重に捜査がおこなわれている。犯人を追いつめると、拉致した子供の命を絶つ恐れがある。拉致したのは女。女を説得するのに高名な神父が奔走していた。子供の安全のためにも、母親には事態を知らせないでほしい。ローザンジェラが、子供恋しさに突発的な行動にでると、犯人を刺激し悲劇的な結果になりかねないのだ。
 くるしい沈黙をつづける夫のオオタ。
 ロベルトが拉致されて、一ヶ月がせまってきている。ローザンジェラが、
 「あなた、赤ちゃんは、あたしのことを忘れてしまうんじゃないかしら?」
 「なぜ、そう思うの?」と夫はおだやかに聞き返す。 
 「ロベルトは、ほかの女の乳房を吸い、ほかの女の体の匂いを覚えてしまう。ほかの女の声を聞き、ほかの女の顔をしょっちゅう見るのよ」
 「ローザンジェラ、自信を持って。赤ん坊は生まれた母親の匂いを、一番初めに心にすりこむそうだ。ローザンジェラは、まちがいなくロベルトの母親。待つしか、おれたちには方法がないんだよ」
 「いつまで待てというの?・・」
 はげしく泣きむせぶ妻に、オオタはなすすべくもなく立ちつくす。
 拉致されてから、明日で一ヶ月という日に神父の説得が功を奏し、犯人の女がロベルトを抱えて警察へ自首。
 幼いロベルトを拉致した女は、自身も同じぐらいの月の赤ん坊を亡くしていた。亡くした赤ん坊の代わりに、他人の子供を誘拐してきて、自分の息子に置き換えようとしたのである。
 神父は、悲しみにくれるローザンジェラのようすを、つぶさに犯人の女に話す。
 犯人の女は、自分の赤ん坊の死を確認している。失ったわが子を、他人の子供で補えるはずはない。ロベルトは自分の息子ではない。息子は亡くなっているのだ。その事実を神父に諭された犯人の女は、やっとロベルトを返す気になった。
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 警察からサンタアンナ産院へ、小さなロベルトは移された。知らせはすぐにローザンジェラへ飛ぶ。
 ローザンジェラは知らせを受けて、足がまるで地につかないほど喜ぶ。
 心の中では、半ばあきらめていた幼いロベルトの命。夫のオオタとともに産院へ急いだ。
 病室では大勢の看護師たちに囲まれて、小さなロベルトはベッドに寝かされている。眠っていた。
 ローザンジェラは、ベッドへ近よる。一ヶ月近く小さな息子は、ローザンジェラの乳房を吸っていない。それなのにロベルトは、痩せたようすはなかった。
 オオタは看護師たちに、部屋から出てもらう。これから母と子の対面があるのだ。
 ふるえる手でローザンジェラは、ロベルトを抱きあげた。
 「ロベルトちゃん、起きてちょうだい。ママがきたのよ。ママはお前の帰りを、死ぬ思いで待ちわびていたのよ」
 泣きながらローザンジェラは、ホホずりをする。
 ロベルトは目をあける。
 ロベルトはフシギそうな目で、涙に汚れた母の顔を見る。母の顔を忘れてしまったのか?
 「ローザ。ロベルトは 母の香りを、絶対に心にすりこんでいるんだよ。自信を持って。乳房の匂いをロベルトに」
 オオタがうながすと、ローザンジェラは恐る恐る乳房をだして、ロベルトに見せる。ロベルトのために母の乳房は、いっぱいに張っていた。乳頭から白い乳がわき出し、強い母の香りがロベルトの鼻を打つ。
 その香りにロベルトは、われに返ったように眼をいっぱいに見ひらき、泣き声をあげる。そして乳房にむしゃぶりついていった。
ロベルトは母の香りを、忘れてはいなかったようだ。


 19XX年X月 サンパウロにて      光

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コメント(20件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは^^ヒカルさん
凄い繋がり。。
ロベルトは母の匂いを覚えていたんですね。
それにしても再会できて、スキンシップが持てて良かった。
オオタさんも優しい…。☆彡
betty
2008/09/29 21:56
今晩は♪
リアルな描写に思わず引き込まれてしまいました。
誘拐が多発するブラジルの現状にも驚きますが 無事にかえってきたことで3倍にも4倍にも喜びが大きくなりました。。母子の絆、夫婦の愛情、厳しい現実の中にポッと灯がともるようなお話ですね
コケコ
2008/09/29 23:36
Bettyさんへ・・・以前、NHKが、赤ん坊が母のおっぱいの匂いに反応するシーンを、テレビで放映しているのを見たとき、アレッ、見たことがあるなぁと感じたものです。ロベルトが生を得て、一番初めに母を、心に刻んだのは、おっぱいの匂いでしょう。そのことを、オオタは知っていたのかなぁ。妻のローザは、一時は帰ってきた息子を片時も離さず、精神のカウンセラーが必要でした。
Donatadeshoka
2008/09/30 19:49
コケコさんへ・・・南米は「誘拐産業」と揶揄されるほど、誘拐が組織的に行われています。幼児誘拐だけではなく、金目当ての誘拐も盛んな感じ。ブラジルは南米第一の大国。それに比例して、誘拐も多いということです。
Donatadeshoka
2008/09/30 20:06
お早うございます
こんな事って実際にあるんですね
思わず引き込まれて一気に読んでしまいました
ブラジルは日本と治安状態とかが
違うのでしょうか
それにしても無事にロベルトが戻って
ホントに良かったあ
かみふうせん
2008/10/01 09:59
かみふうせんさんへ・・・誘拐はコロンビア、ベネズエラ、メキシコが有名ですが、ブラジルも凄いものです。わたしは母の神秘を、書きたくてペンに依りをかけたわけですが、伝わったでしょうか。ロベルトは母が作り出した命。それを奪われた時の母親の心のショックは、男には到底想像もつきません。
Donatadeshoka
2008/10/01 17:43
Donatadeさん、今晩は♪
映画のような「誘拐事件」でしたねぇ.。o○
誘拐事件の殆どが、身代金目当てですが、その成功率はとても低いそうです。
このお話は、我子の身代わりということなので、2人の母親の悲劇です。
・・・実は、医療事務をしていた頃、十数年間、同じ産婦人科へ通勤していましたが、医院の新生児室は玄関の横にあって、看護師の方がいつも居るわけではありませんでしたので、、、
「いつか〜痛ましい事件や事故が起きるのでは!?」と思いながら、新生児を愛でていました。
あってはならない悲劇ですね
つんちゃん
2008/10/04 22:01
つんちゃんへ・・・南米では誘拐は産業として成り立つほど、効率のいい職業らしいですよ。犯人はほとんど捕まりません。誘拐された被害者は、たいてい悲惨な結果で終わっています。
 わたくし事ですが、少し体を壊したので、ブログを休みます。また再開するまで、つんちゃん宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/05 11:18
母の母性と生まれてすぐに覚える母の匂い。
すばらしく聖なる瞬間の出来事ですよね。なのに日本では我が子を殺める事件があります。悲しいですね。
ブラジルの誘拐は何が目的なのでしょう。産業として成り立つと言うことは・・・身代金目当てですか?

お体の具合が良くないようですがお大事になさってください。読み応えのあるブログの再開を楽しみにしています。無理なさらないように
むくげ
2008/10/05 22:22
あー、よかった。無事母親の元に返れて。赤子は本当に無垢です。そういう子が人間たちのそれぞれの思惑や欲にめちゃくちゃにされることが一番恐ろしいことです。良かった、良かった。

お体、どうしましたか?ちょっと疲れましたか?お大事にね。
arara
2008/10/07 16:16
やっと授かった子供を奪われる悲しみは蛙には想像しか出来ませんが、返ってきて本当に良かった。
犯人の女性は、同じように子供を失った悲しみを自分が与えることになるということを考えられないほど、追い詰められていたのかな。
誰か、彼女を精神的に支えてあげる人はいなかったのだろうかと思いました。
青蛙
2008/10/08 16:22
こんにちは♪
毎週必ず更新されていたのに
この2週間は記事のUPがありません
どうされたのでしょうか??
何もなければ宜しいのですが・・
ちょっと心配♪
かみふうせん
2008/10/10 17:45
こんにちは。。
お体の具合はいかがですか?
いつも元気いっぱいのDonatadesyoukaさんの音信が無く寂しいですよ。。
心地よい秋風を受けきっとモリモリ元気になられることを願っていますから。。
今はいっぱい休養に専念してくださいね
復活を楽しみにまっています
コケコ
2008/10/16 10:28
こんにちは^^
更新がないので少し心配しております。
元気にまた復活してくださいネ!!☆彡
betty
2008/10/17 11:19
むくげさんへ・・・少し元気になったので、またブログを再開します、宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:31
araraさんへ、少し元気になったので、またブログを再開します、宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:33
青蛙さんへ・・・少し元気になったので、またブログを再開します、宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:35
かみふうせんさんへ・・・少し元気になったので、またブログを再開します、宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:37
コケコさんへ・・・少し元気になりましたので、またブログを再開します、宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:39
Bettyさんへ・・・少し元気になりましたので、またブログを再開します。宜しくね。
Donatadeshoka
2008/10/19 01:41

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